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千里ニュータウンの世帯の変化:2000年と2020年の国勢調査より

近年の再開発により、千里ニュータウンは大きく姿を変えました*1)。人口は、1975年以降減少し続けていましたが、2010年の8万9,220人を境として増加に転じ、2020年には再び10万人を超えました。世帯数は、2010年までは4万世帯を超えることはありませんでしたが、2020年には約4万4千世帯にまで増加しました。高齢化率は、2010年まで急激に上昇していましたが、それ以降は上昇にストップがかかり、2015年から2020年にかけてわずかに低下しています。

※国勢調査の結果をもとに作成。具体的には次の資料に掲載されているデータを用いている。

  • 2015年までは『千里ニュータウンの資料集(人口推移等)』(吹田市・豊中市千里ニュータウン連絡会議, 2017年10月1日)に掲載のデータ
  • 2020年は国勢調査の「小地域集計」「27:大阪府」のデータを集計
  • 日本の高齢化率は総務省統計局「1.高齢者の人口」に掲載のデータ

このようなデータから、千里ニュータウンは若返ったと考えることができます。「オールドタウン」という表現も耳にすることがなくなりました。それでは、再開発が進んだ千里ニュータウンの世帯はどのようになっているのか。
ここでは、再開発が本格的に始まる前の2000年の国勢調査の結果と、2020年の国勢調査の結果から、千里ニュータウンは若返ったという捉え方からは漏れ落ちてしまうものがないかどうかを考えたいと思います。

世帯人員別の一般世帯数

世帯人員別の一般世帯数は*2)、2000年の38,158世帯から、2020年の43,681世帯へと約5,500世帯増加しました。
世帯人員数に注目すると、世帯人員が1人の世帯(単独世帯)が約5,000世帯、世帯人員が2人の世帯が約1,400世帯増加したのに対して、これより世帯人員数が多い世帯は全て減少しています。
世帯人員別の一般世帯数の割合は、2000年と2020年のいずれも2人の世帯の割合が約3割と最も多いことは変わりありませんが、2020年には世帯人員が1人の世帯(単独世帯)の割合も約3割と大きくなっており、両者をあわせると一般世帯の6割を超えています。

※2000年国勢調査と2020年の国勢調査の「小地域集計」「27:大阪府」のデータを集計して作成

世帯の家族類型別の一般世帯数

国勢調査では、世帯の家族類型が単独世帯、親族世帯(親族のみの世帯)、非親族世帯(非親族を含む世帯)の大きく3つに分類されています。この分類をふまえ、この記事では世帯の家族類型を次のように①~⑦の7つに分類しました*3)。

■単独世帯①
■親族世帯(親族のみの世帯)
・・核家族世帯
・・・・夫婦のみの世帯②
・・・・夫婦と子どもから成る世帯③
・・・・その他の核家族世帯④
・・その他の親族世帯⑤
■非親族世帯(非親族を含む世帯)⑥
■不詳⑦

世帯の家族類型別の一般世帯数を2000年と2020年とで比較すると、単独世帯(世帯人員が1人の世帯)が約5,000世帯と大幅に増加しています。夫婦のみの世帯が約700世帯、その他の核家族世帯(男親と子供から成る世帯、女親と子供から成る世帯)が約600世帯増加しています。これに対して、その他の親族世帯が約700世帯、夫婦と子供から成る世帯が約300世帯が減少しています。
この変化により、2000年には夫婦と子どもから成る世帯の割合が35%と最も大きかったのが、2020年には単独世帯の割合が32%と最も大きくなりました。
単独世帯を、65歳以上(高齢者)の単独世帯と64歳以下の単独世帯に分類すると、64歳以下の単独世帯の世帯数はほぼ変わらないのに対して(わずか22世帯増加しているのみ)、65歳以上(高齢者)の単独世帯は約5,000世帯増加しています。つまり、2000年から2020年の間の一般世帯の増加分の大半が、65歳以上(高齢者)の単独世帯ということになります。そのため、2020年には一般世帯の約2割が65歳以上(高齢者)の単独世帯になっています。

※2000年国勢調査と2020年の国勢調査の「小地域集計」「27:大阪府」のデータを集計して作成

住宅の所有関係別の一般世帯数

住宅の所有関係別の一般世帯数の22000年と2020年とで比較すると、持ち家が約1万1,500世帯と大きく増加しています。民間の借家が約1,000世帯増加しています。これに対して、公営・都市再生機構・公社の借家は約5,500世帯と大きく減少しました*4)。給与住宅も約1,000戸が減少しています。
これにより、2000年には公営・都市再生機構・公社の借家が約6割、持ち家が約3割だったのが、2020年には逆転して持ち家が約5割、公営・都市再生機構・公社の借家が約4割になり、住宅の所有関係別の一般世帯数の割合は大きく変化しました。

※2000年国勢調査と2020年の国勢調査の「小地域集計」「27:大阪府」のデータを集計して作成

住宅の建て方別の主世帯数

住宅の建て方別の主世帯数を2000年と2020年とで比較すると*5)、11階建て以上の共同住宅が約1万1,000世帯、6~11階建ての共同住宅が約8,000世帯と大きく増加したのに対して、3~5階建ての共同住宅は約1万2,000世帯と大きく減少しています。これに対して、一戸建ては400世帯増加しているだけです。
この変化により、3~5階建ての共同住宅は2000年には65%と大きな割合を占めていたのが、2020年には27%にまで低下。変わって、11階建て以上の共同住宅が12%から35%、6~11階建ての共同住宅が6%から23%と、高層(6階建て以上)の共同住宅の割合が大きく上昇しました。一戸建の割合はほとんど変化していません。

※2000年国勢調査と2020年の国勢調査の「小地域集計」「27:大阪府」のデータを集計して作成

まとめ

2000年と2020年の国勢調査の結果の比較から、千里ニュータウンの世帯の変化として次のことがわかります。

近年、千里ニュータウンでは急激な再開発が進められてきましたが、2000年から2020年の間に持ち家が増加していること、一戸建てはほとんど増加していないのに対して、6~11階建ての共同住宅と11階建て以上の共同住宅、つまり、高層(6階建て以上)の共同住宅が大きく増加していることから、持ち家形式の高層の共同住宅、いわゆる、高層の分譲マンションが多数建設されたことがわかります。

(南千里駅前)

(千里中央のタワーマンション)

最初に述べたように、2020年には人口が再び10万人を超え、高齢化率の上昇にもストップがかかりました。再開発により千里ニュータウンは若返ったように見えます。
ところが、国勢調査の結果からは2000年から2020年の間に単独世帯(世帯人員が1人の世帯)が大きく増加し、2020年には一般世帯の約3割が単独世帯であることが明らかになりました。さらに、単独世帯の中でも65歳以上(高齢者)の単独世帯が増加しており、2020年には一般世帯の約2割が65歳以上(高齢者)の単独世帯になっていました。今回の国勢調査の結果の集計では直接的に把握することはできませんが、65歳以上(高齢者)の単独世帯、言い換えれば、一人暮らしの高齢者の多くは、これまで千里ニュータウンに住み続けてきた人々だと思われます。

一般世帯の約2割が1人暮らしの高齢者であることは見落としてはなりません。つまり、高齢になっても千里ニュータウンに住み続けるためにはどうすればよいかという課題が再開発によって解決したわけではないということです。このことに関して、次の2点に留意する必要があります。

1点目は中層の共同住宅から高層の共同住宅への変化。
2000年には中層(3~5階建て)の共同住宅が65%を占めていましたが、2020年には3~5階建ての共同住宅の割合は27%にまで減少しました。それに変わって、高層(6階建て以上)の共同住宅の割合が、2000年の18%から2020年の58%へと大きく上昇しました。
中層の共同住宅は、周囲からも住戸の気配がわかり、また、階段室型の住棟の場合は階段室が近所付き合いの1つのまとまりになっていたと言われています*6)。しかし、高層の共同住宅では住戸の気配がわかりづらく、階段室型から廊下型へと住棟のかたちも変化しました。

(再開発前の府営新千里東住宅(手前)と再開発された府営豊中新千里東(奥))

(府公社OPH北千里駅前)

2点目は分譲マンションの多くに採用されているオートロック。
2000年と2020年の大きな違いとして、公営・都市再生機構・公社の借家の割合が低下し、持ち家の割合が上昇したことをあげることができます。再開発により、千里ニュータウンは、公営・都市再生機構・公社という公共的な主体が住宅を供給する街から、私有財産の街へという傾向を強めたと言えます。
再開発によって多数建設された持ち家の高層の共同住宅、つまり、高層の分譲マンションには安全性を確保することを目的としてオートロックがかかっており、住民以外が敷地内、あるいは、住棟内に自由に出入りすることはできなくなりました。

これらの2点、つまり、住棟が高層化したことで住戸の気配が伝わりにくく、階段室型というまとまりが失われたこと、そして、分譲マンションの場合はオートロックによって住民以外が自由に出入りできなくなったことという状況において、高齢者が千里ニュータウンに住み続けるためにはどうすればいいのかを考えることは、大きな課題です。

この記事では、65歳以上(高齢者)の単独世帯が増えていることを強調し過ぎていると思われた方がいるかもしれません。もちろんその指摘は正しく、街に住むのは高齢者だけではありません。ただし、注意が必要なのは千里ニュータウンは現在でも住民の年齢構成が偏っていること。2020年時点では高齢化率の上昇にストップがかかっていますが、借家(賃貸)に比べて持ち家の住民が長期にわたって住み続けることを考えれば、近い将来、再び高齢化率が急激に上昇することは容易に想定されます。高齢になっても千里ニュータウンに住み続けるにはどうすればよいかを考えることは、現在の高齢者だけでなく、現在の若い世代(将来の高齢者)にとっても大切なことだと考えています。


■注

  • 1)この記事では、千里ニュータウンとして開発された12住区(吹田市域8住区、豊中市域4住区)のみを対象としており、上新田は対象としないこととする。
  • 2)1985年以降の国勢調査では世帯が「一般世帯」と「施設等の世帯」に区分されており、「一般世帯」は以下を表す。①住居と生計を共にしている人々の集まり又は一戸を構えて住んでいる単身者。ただし,これらの世帯と住居を共にする単身の住み込みの雇人については、人数に関係なく雇主の世帯に含める、②上記の世帯と住居を共にし、別に生計を維持している間借りの単身者又は下宿屋などに下宿している単身者、③会社・団体・商店・官公庁などの寄宿舎,独身寮などに居住している単身者。総務省統計局「世帯・家族の属性に関する用語」のページより。
  • 3)世帯の家族類型の詳細は、総務省統計局「世帯・家族の属性に関する用語」のページを参照。
  • 4)2000年国勢調査では「公営・公団・公社の借家」だが、ここでは2020年の表記を用いている。なお、都市再生機構(UR)の設立は2004年7月である(都市基盤整備公団と地域振興整備公団の地方都市開発整備部門が統合して設立)。
  • 5)1住宅に1世帯が住んでいる場合はその世帯が「主世帯」、1住宅に2世帯以上住んでいる場合には、そのうちの主な世帯(家の持ち主や借り主の世帯など)が「主世帯」である。総務省統計局「平成15年住宅・土地統計調査 用語の解説《世帯》」のページより。千里ニュータウンのでは、2000年の国勢調査結果で一般世帯が38,158世帯、主世帯が36,766世帯、2020年の国勢調査結果で一般世帯が43,681世帯、主世帯が43,093世帯となっており、ほとんどが主世帯である。
  • 6)階段室型の住棟については、例えば、ディスカバー千里の「府営新千里東住宅の地域活動」のページを参照。