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ストリータリー(Streetery)のその後(アフターコロナにおいて場所を考える-31)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、アメリカの、特に都市部を中心にストリータリー(Streetery)と呼ばれる場所が登場しました。ストリータリーは、ストリート(Street)と、飲食店を意味するイータリー(Eatery)を組み合わせた造語で、具体的には、車両通行止めにした道路にテーブルを並べて、レストランやカフェの屋外席として利用する取り組みです*1)。

道路を人々が過ごせる場所にするストリータリーは興味深い取り組みだと考えています。けれども、ストリータリーは新型コロナウイルス感染症下においてのみ実現するのか、あるいは、新型コロナウイルス感染症が収束した後にも継続するのか。また、ストリータリーにはどのような問題が出されているのか。
ここでは、アメリカ東部、メリーランド州のモンゴメリー郡(Montgomery County)の状況をご紹介したいと思います。

メリーランド州の新型コロナウイルス感染症の状況

メリーランド州では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、2020年3月16日にレストランでの飲食が禁止され(屋外席を含む)、テイクアウト、配達、ドライブスルーのみの営業に制限されました。
その後、レストランでの飲食の規制は徐々に緩和されていき、2020年5月29日からはレストランの屋外席での飲食が再開。2020年6月12日からは収容人数を制限するという条件付きでレストラン店内での飲食が再開が許可されました。そして、2021年5月15日にはレストラン店内の収容人数などの規制が全て解除されることになりました。

メリーランド州の感染者数は、オミクロン株により2021年12月〜2022年1月に非常に多くなっていましたが、2022年3月末時点では感染者数は減少しています。
2022年2月25日、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)がマスク着用のガイダンスを更新し、ほとんどの地域(郡)では、原則として屋内でもマスク着用が求められなくなりました*2)。

以上のような状況もあり、新型コロナウイルス感染症の発生から2年以上が経過した2022年3月末時点では、レストラン店内での飲食も、新型コロナウイルス感染症発生前までとはいかないかもしれませんが、かなり自由にできるようになっているというのが現状です。

メリーランド州モンゴメリー郡のストリータリー

ストリータリーの概要

モンゴメリー郡交通局(Montgomery County Department of Transportation:MCDOT)は、新型コロナウイルス感染症への対応として、2020年からシェアード・ストリート(Shared Streets)のプログラムを開始しました。シェアード・ストリートは、モンゴメリー郡が管理する道路や歩道をレストランの屋外席(屋外ダイニング)やウォーキングのための場所にするもので、このプログラムの1つとして行われているのがストリータリーです。

ストリータリーは地元のレストランを支援しつつ、安全な屋外の食事の場所をもうけるという取り組みで、モンゴメリー郡交通局は3つのエリアでストリータリーを行っています*3)。レストランの屋外席での飲食が再開され、収容人数制限付きでレストラン店内での飲食が再開されたタイミングで始められたものです。

  • ベセスダ・ストリータリー(Bethesda Streetery):2020年6月10日から開始
  • シルバー・スプリング・ストリートダイン(Silver Spring Streetdine):2020年6月12日から開始
  • ウィートン・ストリータリー(Wheaton Streetery):2020年6月19日から開始

先に紹介した通り、ストリータリーとは車両通行止めにした道路にテーブルを並べて屋外での食事の場所にする取り組みで、例えば、ベセスダ・ストリータリーは次のように紹介されています。

ベセスダ・ストリータリー
ベセスダのダウンタウンの屋外に、レストランの席を追加するダイニングのコンセプト。「ベセスダ・ストリータリー」は、全てのテーブルが少なくとも6フィート離して配置され、1テーブルあたりの人数が4人に制限されたオープンな座席(open seating)として設置されています。レストランの利用者は、地元ベセスダのレストランで飲食物を受け取った後、この屋外エリア内で食事をすることができます。テーブルは利用されるたびに清掃されます。」
※Bethesda Urban Partnerの「Bethesda Streetery」のページに記載内容の翻訳。

ここに記載されているように、ストリータリーでは、あるテーブルが特定のレストランの専用席になっているのではなく、該当するエリア内のレストランで飲食物を受け取った後は、どのテーブルに座ってもいいとされています。

ストリータリーの現在

2022年3月末時点では、メリーランド州モンゴメリー郡のストリータリーは継続されています。

(ベセスダ・ストリータリー:2022年3月撮影)

(ウィートン・ストリータリー:2022年3月撮影)

ベセスダ・ストリータリーの写真を撮影したのは肌寒い平日の夕方16時頃、ウィートン・ストリータリーを撮影したのは平日の14時頃であり、ストリータリーのテーブルに座っている人はほとんど見かけませんでしたが、このことから逆に、利用人数に関わらずストリータリーが継続して行われていることがわかります。
また、テーブルや道路にゴミが散乱したり、テーブルや椅子が破損したりしていることもないため、きちんと管理されていることもわかります。

ストリータリーの今後

2022年3月22日、モンゴメリー郡交通局はベセスダ、シルバー・スプリング、ウィートンのストリータリーを少なくとも2022年9月5日のレイバー・デー(Labor Day)まで延長することを発表しました*4)。

プレスリリースには、職員の次のような言葉が紹介されています*5)。

□モンゴメリー郡長官(County Executive)
ストリータリーのプログラムは、レストランの営業と従業員の雇用を維持しながら、新型コロナウイルスの感染を減らすのに役立っています。ストリータリーは、困難な時期に、住民に安全な集いの場を提供してきました。コミュニティの集まりを奨励し、郡全体に魅力的な目的地を作り出した家族向けの(family-friendly)スペースです。今後数週間で気候が暖かくなり始めるので、全ての住民が屋外での食事を楽しみ、地元企業を引き続き支援することをお願いします。」

□モンゴメリー郡交通局(Montgomery County Department of Transportation:MCDOT)のディレクター
「ストリータリーは、コミュニティの集いの場としてストリートを利用するためのモデルになっています。屋外での食事の場所として人気があるだけでなく、ウォーキング、自転車、屋外で過ごす時間をサポートすることで、人々の健康やウェルビーイングに貢献してきました。これらのスペースは、コミュニティの活気を作り出す上でポジティブな影響を与えています。夏の間、この取り組みを継続できることを嬉しく思います。」

□モンゴメリー郡アルコール飲料サービス局(Alcohol Beverage Services:ABS)のディレクター
「ストリータリーには、それぞれのコミュニティのニーズに合わせた様々なモデルがあります。例えば、拡張したカフェでアルコールを提供しているところもあれば、オープンな座席(open seating)で飲食できるようにしたところもあります。全体的にストリータリーはとてもポジティブなものになってきました。企業は、顧客の安全を守るためにアルコール対策をしっかり行っており、違反行為はあまり発生していません。」

□モンゴメリー郡許可サービス局(Department of Permitting Services:DPS)のディレクター
「ストリータリーは、従来の「シェアード・ストリート」とは異なり、ホスピタリティに重点を置き、複数のビジネスをサポートするために機能しています。指定されたストリータリーの外で営業するホスピタリティ・ビジネスは、許可を得ることで屋外のカフェでのサービスを拡張することができます。これは、通行権(rights-of-way)が通常の利用に戻る現在、全体的な公共の安全を確保することになります。」
※Montgomery County「Montgomery County will Keep Streeteries in Bethesda, Silver Spring and Wheaton Open at Least Through Labor Day, Monday, Sept. 5」March 22, 2022に記載内容の翻訳

これらの言葉からは、行政内ではストリータリーが積極的なものとして捉えられていることが伺えます。

その一方、ストリータリーに対しては次のような課題も指摘されているのを見かけました。
例えば、シルバー・スプリングに住んでいる住民からは、ストリータリーで飲酒している人が音楽を鳴らすなど騒音、建物のすぐ近くで焼き肉(グリル)、喫煙など匂いについての苦情が出されています*6)。
ベセスダのレストランのオーナーからは、ストリータリーによる脇道の渋滞、駐車スペースの減少により、食事をデリバリーするドライバーが注文を受け取るのが困難になり、結果として、レストランに対するデリバリーの注文が大量にキャンセルされることがあるという苦情が出されています*7)。

また、ストリータリーは屋外であるため、屋根や囲い、ヒーターを付けるなど冬季の対策(winterize)が必要で、モンゴメリー郡はそのために125万ドル(約1.5億円)を支出していること。現時点で、モンゴメリー郡はレストランに対してストリータリーの利用料、維持費を請求していないようですが、今年の夏に行われるプログラムの見直しでは、費用負担についても議論にされることも指摘されています*8)。

このような賛否の意見がありますが、最初に書いた通り、道路を人々が過ごせる場所にするストリータリーは興味深い取り組みだと考えています。
今後、新型コロナウイルス感染症が収束していくなかで、ストリータリーがどうなっていくのか、引き続き今後の動きに注目したいと思います。


■注

※「アフターコロナにおいて場所を考える」のバックナンバーはこちらをご覧ください。