シンガポールでは、様々なかたちで地域の歴史を継承する取り組みが行われています。ここでご紹介するアッパー・セラングーン・ヘリテージ・コリドール(Upper Serangoon Heritage Corridor)もその1つです。
目次
アッパー・セラングーン・ヘリテージ・コリドール
アッパー・セラングーン・ヘリテージ・コリドールは、ホウガン(Hougang)の歴史を継承するためにもうけられた4.2kmのトレイル。アッパー・セラングーン・ロード(Upper Serangoon Rd)沿いに、6つのピットストップ、2つのアクティビティ・ノードがもうけられており、ホウガン・タウンセンター(Hougang town centre)に分岐するルートもあります。このプロジェクトは、ROH(Remaking Our Heartland:リメイキング・アワ・ハートランド)という既存の街や団地をリニューアルするプログラムに基づいて行われ、2021年11月に完成。2022年のHDBアワードを受賞しています*1)。
5th Milestone
MRT北東線(MRT North East Line)のセラングーン(Serangoon)駅から、アッパー・セラングーン・ロードに沿って北東に歩くと、ヨー・チュー・カン・ロード(Yio Chu Kang Rd)を越えたところに、最初のピットストップである5th Milestoneがあります。
住所が統一される前、主要道路沿いに設置されたマイルストーンが、位置を示す目印の役割を担っていました。5th Milestoneは、アッパー・セラングーン・ロードの5番目のマイルストーン。この付近は様々な民族の居住区、店舗、マーケットがあり、1980年代以前から学校や、宗教にまつわる場所が存在していたということです。

Kew Ong Yah Temple(斗母宮)
5th Milestoneの北東にあるのが、Kew Ong Yah Temple(斗母宮)。シンガポールで最も古い九皇大帝(福建語でKew Ong Yahと呼ばれる)を祀る寺院で、ナショナルモニュメントに指定されています。

Masjid Haji Yusoff
Kew Ong Yah Templeの北東に、Masjid Haji Yusoffがあります。1921年に建設されたホウガンで最も古いモスクです。

St. Paul’s Church
Masjid Haji Yusoffの北東、フラワー・ロード(Flower Rd)の交差点の南に、St. Paul’s Churchがあります。1936年に建設された英国国教会の教会です。

Former Simon Road Market(旧サイモン・ロード・マーケット)
MRT北東線のコヴァン(Kovan)駅を越えて、少し北東に歩くと、アッパー・セラングーン・ロードとサイモン・ロード(Simon Rd)の交差点に、Simon Road Market Statueがあります。
1948年から1999年まで、サイモン・ロード沿いには、家禽類の販売で知られているマーケットがありました。家禽類を販売する人と買い求める人の象が、ピットストップとして指定されています。

Plantation Learning Green(プランテーション・ラーニング・グリーン)
アッパー・セラングーン・ロードと、ホウガン・セントラル(Hougang Central)の交差点の南側、HDBの302号棟と交差点の間に、1つ目のアクティビティ・ノードとして、Plantation Learning Greenがもうけられています。
Plantation Learning Greenは、樹木保護と生物多様性についての学習の場所で、樹木保護と生物多様性についての展示パネル、シンガポールのアーティストによる壁画などが設置されています。パネルには、ココナッツ、胡椒、ゴム、ジャックフルーツの4種類について、植物の基本的な情報や、収穫、加工などが紹介されていました。




Church of the Nativity of the Blessed Virgin Mary
Plantation Learning Greenから、アッパー・セラングーン・ロードを北東に歩くと、ホウガン・アベニュー8との交差点の南側に、6つ目のピットストップであるChurch of the Nativity of the Blessed Virgin Maryがあります。ホウガンで最も古い礼拝所で、ナショナルモニュメントに指定されています。

Kangkar Green(カンカー・グリーン)
アッパー・セラングーン・ロードを北東に歩くと、HDBの473D号棟とアッパー・セラングーン・ロードの間のオープンスペースに、2つ目のアクティビティ・ノードとして、Kangkar Greenがもうけられています。
かつてこの辺りは、「河口」を意味するKangkar(カンカー)と呼ばれており、漁村であったことをちなんで船をかたどったストリートファーニチャーが設置されています。地面には、かつての海岸線の位置を示す黒いラインがひかれています。



ホウガン・ヘリテージ・トレイル
シンガポールでは、国家遺産庁(NHB)によって23のヘリテージ・トレイルがもうけられています。街やエリアの中の歴史的な建物や場所をヘリテージ(遺産)として指定し、その建物や場所を巡るおすすめコースを紹介するという取り組みです。
アッパー・セラングーン・ヘリテージ・コリドールは、ホウガン・ヘリテージ・トレイルの一部で、ホウガン・ヘリテージ・トレイルでは、ここでご紹介したピットストップ、アクティビティ・ノードのほかにも、宗教施設、商業施設などがヘリテージとして指定されています。
興味深いのは、他のヘリテージ・トレイルと同じく、HDBの住棟もヘリテージに指定されていること。ヘリテージに指定されているHDBの住棟は、アッパー・セラングーン・ロードとホウガン・アベニュー3の交差点の東にあるHDB25号棟、そして、ホウガン・アベニュー5とホウガン・アベニュー7の交差点付近にある、「レインボー住棟」(Rainbow Block)と呼ばれるHDB316号棟の2棟です。
HDB25号棟は、HDBがホウガンに建設した第一世代の住棟群の1棟で、ホウガンを訪れる人々を歓迎するため、壁面には明るく晴れ渡った空の壁画が描かれています*2)。


HDB316号棟も、第一世代の住棟群の1棟で、「レインボー住棟」という名前の通り、壁面に大きな虹が描かれています。
この当時、HDBは街や通りのデザインによって、団地(housing estate)にアイデンティティを作り出す取り組みを開始していたということです。当時、ホウガンに建設された住棟は曲線を取り入れたデザインになっており、HDB316号棟を含めて、ホウガン・アベニュー7沿いの住棟は、丸みを帯びたバルコニーと曲線状の柱が特徴になっています*3)。

工事現場仮囲いのイラスト
アッパー・セラングーン・ヘリテージ・コリドールを歩いていると時、偶然、工事現場の仮囲いに興味深いイラストが描かれているのを見つけました。
Plantation Learning Greenの向かいにあるアッパー・セラングーン・ロードと、ホウガン・セントラル(Hougang Central)の交差点の北側の工事現場の仮囲いに、2ヶ所、イラストを描いた大きなパネルが展示されていました。
いずれも近くの小学校の子どもたちが描いたイラストで、1つはMontfort Junior Schoolの子どもたちが、地域の昔の風景を描いたもの。もう1つは、Holy Innocents’ Primary Schoolの子どもたちが、地域の未来予想図を描いたものとなっていました。
工事が行われている期間限定の展示かもしれませんが、子どもたちも交えて、地域の歴史を継承し、また、未来を考えるという取り組みも興味深いと思いました。


■注
- 1)アッパー・セラングーン・ヘリテージ・コリドールについては、HDBアワード2022の展示パネル、ホウガン・ヘリテージ・トレイルの標識、及び、Surbana Jurongの「Upper Serangoon Heritage Corridor」のページを参考にしている。
- 2)国家遺産庁(NHB)、Hougang Heritage Trailの「Block 25」のページより。
- 3)国家遺産庁(NHB)、Hougang Heritage Trailの「Rainbow Block(316)」のページより。