『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

フィリピンでのIbashoプロジェクト:まず行動を起こすこと

写真はフィリピン、レイテ島のオルモック市にあるバゴング・ブハイ(Bagong Buhay)というバランガイ(地区)のホール。先にご紹介したカナンガのマサラヤオのバランガイ・ホールと同様、周りにはバスケットボール・コート、チャペル(礼拝堂)があります。加えて、ここにはヘルスセンター、屋根のついた半屋外の部屋、小さな畑もあります。
バゴング・ブハイのバランガイ・ホールの周りでも、子どもが遊びまわったり、その様子を大人が話をしながら眺めたり、小さな子どもを持つ母親向けの教室が開かれたり、学校の行事が行われたり、若い世代(高校生?)がバスケットボールをしたりしています。ヘルスセンター内では栄養を十分にとっていない子どものため、ウリ、玉ねぎ、ニンニク、ソーセージ、玉子を使った料理をしていました。滞在したのはわずか1日半でしたが、多様な年代の人が、様々なことをしている場面を見ることができました。

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バゴング・ブハイでは、高齢になっても地域で何らかの役割を担えることを通じて、暮らしの質を向上させるというIbashoのプロジェクトを進める話が持ち上がっており、大船渡の「居場所ハウス」と情報交換や交流、相互支援の関係を築けないかと、今回この地区を訪れることとなりました。
当然ながら地域の状況が違うため、大船渡の「居場所ハウス」と同じことはできませんし、同じことをする必要もありません。大船渡は寒いため冬は暖房のある空間が必要ですが、バゴング・ブハイは1月でも半袖で、屋外で過ごすことができます。バランガイ・ホールの周りは多くの人々が集まる場所になっているため、人が集まるという意味での建物さえ必要でないかもしれません。

この日、バランガイ・ホールでは地区の高齢者協会(Senior Citizens Association)の方々らとのワークショップが行われました。「リサイクル」「農園」「(子どもの)栄養」をテーマとし、参加者はそれぞれのテーマに対して、自分ができることを付箋に書き出し、模造紙に貼っていきました。みなの意見が出揃ったところで、今の段階で具体的に何ができるかの話し合い。「リサイクル」はペットボトルの回収。現在は各家庭で回収に出しているペットボトルを、グループで回収することで、グループの活動資金にすることが(ペットボトル1kgで15ペソ=40円弱)、「農園」は農園を作るための手順が、「(子どもの)栄養」は栄養が不足している子どものためにある料理(名前を聞いただけではどんな料理かわかりませんでしたが、野菜をたくさん使った料理のようです)を作る手順が話し合われました。
ワークショップでは、話し合った活動をいつから始めるなどの具体的なことが決められたわけではありませんが、早速、ペットボトルを集める人の姿も。建物がなくても、資金がなくても、今すぐ始めることができる活動として、グループでペットボトルを回収するという活動が始められると思われます。

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ワークショップに参加した「居場所ハウス」のSさん、Kさんも、非営利組織「Ibasho」が最初からお金を持っていく必要はないし、このプロジェクトはお金をあてにせず、できることから徐々に始めるのがよいだろうというご意見。Sさんはワークショップで「みんなで助け合うという心をまず最初に持つ」ことが大切だと話されました。Kさんも「最初からお金のことを頭におくと物事はできません。何を基本にするかを決めた上でのお金。それを勘違いすると躓いてします」と話し、「居場所ハウス」での農園作りについてワークショップで次のように話をされました。「みなさんに食べていただくという心構えがないとできません。種を蒔くにも、真心を込めて植えていきます。芽が出たら喜ぶ。それをみなさんにわかってもらいたい。それが、今後、居場所を作っていく力になります」、「できればもう一度ここに来て、みなさんに野菜の作り方を心から教えてあげたい」。

帰国後、Sさんはバゴング・ブハイのプロジェクトについて次のように話をしてくださいました。「建物のことはあまり考えないで、それこそ資金もかかるから。あるものを利用して、自分たちがそれそれの役割を持って、人的・金銭的に上手く噛み合って、みんなで楽しくやっている姿になればいいかと思います。そんなに急がないでやった方が自分たちも楽でしょうし、継続する可能性も高いのかな」。

ペットボトルを回収する活動は、大船渡の「居場所ハウス」とは別物のように見えますが、共通しているのは、自分たちで行動を起こして、それに少しでもお金の流れが生じること、地域が少しでも良い方向に変わっていくという体験をみなで共有すること。だからこそ、まず行動を起こすことが大切なのだと思います。

※地区の名前に入っているバゴング(Bagong)は新しい、ブハイ(Buhay)は生活という意味のため、「新しい生活」という名前が付けられた地区ということになります。「新しい生活」とはどういう意味なのか? バゴング・ブハイはオルモックの中心部から北西にはずれた場所にあり、通訳をしてくださった方が「このあたりは(中心部に比べて)土地が安いから」家が大きいと話されていました。中心部から遅れて、比較的新しい時代に開発された地区のような気がしましたが、これは調べてみる必要がありそうです。

(更新:2017年4月16日)