シンガポールでは、国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。テンガ(Tengah)は、HDBが現在開発を進めている最新のニュータウンで、約700haの土地に最終的に42,000戸の住宅を建設することが計画されています。
地下鉄トア・パヨ駅(Toa Payoh)駅に直結するHDBの本部(HDBハブ/HDB Hub)のホールには、HDBの最新のプロジェクトを紹介するコーナーがあります。展示パネルによれば、テンガでは次の6つの考えが取り入れられているということです。
6つの大きなアイディア
①容易に移動できる(Move Around with Ease)
テンガには、鉄道(MRT:Mass Rapid Transit )のジュロン・リージョン線(Jurong Region Line)が開通し、住宅地から徒歩圏内に鉄道駅が設置されることで利便性が向上する。さらに、バス専用レーンが計画され、よりスムーズで速い通勤が可能になる。②どこにでも歩いて・自転車で移動できる(Walk and Cycle Everywhere)
道路の両側に歩行者と自転車の専用道路が整備され、街中どこにでも安全で、シームレスな接続なかたちでの環境に配慮した通勤(green commuting)が可能になる。③緑豊かな街(A Lush Evergreen Town)
幅100メートル、長さ5キロメートルの森林の回廊(Forest Corridor)が設けられ、西部集水域と中央集水域自然保護区を結ぶ緑のネットワークの一部を形成する。また、セントラルパーク、コミュニティ・ファームウェイ(community farmways)、水路も設けられる。④5つの地区(5 Crafted Districts)
プランテーション(Plantation)地区、パーク(Park)地区、ガーデン(Garden)地区、ブリックランド(Brickland)地区、フォレスト・ヒル(Forest Hill)地区という、それぞれがユニークな特徴をもつ5つの住宅地区がもうけられる。「At Home with Nature」(自然と共に暮らす)というビジョンに基づき、住宅地区の計画やデザインには、エリアの自然遺産の要素が強く反映される。⑤緊密なコミュニティ(Close Knit Communities)
街(town)、地区(district)、管区(precinct)レベルで、容易にアクセスできる包括的な施設が提供されるため、住民は日常のニーズを満足するために街の外に出る必要がない。タウンセンター、スポーツハブ、統合コミュニティハブ(integrated community hub)、保健・医療施設などの主要施設は、セントラルパーク沿いの便利な位置に配置される。⑥スマート・サスティナブル(Smart and Sustainable)
持続可能で安全な生活環境を実現するために情報通信技術(ICT)が活用される。テンガは、2014年に導入されたスマートHDBタウン・フレームワーク(Smart HDB Town Framework)に基づいて開発される。このフレームワークは、スマート・プランニング、スマート・エンバイロメント、スマート・エステート、スマート・リビング、スマート・コミュニティの5つの主要な側面をカバーしている。
※HDBハブの展示パネル(2024年3月)より。
5つの地区が次のように紹介されています。
○プランテーション地区(Plantation District)
コミュニティ農業(community farming)の拠点で、コミュニティ・ファームウェイ(Community Farmway)が地区を通り抜ける。オーガニック・マーケットや、穫れたての食材を味わえる「農場から食卓まで」のダイニング(“farm-to-table” dining)のような施設も設置される。○ガーデン地区(Garden District)
テンガ池とセントラルパークに囲まれた地区。庭園をテーマにしたファームウェイ(garden-themed faraway)によって絵のように美しい環境が実現され、健康的で活動的な生活を行うことができる。○パーク地区(Park District)
テンガの中心地で、緑豊かな景観と森の回廊(Forest Corridor)に囲まれている。地区の中心は、車の乗り入れが禁止された活気のある場所となる。○ブリックランド地区(Brickland District)
レンガを生産していたテンガの工業地帯を思い起こさせるような、レンガ仕上げの建物が建設される。地区から森の回廊(Forest Corridor)の方面には視界を遮るものがなく、都市生活と自然との相乗効果を得ることができる。○フォレスト・ヒル地区(Forest Hill District)
森の回廊(Forest Corridor)と緑地に囲まれており、タウン・センターの近くにありながら、「自然の中で暮らす」(living amidst nature)というコンセプトを体現する地区。
※HDBハブの展示パネル(2017年7月)より。
このように5つの地区は、それぞれ異なる特徴のある地区として計画されています。
2023年8月、プランテーション地区から、テンガの入居が開始*1)。残りの4地区の開発も進められています。ここでは、2024年4月時点でのプランテーション地区、パーク地区、ガーデン地区の様子をご紹介したいと思います。
プランテーション地区
ブキ・バトック(Bukit Batok)からテンガ・ドライブ(Tengah Dr)方面の眺め。写真中央からやや左手に見える黄色と白のファサードの住棟が、プランテーション地区のHDBプランテーション・グローブ(Plantation Grove)。反対側、及び、写真正面奥に建設中の住棟がパーク地区。
ブキ・バトック・ロード(Bukit Batok Rd)から見た、建設中のHDBプランテーション・グローブ(Plantation Grove)の住棟。
ブキ・バトック・ロード(Bukit Batok Rd)のバス停(Opp Blk 443d)。手前に新しいバス停が建設されています。
テンガ・ドライブ(Tenga Dr)。左手がプランテーション地区、右手がパーク地区。
テンガ・ブールバード(Tengah Blvd)。左手がプランテーション地区の、既に入居が始まっているHDBプランテーション・ビレッジ(Plantation Village)、右手がガーデン地区の住棟。
テンガ・ブールバード(Tengah Blvd)からのプランテーション地区の眺め。左手が、HDBプランテーション・ビレッジ(Plantation Village)、右手がHDBプランテーション・グランジ(Plantation Grange)。
プランテーション地区を通り、北西のガーデン地区に向かうプランテーション・クレス(Plantation Cres)に沿って、新たなMRTの路線(Jurong Region Line)が建設されています。左手にテンガ初の近隣センター(neighbourhood centre)であるプランテーション・プラザ(Plantation Plaza)が見えます。
プランテーション・プラザは、延床面積が1万平方メートルを超える5階建ての建物で、スーパーマーケット、フードコート、飲食店、小売店、サービス、レクリエーションなど75の店舗が入居。2024年第二四半期末には、スーパーマーケットとフードコートの営業が開始される予定です*2)。プランテーション・プラザの正面には、MRTの新駅であるテンガ・プランテーション駅(Tengah Plantation Station)が開業予定です。
パーク地区
テンガへの入居開始に伴い、新たなバス路線として2023年9月に992番の路線が、2023年11月には870番の路線が開通*3)。写真は、テンガ・ドライブ(Tenga Dr)を走行する870番のバス。
テンガ・ドライブ(Tenga Dr)の東側(左手)にはパーク地区の高層の住棟が建設されているのが見えます。
テンガ・ドライブ(Tenga Dr)とテンガ・ブールバード(Tengah Blvd)の交差点。交差点の向こうにも、高層の住棟が建設されているのが見えます。
ガーデン地区
テンガ・ブールバード(Tengah Blvd)の北側(右手)にガーデン地区の高層の住棟が建設されているのが見えます。
テンガ・ブールバード(Tengah Blvd)にもうけられたバス停(Blk 231b)。
テンガ・ブールバード(Tengah Blvd)とプランテーション・クレス(Plantation Cres)の交差点付近。ガーデン地区の高層の住棟が建設されています。走行しているのは、870番のバス。
プランテーション・クレス(Plantation Cres)に沿って、MRTの高架の路線が建設されています。
シンガポールの最新のニュータウンであるテンガの様子をご紹介しました。既にプランテーション地区から入居が始まっているものの、まだまだ大規模な開発が進められており、現時点では店舗もありません。
ただし、上でご紹介した通り、2024年第二四半期末には、最初の近隣センターであるプランテーション・プラザ(Plantation Plaza)のスーパーマーケットとフードコートの営業が開始される予定です。
プランテーション地区の特徴として、プランテーション・ファームウェイ(Plantation Farmway)があります。プランテーション・ファームウェイは、子どもの遊び場、フィットネスコーナー、多目的コート、ベンチなどがもうけられた、住宅や各種施設を結びつける遊歩道。この遊歩道は、HDBプランテーション・エーカーズ(Plantation Acres)とHDBプランテーション・グランジ(Plantation Grange)の間の部分が2024年4月までに、HDBプランテーション・ビレッジ(Plantation Village)とHDBプランテーション・グローブ(Plantation Grove)の間の部分が2024年第二四半期までに開通予定となっており*4)、テンガの光景はこれからも大きく変化していくと思われます。
■注
- 1)Koh Wan Ting「‘Very inconvenient’: New residents at Tengah face blocked paths, long walks through dusty construction sites」・『CNA』October 10, 2023
- 2)Esther Loi「Supermarket and foodcourt to open in Tengah’s first neighbourhood centre by end of Q2 2024」・『The Straits Times』March 9, 2024
- 3)Isabelle Liew「Mobile grocery to serve Tengah residents; HDB taking steps to cut construction dust」・『The Straits Times』December 13, 2023
- 4)Esther Loi「Supermarket and foodcourt to open in Tengah’s first neighbourhood centre by end of Q2 2024」・『The Straits Times』March 9, 2024