『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

小規模で多機能化していく場所:千里ニュータウンの「ひがしまち街角広場」から考える

2020年9月18日(金)、千里ニュータウン新千里東町の「ひがしまち街角広場」を訪問しました。日々の運営を担うスタッフや来訪者の中心は高齢者ですが、高齢者だけが集まる場所ではありません。この日も次のように子どもたちが出入りする様子を見かけました。

15過ぎに「ひがしまち街角広場」に到着した時、ちょうどマスクをしてランドセルを背負った小学生の男の子が1人、中から出てきました。水を飲みに立ち寄ったようです。

16時頃にも、小学生の男の子が1人、水を飲みにやって来ました。「ひがしまち街角広場」の運営時間は16時までであり、1人のスタッフが「ここは4時までやで、そこに書いてあるやろ」と注意。そのやりとりを聞いていた別のスタッフらが、「〔水を〕いれてあげ」と言って男の子に水を渡していました。
子どもに、時間を守ることを注意するのも地域の大人の役割。ちょっとぐらい大目に見るのも地域の大人の役割。どちらの接し方が正解だとは言えませんが、子どもに地域には色々な大人がいることを経験できる機会を提供していると言えます。

小学生の女の子2人もやって来て、「ここの近くにスーパーありますか?」と尋ねました。それを聞いて、「そこ曲がったところにあるよ」とスタッフが返事。「ひがしまち街角広場」はまるで、道を尋ねることのできる「交番」のような機能を持っていることもわかります。

これら1つひとつはささやかな出来事かもしれません。しかし、(都市部では)「知らない人とは話をしない」、「知らない人に声をかけられたら不審者と思え」という意識が広がっている社会において、大人が子どもに注意をしたり、子どもの方から大人に尋ねたりというやりとりがなされていること自体がかけがえのないことのように思えてきます。これも、「ひがしまち街角広場」が地域の住民の手によって、約19年間も運営され続けてきたことが実現したことです。

「ひがしまち街角広場」はコーヒー、紅茶、ジュースなどの飲物を提供しているためカフェのようですが、ここでご紹介したような出来事からは、普通のカフェではありません。地域の大人と子どもが関わる機会を生み出したり、「交番」のように道を尋ねたりというように、「ひがしまち街角広場」は非常に小さな場所(※裏の倉庫も合わせると約75m2)ですが、様々な機能を担っていることがわかります。

しかし、これらの機能は結果として備わったものだという点を見落としてはなりません*1)。日常の場所であることが、結果として多様な機能を生み出しているということ。つまり、多機能化していく場所ということです。
現在、小規模多機能と言えば高齢者施設の1つのタイプのことと認識されることがありますが、小規模多機能はより広い意味で、「小規模で多機能化していく場所」としてその意義が捉え直される必要があると考えています。


  • 1)ここに施設と、「ひがしまち街角広場」をはじめとする居場所の違いがあると考えている。施設では、あらかじめ特定の機能を担うことが計画される。それに対して、居場所では、人々の要求に対応することで結果として機能が生まれてくる。詳細は「居場所と施設:非施設としての居場所の可能性」を参照。