『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

千里ニュータウンのコミュニティ・カフェ「ひがしまち街角広場」:日常の場所がもつ力

千里ニュータウン新千里東町の「ひがしまち街角広場」は近隣センターの空き店舗を活用して運営されています。オープンは2001年9月30日。最初の半年間は豊中市の社会実験として補助を受けて運営されていましたが、その後は補助を受けない自主運営がされており、住民ボランティアによって運営され続けてきました。

補助金を一切受けていないことに加えて、プログラム(教室や体操、行事など)を行っておらず、コーヒー、紅茶などの飲み物を100円のお気持ち料で提供しているだけであることも「ひがしまち街角広場」の特徴。
それにも関わらず、高齢者、学校帰りに水を飲みに立ち寄る子どもを中心とする地域の人々がオープンからの約19年にわたって訪れ続けてきました。

訪れた人々がお茶を飲んだり、話をしたりして過ごしているだけのため(例えば、みなで介護予防のための体操をしているわけでもないため)、一見すると何をしているかわかりにくいかもしれません。しかし、プログラムへの参加ではなく、日常の場所であることが、いざという時に大きな力を発揮するということ。今日、「ひがしまち街角広場」を訪れた時、次のような話を伺いました。


「ひがしまち街角広場」がオープンした頃から、毎日のようにやって来ていた高齢の女性がいます。時々、差し入れをしてくださっており、何度かたこ焼きをいただいたことを覚えています。
何年か前、旦那さんを亡くされてから、「ひがしまち街角広場」の近くにある府営住宅(大阪府営豊中新千里東住宅)に1人でお住まいでした。

高齢になり、1人では住み続けることが難しくなったということで、少し前、息子さんの家に引っ越されることになりました。
部屋を片付けている間は、部屋にいることができないため、息子さんから「ひがしまち街角広場」に「母を見守っていて欲しい」という依頼があったとのこと。
「ひがしまち街角広場」に来た女性は、部屋(これまで住んでいた府営住宅の部屋)に戻ろうとし、半分腰が浮いていたとのこと。それをスタッフが話し相手になったり、女性の友人に電話をかけて来てもらったりして、お昼過ぎから4時頃まで見守っていた。

翌日、息子さんから「ひがしまち街角広場」に「母親の姿が見えないが、そちらに行ってないだろうか?」という問い合わせの電話があり、スタッフらは手分けして様子を見に行かれたとのこと。
この日、女性は息子さんに黙って、タクシーで数千円かけて新千里東町に戻って来ていました。新千里東町まで来たものの、伝えた住所が正確でなかったため、どこで降ろせばいいか迷ったタクシーの運転手が通りかかった人に場所を聞いたところ、たまたまその人が「ひがしまち街角広場」に出入りしている女性で、タクシーに乗っているのがこの女性であることを見つけたという話でした。

あるスタッフは、この高齢の女性について次のように話されていました。

「旦那さんがいてた頃からずっとここに来てくれてるから、私たちは元気だった頃から少しずつ弱っていかれるのを見続けてきた。突然の引越しだったので、もう少し早くわかっていたら何かできたかもしれないと思う。でも、最後に、ここを頼ってくれたことは嬉しかった。」

別のスタッフも、こういうのが「ひがしまち街角広場」らしい出来事だと話されていました。

部屋の片付けをしている間に見守る、行方がわからなくなった人を探すなど、地域では様々な出来事が生じます。これらに対して、その場でさっと対応できること。「ひがしまち街角広場」が日常的な場所として運営されていること、そこで人々の信頼関係が築かれていることが、こうした対応につながっていると思います。

近年の新千里東町は再開発が進められています。
再開発によって分譲マンション(若いファミリー層)が次々に建設されましたが、その反面、高齢者が地域にどう住み続けることができるかについてはほとんど考えられていない。千里ニュータウンにある老人ホームは千里ニュータウン外の住民を対象としており、住民を対象とするわずかな施設に入居するため、何年も待たなければならないという状況も聞きます。「ひがしまち街角広場」も近隣センターの再開発で空き店舗がなくなることを受け、早ければ2021年の春、遅くとも2022年の夏には閉鎖することが決まっています。
見かけ上の新しい街(ニュータウン)が実現される陰で、歴史が切り捨てられているというのは、ジェントリフィケーションの1つのかたちということになるのかもしれません。

「ひがしまち街角広場」は、例えば、高齢社会に対応するという側面でも最先端の場所のように思います。その「ひがしまち街角広場」が築きあげてきた価値が、地域でも、行政にも十分に認識されないまま、再開発の波に飲まれて消えていってしまうのは残念なことですが、閉鎖前に何かお手伝いできないかと模索しています。


「ひがしまち街角広場」は、新型コロナウイルス感染症の感染防止対策として、市内の公共施設などとあわせて3月2日から臨時休業としていましたが、緊急事態宣言の解除を受け、6月1日から運営を再開しました。

運営再開後も感染防止対策として、室内は入場制限を行い(以前は中央に置かれていた丸いテーブルを撤去し)、他の人に席を譲ったり、なるべく屋外(アーケード下)のテーブルで過ごすことが依頼されています。また、スタッフはマスクを着用する、入口に消毒液を設置する、使い捨ての紙コップを利用する、扉を開けて換気を良くするなどの対応もされています。

今回の新型コロナウイルス感染症を受けて、閉鎖したり、運営を休止している場所もあると聞きますが、「ひがしまち街角広場」は感染対策をした上で運営が再開されている。ここにも、「ひがしまち街角広場」を大切に思っている人々が地域にいることが現れていると思います。