『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

まちの居場所を継承していく

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最近、コミュニティ・カフェ(まちの居場所)が各地に開かれていますが、このような場所が開かれるようになったのは2000年頃のことだと思います。

当時、それまでになかった種類の場所が各地に同時多発的に生まれていることに注目し、いくつかのまちの居場所の調査をしていました。もう今から15年も前のことになりますので、調査をしていた場所は「第一世代のまちの居場所」と言ってもよいかもしれません。どの場所を訪れても、運営の中心になっている魅力的な方々にお会いしました。これらの方々は場所の運営のあり方、空間のしつらえ方、そこでの人々の関係性のあり方について明確なポリシーをお持ちであり、その場所になくてはならない存在ということで、以下のように主(あるじ)と呼んでいました。

「主」とはその場所に(いつも)居て、その場所を大切に思い、その場所(の運営)において何らかの役割を担っている人であり、その場所とセットでしか語り得ない人である。
*日本建築学会編『まちの居場所』東洋書店 2010年

それから15年が経過した現在でも、多くのまちの居場所が開かれ続けています。子育ての場所、学びの場所、病をもつ人々が悩みを相談できる場所、会社を退職した人が地域と関わりをもつための場所、介護の場所など目的は多様であり、また、まちの居場所を開くための講座も行われています。
先日、ある方とまちの居場所について話をする機会がありました。「第一世代のまちの居場所」にはカリスマ的な人がいたけれど、今は、そのような人がいない場所も増えている気がする。その意味で「時代は確実に1つのコーナーを曲がった」と話されました。

カリスマ的な人物がいなくてもまちの居場所が成立するというのは大切なことかもしれません。しかし、だからと言って「第一世代のまちの居場所」で出会った主(あるじ)の方々がされてきたことに意味がなくなるわけではありません。いや、時代の変わり目だからこそ、「第一世代のまちの居場所」の主(あるじ)の方々がどのような場所、どのような地域、どのような暮らしを目指していたのかを継承していくことが大切ではないかと思います。
「第一世代のまちの居場所」の主(あるじ)の方々が生み出したものは、決して単に安い値段でコーヒーが飲める場所ではありません。自分たちだけが生き生きしたり楽しんだりする場所でもありません。地域での暮らしをより良いものにしていくための拠点です。

「第一世代のまちの居場所」が生まれて15年。例えば、当時60歳だった人も、もう75歳です。この意味でも、まちの居場所の何を継承するかを考える時期なのだと考えています。

もう10年ほど前のことになりますが、まちの居場所の運営に関わる方が次のような話をされていました。

私がこの場所をやったことはどういうことなのか? を、私がいなくなっちゃっても、ページを開けばこの場所の思い出が蘇ってくるとか、何かそんなものを残したいなと思ってますね、最後にはね。もうちょっと、まだまだですけど。それから、ずっと書き溜めてきた文章とか、そんなのがあるので、そういうのもまとめて編集して、心温まる本みたいなものを作りたいなって。

別の場所では、最近、次のような話を聞きました。今までずっとボランティアで運営されてきたのですが、今後、若い世代の人にも運営に関わってもらうためにはボランティアにこだわる必要はないのではないか。このような話でした。

〔スタッフに〕ちょっとでもお金を出しながら、若い人も入って来ながら、今のスタイルを継承していかないといけないんじゃないかな。・・・・・・、全部、自治会の下に入って、その指示に基づいてやるというのじゃダメかなと思う。

言葉の表現は異なりますが、いずれの場所でも次の世代への継承が考えられています。
ただし、まちの居場所を継承することが大切だとわかっていても、日々の運営に携わっていると場所の意味を振り返ったり、伝えるために活動の歩みを編集したりするのは難しいのかもしれません。だとすれば、こうした編集の仕事は、日々の運営から少し距離をおいた人だからこそ可能な仕事かもしれません。

誰がこうした編集の仕事をするのか?
これについては、編集の仕事をする必要があると気づいた人がやるしかないと思いますが、もしかしたら、研究者はこの仕事を引き受けることができる候補になるかもしれません。というのは、研究者は調査の過程で人に話を聞いたり、資料を収集したりできる立場であり、情報の編集が1つの職能と言ってよいからです。

調査結果を、論文や報告書というかたちで社会に還元するだけでなく、歩みの編集という仕事によりまちの居場所、あるいは、その場所がある地域に対して直接還元することも、(これは本来の研究という行為からは逸れるのかもしれませんが)調査結果の1つの還元の仕方であり、今後、重要な仕事になるのではないかと感じています。