『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールの最新のニュータウン:テンガ開発の光景(2025年3月)

シンガポールでは、国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。
HDBが現在開発を進めている最新のニュータウンが、シンガポールの西部のテンガ(Tengah)。スマートテクノロジーが町全体に導入して計画される最初のHDBの町で、自然とコミュニティに焦点をあてた、「自然と共にある家」(At Home with Nature)が目指されています*1)。約700haの土地に42,000戸の住宅が計画されています。

テンガには、プランテーション地区(Plantation District)、パーク地区(Park District)、ガーデン地区(Garden District)、ブリックランド地区(Brickland District)、フォレスト・ヒル地区(Forest Hill District)のユニークな特徴をもつ5つの地区がもうけられています。

  • プランテーション地区(Plantation District)
    コミュニティ農業(community farming)の拠点で、コミュニティ・ファームウェイ(Community Farmway)が地区を通り抜ける。オーガニック・マーケットや、穫れたての食材を味わえる「農場から食卓まで」のダイニング(“farm-to-table” dining)のような施設も設置される。
  • ガーデン地区(Garden District)
    テンガ池とセントラルパークに囲まれた地区。庭園をテーマにしたファームウェイ(garden-themed faraway)によって絵のように美しい環境が実現され、健康的で活動的な生活を行うことができる。
  • パーク地区(Park District)
    テンガの中心地で、緑豊かな景観と森の回廊(Forest Corridor)に囲まれている。地区の中心は、車の乗り入れが禁止された活気のある場所となる。
  • ブリックランド地区(Brickland District)
    レンガを生産していたテンガの工業地帯を思い起こさせるような、レンガ仕上げの建物が建設される。地区から森の回廊(Forest Corridor)の方面には視界を遮るものがなく、都市生活と自然との相乗効果を得ることができる。
  • フォレスト・ヒル地区(Forest Hill District)
    森の回廊(Forest Corridor)と緑地に囲まれており、タウン・センターの近くにありながら、「自然の中で暮らす」(living amidst nature)というコンセプトを体現する地区。

※HDBハブの展示パネル(2017年7月)に記載内容を翻訳したもの。

5つの地区のうち、2023年8月、プランテーション地区から入居が開始*2)。2024年6月28日には、テンガ最初の近隣センター(Neighbourhood Centre)として、プランテーション地区のプランテーション・プラザ(Plantation Plaza)がオープン*3)。2024年7月21日には、パーク地区に、バスターミナルであるテンガ・バス・インターチェンジ(Tengah Bus Interchange)開業*4)。2024年末までには、ガーデン地区への入居が行われています*5)。そして、2025年3月22日には、プランテーション地区に、テンガ・コミュニティ・クラブ(Tengah Community Club)がオープンしました*6)。

最近のテンガの様子を、プランテーション地区を中心にご紹介したいと思います。

プランテーション地区

プランテーション地区は、4つの重要なアイディアに基づいて、約90haの土地に約10,000戸の住宅が計画されています*7)。

プランテーション地区の4つの重要なアイディア(4 key ideas)

  • プランテーション・ファームウェイを育む(Cultivate the Plantation Farmway):コミュニティ農業(community farming)を中心とした新しいライフスタイルとコミュニティを創出する。
  • トラベル・ライト(Travel Lite):ウォーキング、サイクリング、公共交通機関の利用を促進し、アクティブで健康的なライフスタイルを浸透させる。
  • 自然とともに暮らす(Live with Nature):バイオフィリック・タウン・フレームワーク(Biophilic Town Framework)に基づて、緑と水が住宅と調和する自然豊かな住環境を創造する
  • スマートに暮らす(Live Smart):科学とテクノロジーを活用し、住民のためのより住みやすく、効率的で、持続可能で、安全な生活環境を創造する。

※HDB「Tengah Districts」のページに記載内容を翻訳したもの。

プランテーション地区の骨格となるのが、プランテーション・ファームウェイ(Plantation Farmway)と呼ばれる、幅約40m、長さ約700mの歩行者専用の空間。住民はプランテーション・ファームウェイで開催されるファーマーズ・マーケットで、自らが育てた野菜や果物を販売したり、購入したりすることが考えられてます。

プランテーション・ファームウェイは、主要施設や公園などを結ぶ緑の回廊で、フィットネスコーナーや遊び場ももうけられています。

プランテーション地区の中心部に位置するプランテーション・プラザ、テンガ・コミュニティ・クラブは、プランテーション・ファームウェイを挟んで向かい合うように配置。プランテーション・プラザ、テンガ・コミュニティ・クラブの間は、グランド・ピアザ(Grand Piazza)と呼ばれる芝生の広場になっています。
プランテーション・プラザは、スーパーマーケット、フードコート、飲食店、小売店、サービス店舗、および教育サービスを提供する施設(enrichment centres)などが入居する独立型の新世代の近隣センター(standalone new-generation NC)。

プランテーション・プラザ、テンガ・コミュニティ・クラブのすぐ南には、MRTの新たな駅の建設が進められています。

プランテーション・ファームウェイには、2階レベルの歩行者専用の回廊がもうけられています。2階レベルの回廊は、プランテーション・プラザ、テンガ・コミュニティ・クラブ、そして、周囲のHDBの集合住宅を結んでおり、将来的には、MRTの新駅にも接続されると思われます。

プランテーションファームウェイ沿いには、自然や果物や野菜をモチーフにした遊具のある遊び場がもうけられています。これの遊び場は、想像力豊かな遊びを刺激することや、自然な会話のきっかけになることが考えられているということです。

ガーデン地区

プランテーション地区の北西に位置するガーデン地区への入居も少しずつ進んでいます。テンガ・ブールバード(Tengah Blvd)沿いには、HDBの高層の住棟が建ち並んでいます。

ガーデン地区は、緑と水が住宅と調和した街並みのある地区として開発されており、最終的に6,500戸の住宅が建設される予定。地区の中心部には平均幅約40m、長さ約900mのガーデン・ファームウェイ(Garden Farmway)と呼ばれる歩行者専用の空間がもうけられます*8)。

パーク地区

パーク地区は、プランテーション地区、ガーデン地区の北に位置するテンガの中心で、テンガ・タウンセンターは、自動車が通行できないタウンセンター(“car-free” town centre)として計画されています*9)。
2024年7月21日には、バスターミナルであるテンガ・バス・インターチェンジ(Tengah Bus Interchange)開業し、現時点で870、871、992の3路線のバスが運行しています。

パーク地区の入居はまだ始まっていませんが、HDBの高層の住棟が建設されている様子を伺うことができます。


■注