『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

暮らしの知識・技術を伝えること、フィリピンのレイテ島にて

写真はフィリピン、レイテ島のカナンガにあるマサラヤオというバランガイ(地区)(Barangay Masarayao)。2013年の台風30号(フィリピン名はヨランダ)で大きな被害を受けた地区です。先日、大船渡の「居場所ハウス」の2人の理事、SさんとKさんらと一緒に訪問しました。

「居場所ハウス」は、アメリカ・ワシントンDCの非営利組織「Ibasho」代表の清田英巳氏の呼びかけがきっかけとなり生まれた場所ですが、今回も清田氏の呼びかけで、津波と台風という被災地の高齢者を中心とする住民同士が情報交換、交流、相互支援の関係を築いていくために訪問することとなりました。

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訪問を受け入れてくださったのは現地で被災地支援を行う国際NGO「ヘルプエイジ(HelpAge)」と、そのローカルパートナーの「コセ(COSE=Coalition of Services of the Elderly, Inc.)」のスタッフの方々。「ヘルプエイジ/コセ」(HelpAge/COSE)は台風直後から支援物資の配布も行っていますが、それだけでなく地域に根ざし、地域の力をつけるための支援活動、高齢者の暮らしの質の向上を目的とする様々なプロジェクトも行っています。その1つが、よりよい復興(Build Back Better)に向けた住宅建築プロジェクト。これは伝統的なデザインと現地で入手出来る素材を使いながらも、新たな技術を使った住宅を建築するプロジェクトですが、それを一方的に建築してあげるのではなく、現地の大工に建築方法を伝えることを通じて、より災害に強い住宅を、そして、より災害に強い地域を作るというもの。
住宅の建築現場と完成した住宅を何軒か見学させていただきました。東京で半世紀ほど建築会社で勤めていた経歴をもつKさんは、建物が沈むから基礎の下にコンクリートを打った方がいい、ヤシの木に取り付けた鉄筋はもう少し長い方がいい、風によるねじれを防ぐため水平方向のブレースを取り付けた方がいい、長持ちさせるため壁にはペンキを塗った方がいいなど、建築現場や住宅を見た瞬間、次々と思うことが出てきたようで、「ヘルプエイジ/コセ」(HelpAge/COSE)のスタッフや現地の方にアドバイスされました。

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写真の青い服を着た高齢の男性は、完成した住宅に入居した方で、84歳。訪れた時は、ちょうどポーチ部分を自身で作っているところでした。黙々と作業している姿を見て、「家を建てるという目的を持って、時間をかけてコツコツとやってるという真摯な姿勢、ひたむきな姿勢は私たちも見直さないといけない。私たちはあまりにも文化的な生活をしてるので、そういうところをもう1回見直すのが大事」だとSさん。

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先ほどKさんがアドバイスされた水へ方向のブレースを、この男性の家に取り付けることとなりました。日本から持参したメジャーと三角定規を取り出し、90cmのブレースを4本とるようヤシの木を図り、その後、Kさん、Sさん、84歳の男性で交代にヤシの木を伐っていきました。1本だけ見本を作れば、みんな参考にして作るだろうとKさん。1本だけ住宅に取り付けました。
大工仕事をしている間、子どもも含めた近所の人が様子を見に集まってきましたし、ブレースを取り付けた後、早速2人の男性が住宅の中に入り、どういうふうに取り付けたのかを確認しておられました。

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今回、フィリピンに行って高齢者を中心とする住民同士が情報交換、交流、相互支援していける関係を作るという話を聞いた時、「フィリピンに行って何ができるのだろう?」と思ったのも正直なところです。ただし、建築について次々とアドバイスをするKさんの姿を見て、素朴な感想ですが、実際に現地に来て、具体的なものを見ることの重要性を感じました。また、高齢者が身につけた知識・技術というと、昔話や地域の習わし、昔の遊び、郷土食の作り方などがイメージされるかもしれませんが、近代的な住宅建築の知識・技術も伝えるに値するものだということも感じました。
また、上に書いたように大工仕事をしているのを、子どもから高齢者までが眺めたり、取り付けたブレースを早速確認したりする光景を見ることができましたが、ある個人を対象として技術を伝えることが、個人にとどまらないで地域に広まっていくという流れがありそうですし、ここにも講習会のように教室ではなく、現地を訪れ実際にやってみせることの意味がありそうです。ただし、大工仕事をしているのを多くの人が見物に来たのは、外国人が来ているというこの地域にとっては珍しい、非日常的な状況だったかもしれません。しかし、非日常の出来事だから、見物に来た人が多く、それが結果として地域に建築技術を伝えることにつながったと言えるなら、非日常的な状況を作ることも、外部から来た者が地域に対してなし得ることではないかと思います。
もちろん、「こっちにはこっちのやり方があるだろうから」とKさんが話されたように、外部から来たものが一方的に知識・技術を押し付けるのは避けるべきだと思います。そうであったとしても、現地の人には中身がブラックボックスになった商品、現地の人には手が出せないパッケージ化された商品を売りつけるのでなく、知識や技術を顔と顔を合わせて伝えることの方が、楽観的かもしれませんし、ささやか過ぎるかもしれませんが、地域を大切にする振る舞いだと感じます。