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東日本大震災被災地の人口・世帯数の変化:大船渡市末崎町の場合②

先日、東日本大震災の被災地である大船渡市末崎町の人口・世帯数の変化を見ました。これより、次のような特徴が明らかになりました。

  • 人口について:震災前から減少が続いており、震災によってさらに減少。そして、震災後も減少し続けている。
  • 世帯数について:震災により減少した。震災後は、末崎町ではほぼ一定。大船渡市では微増している。

特に震災後は、人口は減少しているにも関わらず、世帯数はほぼ一定(大船渡市では微増)。これは、世帯あたりの人員が減少し続けていることを意味します。それでは、世帯はどのように変化しているのか? 一人暮らしの世帯は増加しているのか?
こうした疑問に応えるため、以下では1995〜2015年の25年間に実施された5回の国勢調査(小地域集計・03岩手県)の結果を見ていきたいと思います。

人口・世帯数の変化

人口は大船渡市全域、末崎町とも震災前から減少し続けています。
それに対して世帯数は大船渡市全域、末崎町とも2005年まで増加していました。その後世帯数は減少しますが、末崎町では震災後に世帯数が急減しているのに対して、大船渡市全域では震災前後で世帯数はほぼ変化がありません。
世帯あたりの人員は震災前から減少し続けています。末崎町は、大船渡市全域に比べると世帯あたりの人員が多いという特徴があります。

高齢化率の変化

高齢化率(65歳以上の人口の割合)は震災前から増加し続けています。2015年時点で大船渡市全域で約33.9%、末崎町で約37.4%と末崎町の方がやや高い割合となっています。
年齢構成のグラフを見ると、25年間でグラフの山が徐々に右側に移動していることがわかります。
2015年時点で最も人数が多いのは、大船渡市全域、末崎町とも65〜69歳となっています。

世帯の人数の変化

国勢調査では、世帯が「一般世帯」と「施設等の世帯」の2種類に区分されています。

「「一般世帯」とは、「施設等の世帯」以外の世帯をいう。「施設等の世帯」とは、学校の寮・寄宿舎の学生・生徒、病院・療養所などの入院者、社会施設の入所者、自衛隊の営舎内・艦船内の居住者、矯正施設の入所者などから成る世帯をいう。」
*総務省統計局『平成27年国勢調査 世帯構造等基本集計結果 結果の概要』(2017年9月27日)より

人数別の「一般世帯」の数をら見ると、大船渡市全域と末崎町では傾向が異なることがわかります。
大船渡市全域では、1人暮らしの世帯は震災前から一貫して増加しています。2015年時点で「一般世帯」に占める1人暮らしの世帯は約30.2%、2人の世帯は約28.2%。両者を合わせると約58.4%、つまり、5軒に3軒は1人暮らしか2人の世帯ということになります。
一方、末崎町では震災前は1人暮らしの世帯数は増加していましたが、震災後には減少。「一般世帯」に占める割合はほぼ同じとなっています。震災前後の変化を見ると、2人、3人の世帯の割合が上昇している反面、4人以上の世帯は減少。このことから、末崎町では震災によって1人暮らしの世帯は変化していないが、4人以上の多人数の世帯が減少したという傾向が見られます。ただし、震災前後で変化していないとは言え、約17%が1人暮らしの世帯、つまり、約6軒に1軒が1人暮らしという割合が大きいことに違いはありません。

高齢者のみの世帯の変化

「一般世帯」のうち65歳以上の人のみによって構成される世帯、つまり、高齢者のみの世帯の変化を見ると、大船渡市全域では2005年から2015年まで一貫して増加していることがわかります。
それに対して、末崎町では震災後に高齢者のみの世帯はわずかしか増えていません。ただし、「一般世帯」の数自体が減少しているため、割合は上昇。2015年時点では約25%、つまり、4軒に1軒は高齢者のみの世帯となっています。

高齢者のみの世帯の内訳を見ると、大船渡市全域では「単独世帯」の割合が増えており、2015年時点で約半数が「単独世帯」となっています。
末崎町では震災後、「単独世帯」の割合が低下し、「夫婦のみの世帯」の割合が上昇。約4割が「単独世帯」となっています。
上で見た通り、末崎町の「一般世帯」に対する高齢者のみの世帯が約25%で、さらにその約4割が「単独世帯」であることから、「一般世帯」に対する10軒に1軒は1人暮らしの高齢者世帯ということになります。

「施設等の世帯」の変化

震災により、1人暮らしの世帯(一般世帯)がどう変化したかを見てきましたが、注意が必要なのは震災後には「施設等の世帯」が急増していること。2015年時点でまだ仮設住宅に入居している世帯がここに含まれると思われます。

「施設等の世帯」が全て1人暮らしでも、全てが高齢者のみの世帯でもないため単純な比較はできませんが、「一般世帯」のうち1人暮らしの世帯と、「施設等の世帯」とを合わせると、末崎町でもその数は増加していることがわかります。
従って、震災によって末崎町の1人暮らしの世帯がどう変化したかを確認するためには、次回の国勢調査の結果を待つ必要があるかもしれません。

まとめ

1995〜2015年の25年間に実施された5回の国勢調査の結果から、人口・世帯数の変化を見てきました。大船渡市全域と末崎町ではやや傾向が異なる部分もありますが、末崎町に限れば次のようなことが浮かびあがってきました。

  • 人口は震災前から減少が続いている。
  • 世帯数のピークは2005年で、震災により急減した。
  • 世帯あたりの人員は震災前から減少が続いている。
  • 高齢化率は震災前から増加し続けており、2015年時点で約37.4%。
  • 「一般世帯」に占める1人暮らしの世帯の割合は震災前後で約17%と大きく変化していない → 2015年時点でおよそ6軒に1軒が1人暮らしの世帯。
  • 「一般世帯」のうち、高齢者のみの世帯は増加し続けている → 2015年時点でおよそ4軒に1軒は高齢者のみの世帯。
  • 高齢者のみの「一般世帯」のうち、「単独世帯」は震災後に減少 → 2015年時点で「一般世帯」全体のおよそ10軒に1軒は1人暮らしの高齢者世帯。