子どもの学び、高齢者のケアの文脈においては、施設から地域へということばしばしば指摘されてきました。子どもや高齢者を地域から隔絶した施設に収容するのではなく、地域との関わりをもちながら学びやケアが行われる必要があるのだと。
しかし、先日ある方と話をしていて、この考えには、施設の周りには豊かな地域が存在することが暗黙のうちに前提とされているのではないかと感じました。人口減少をこれから経験する日本においては、ほうっておいても豊かな地域が無条件に存在することを前提にできなくなってくる。だからこそ、地域自体を豊かなものにしていく拠点となる場所が必要になります。
普段は鍵が閉まっていて目的がないと利用できない公民館や集会所に対して、「ふらっと気軽に立ち寄れる」ことが「まちの居場所」の価値の1つだとされてきました。もちろん、この価値の重要性は変わらないと考えていますが、これに加えて、「まちの居場所」には地域をどのように豊かにしていくかという役割も求められるようになると思います。
日建設計ボランティア部とNPO法人Ibasho Japanでは、大船渡の「居場所ハウス」において地域での暮らしの課題を共有し、解決する手がかりを得るためのマップ作りのワークショップを継続してきました(2015年6月27日(土)、10月17日(土)、12月19日(土)の3回実施)。
4月以降に予定している次回のワークショップでは、3回のワークショップで出された課題を解決するために何ができるか? を考える機会にしたいと考えており、先日、日建設計ボランティア部とIbasho Japanのメンバーで次回ワークショップの準備のためのミーティングを行いました。
ミーティングで議論したことは、地域が抱える課題を解決していくためには、今は資源と認識されていないもの(コストになっているもの)や、今はバラバラの状態で動いているものを組み合わせることで(再構築することで)、新たなものを生み出していくしかないということ。
ミーティングでは、例えば、路線バスの本数が少ないのであれば、路線バスとスーパーマーケットの買い物バスとで時間を調整し利便性を高めるというアイディアが出されました。また、「居場所ハウス」のある末崎町には救急車が配備されていないため、119番に電話してから病院に到着するためには1時間かかってしまう。震災前から救急車の末崎町内への配備を要望しているが資金不足のため叶わない。これに対して、先日のミーティングでは普段は救急車ではないが緊急時は(覆面パトカーがサイレンを屋根に取り付けて走るように)優先的に車道を走行できる車を配備しておくというアイディアも出されました。突飛な意見かもしれませんが、人口減少、財政規模の縮小を迎える地域においては無い物ねだりをしているだけでは状況は変わりません。このような発想の転換が必要になってくると思います。
地域の課題を解決するためには行政との交渉が不可欠なものもありますが、それだけでなく、地域の人々だけで今すぐにでも取り組めるものもありそうです。
次回のワークショップでは地域にどのような資源が眠っているかをリストアップし、その組合せの可能性を考える機会にしたいと考えています。
「居場所ハウス」のこれまでの活動を振り返れば、例えば、カマドは近所の家に放置されていたものを補修したものであり、農園は休耕地だった土地を使ったもの。「地域にはこんな資源が眠っている」ことにさえ気づけば、カマドや農園のように新たな展開が次々に生まれてくるような気もします。
「居場所ハウス」における一連のワークショップが、「居場所ハウス」を拠点として地域を豊かなものにしていくための議論が行われていく機会になればと思います。