『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

居場所:既存の地縁型組織とは別のかたちでの助け合い

近年各地に開かれている居場所(まちの居場所)では、地域の人々が日常的に出入りする場所であることの結果として、様々なかたちでの助け合いが生まれています。
居場所における助け合いは、自治会や町内会といった従来からある地縁型組織と同じなのか? と聞かれることがあります。これに対しては、居場所では既存の地縁型組織とは別のかたちでの助け合いが生まれていると考えています。

居場所における助け合いについて、大船渡市末崎町の「居場所ハウス」の次のような出来事が思い出されます。随分前の出来事ですが(2019年12月10日)、この日、「居場所ハウス」では次のような出来事がありました。


土曜・日曜に食事に来られる50前後の女性がいます。時々食事に来られるので、「居場所ハウス」のスタッフとも顔馴染み。ある日、この女性は風邪気味のようで食事を残されたことがありました。それを見た「居場所ハウス」のスタッフは、夜に温めて食べればいいから持って帰ったらどうかと声をかけていました。

その日の午後、「居場所ハウス」の近くに越して来られた若い女性が「電話貸してください」と言って入って来ました。携帯電話をどこかに忘れたようで、電話が使えず、「居場所ハウス」に来られたようでした。

この出来事から、次のようなことを感じました。
2人の女性は高齢の世代ではないこと。「居場所ハウス」に日常的に出入りしているのは高齢の世代ですが、若い世代の人にとって「居場所ハウス」はちょっと困った時に助けを求めることができる場所と認識されているのではないかと。

「居場所ハウス」は既存の地縁型組織(末崎町では公民館)とは別に、NPO法人として運営しています。既存の地縁型組織はある一定の地理的範囲に住む人が所属する組織だと言えます。これに対して、カフェ、食堂、朝市などお店というかたちで運営している「居場所ハウス」は所属する場所ではありません。それゆえ、そこでの助け合いは一定の地理的範囲を越えたものにある可能性があるということです。

電話を借りに来られた女性については、隣近所の家に電話を借りに行くという選択肢もあったかもしれません。昔であればどの家も鍵を掛けず、扉を開け放しにしていたようですが、現在の住宅はそのような状況でなくなりつつある。特にこの女性は最近越して来られたばかりだということで、隣近所の家に電話を借りに行くというのはハードルが高かったのかもしれません。かと言って、既存の地縁型組織の拠点となる場所(集会所、公民館など)は普段は鍵がかかっており、日常的に出入りできるわけではない。それゆえ、お店というかたちで運営している「居場所ハウス」に電話を借りに来られたのではないかと思います。

このように考えると、「居場所ハウス」はお店というかたちで運営しているがゆえに、既存の地縁型組織のように所属する場所ではないこと、既存の地縁型組織の拠点のように日常的に出入りできない場所ではないこと。この2つの意味で、既存の地縁型組織とは別のかたちでの助け合いが生まれる可能性がある。
もちろん、「居場所ハウス」と既存の地縁型組織のどちらが好ましいかという話ではなく、地域には様々なかたちで助け合いのできる複数の場所や組織があるのがよいと考えています。