『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールのカンポン・アドミラルティ:高齢社会における「垂直の村」

ウッドランズ(Woodlands)のMRTアドミラルティ(Admiralty)駅の南に、カンポン・アドミラルティ(Kampung Admiralty)という複合施設があります*1)。高齢社会に対応する「垂直の村」(Vertical Kampung(village))の実現を目指して*2)、100戸の高齢者向け住宅、専門外来診療を行う医療センター、保育所(Child Care Centre)、アクティブ・エイジング・ハブ(Active Ageing Hub)、飲食店、小売店、900席のホーカー・センター(Hawker Centre)を備えた複合施設で、2018年8月に完成。

カンポン・アドミラルティの大きな特徴は、多様な機関が連携していること。併設のメリットと土地の有効活用が考慮され、HDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)、保健省(MOH)、イシュン・ヘルス・キャンパス(Yishun Health Campu:YHC)、国家環境庁(NEA)、国立公園局(National Parks Board:NParks)、陸上交通庁(LTA)、幼年期開発庁(ECDA)という複数の機関が連携。このような複数の機関が連携する複合施設は、シンガポールで初めてとのことです。

カンポン・アドミラルティは、大きく、低層、中層、高層部分の3つに分けられています。低層部分(地下2階~2階)には、スーパーマーケット、プラザ、ホーカー・センターなど多世代の人々を対象とする施設がもうけられています。中層部分(3~8階)は医療センター、保育所(Child Care Centre)、アクティブ・エイジング・ハブ(Active Ageing Hub)など医療、福祉、教育を中心とする施設、高層部分(~11階)は高齢者向け住宅。低層と中層部分は次のようなフロアとなっています。

  • 8階:スカイ・テラス
  • 7階:アクティブ・エイジング・ハブ(Active Ageing Hub)、保育所(Child Care Centre)
  • 6階:アクティブ・エイジング・ハブ(Active Ageing Hub)、保育所(Child Care Centre)、ホール(Function Hall)、ルーフ・ガーデン
  • 4階:医療センター(Admiralty Medical Centre)
  • 3階:医療センター(Admiralty Medical Centre)、児童発達センター(KKH Child Development)
  • 2階:ホーカー・センター(Hawker Centre)
  • 1階:プラザ、薬局、店舗
  • 地下1階:駐車場、スーパーマーケット、店舗
  • 地下2階:駐車場

※共用部分のエレベーターの表示より。

1階は、吹き抜けのプラザ(広場)になっています。柱の周り、プラザのエッジ部分は座れるようになっており、話をしている人、プラザを行き交う人々を眺めている人、ノートパソコンを開いて作業をしている人など、様々な人々が過ごす魅力的な広場です。

2階には、1階のプラザを望むようにホーカー・センターがあります。何度か訪れたことがありますが、どの時間帯に訪れても、食事をする人、お茶を飲む人など、いつも多くの人を見かけます。

6階は、アクティブ・エイジング・ハブ(Active Ageing Hub)、保育所(Child Care Centre)があります。アクティブ・エイジング・ハブはHDBの団地内にもうけられた高齢者のためのワンストップセンターで、食事会、世代間交流、ボランティアなどの活動が行われたり、デイケア、デイリハビリテーション、生活支援などの幅広い高齢者のニーズに応えるためのサービスが提供されたりしています*3)。
アクティブ・エイジング・ハブ(Active Ageing Hub)、保育所(Child Care Centre)の表は、屋上庭園になっており、フィットネス・コーナー、遊具の置かれた遊び場ももうけられています。

北側にある共用部分の8階(屋上)は、緑化されたスカイ・テラスになっており、周囲の街並みを一望できます。階段・スロープでさらに上にあがると、最上部のコミュニティ農園(Community Farm)に行くことができます。

11階建ての住棟は南側にあり、共用部分の建物と向かい合うように配置されています。

カンポン・アドミラルティは高齢社会に対応する試みですが、高齢者だけを対象とする医療や福祉に関わる施設だけでなく、スーパーマーケット、ホーカー・センター、店舗など多世代の人々を対象とする施設も複合されています。1階のプラザはパブリック・スペースとしても魅力的な場所になっており、これらも含めて「村」が生み出されている興味深い複合施設だと感じます。


■注