千里ニュータウン研究・情報センター(通称:ディスカバー千里)は、千里ニュータウンの歴史と価値を発見するために、調査・研究、アーカイブ、デザイン、情報発信などの活動を行っています。
少し前になりますが、ディスカバー千里のアーカイブの取り組みについて、研究者の方からインタビューを受ける機会がありました。研究者の方によると、日本において、地域を対象とするアーカイブ事業は、収集した写真や資料のデータベースを整備している団体が多いが、ディスカバー千里はデータベースを整備しておらず、ブログ形式のウェブサイト自体をアーカイブにしているのが特徴だということでした。

ディスカバー千里は、WordPressを用いてブログ形式のウェブサイトを運営していますが、ブログ形式のウェブサイト自体がアーカイブであることについて次のようなことを考えました1)。
ディスカバー千里のアーカイブ
ディスカバー千里は、千里ニュータウンの絵葉書作りから始まり、その後、街歩き、小学校での出前授業などの活動を行ってきました。そのため、ディスカバー千里はオンライン上のデータベース整備だけを目的としているわけでないという背景もありますが、任意団体であるため体制の面でも、資金の面でも、データベース整備には十分でないという理由もあります。
(ディスカバー千里によるまち歩き)
これは消極的な理由ですが、その一方で、ブログ形式のウェブサイト自体をアーカイブにすることには、次のような意味があるように思います。
それは、地域での暮らしのアーカイブを考えると、あらゆるものがアーカイブの対象になり得るということ。それは雑多な情報とも言え、ある統一した形式のデータベースを整備するのには馴染みにくいかもしれません。しかし、データベースの形式に馴染まないものに、意味がないわけではありません。
ディスカバー千里は、その時々の情報をブログ形式で発信してきました。その情報は様々なものが含まれますが、その蓄積は、結果として、千里ニュータウンの歴史を継承するためのアーカイブにもなっていると捉え得るということのように考えています。
ディスカバー千里がブログ形式で発信している情報には、次のようなものも含まれます。
1つは、様々な方々からお寄せいただいた思い出。ディスカバー千里は、ウェブサイトで千里ニュータウンの思い出を募集しています。これまで多くの方々からお寄せいただいた思い出も、貴重な千里ニュータウンのアーカイブです。
もう1つは、暮らしのアーカイブとしてのあらゆるものには、ディスカバー千里の活動もまた含まれていること。ディスカバー千里がどのような絵葉書を作成したのか、どのようなコース、テーマのまち歩きを行ったのか、どのような経緯で、どのようなテーマの出前授業を行ったのか。このようなディスカバー千里の活動にまつわる情報もまた、その時々の千里ニュータウンの状況を記録するものとして、後から振り返れば、アーカイブとして捉え得ると考えています。
リビング・アーカイブ
イギリスのニュータウンであるミルトン・キーンズ(Milton Keynes)で活動するリビング・アーカイブ(Living Archive)というグループがあります。
リビング・アーカイブは、地域のドキュメンタリー演劇の制作、そして、居住者のオーラル・ヒストリーの収集を行なっていた2人の活動がきっかけで設立されたユニークな団体です。設立の背景には、ニュータウン開発が大きく関わっています。一方で、進歩という名の下に生活と歴史が破壊された旧住民(rural population、old-time resident)がどうすれば誇りを持つことができるのかという課題があり、もう一方で、家族や友人とのつながりを残して、新たな住宅地に移り住んできた新住民(Newcomers、new arrivals)が、過去と未来のある場所にどうすれば帰属意識を持つことができるのかという課題がありました。こうした問題意識から設立されたリビング・アーカイブは、「誰もが語るべき物語をもっている」(everybody has a story to tell)という信念にもとづき、場所への愛着、歴史、帰属意識(sense of place, history and belonging)を育むために、人々の記憶から着想を得たドキュメンタリーアート作品を制作してきました。具体的な作品としては、11の大型ミュージカル・ドキュメンタリー、100本以上の映画、20冊以上の書籍、写真展、ラジオやビデオのドキュメンタリー、彫刻イベント、コミュニティのテキスタイル・プロジェクト、ダンスショー、ウェブページのデザインと制作、そして、何百ものデジタルストーリーなどがあります*2)。
興味深いのは、このような制作活動を行うプロセスで写真やインタビューが蓄積され、結果として100,000枚以上の写真、約35,000枚の写真ネガ、1,000時間以上の録音テープをアーカイブとして蓄積することになったことです。2010年に訪問した際、スタッフの方から次のような話を伺いました。
「リビング・アーカイブは、ほとんど偶然アーカイブを作ることになったんだ。なぜなら、〔地域を〕調べた結果を絵劇や本、ウェブサイトのために使っているから、〔演劇や本、ウェブサイトを作るのと〕同時にアーカイブが蓄積されていった。・・・・・・。正直に言うと、当初、1980年代は〔インタビューを〕録音さえしていなかった。ビデオも使ってなかった。」
(リビング・アーカイブが蓄積した資料)
この話を伺い、暮らしのアーカイブは、何らかの活動に付随して、結果として構築されるものもあるのだと気づかされました。ディスカバー千里のアーカイブも、これに近いように思います。
2010年に訪問した際には、収集した写真のカタログ作り(データベースの整備)をされていると話されていました。
現在、リビング・アーカイブのウェブサイトのアーカイブ(Archive)のページには、航空写真、第一次世界大戦、フットボールクラブなど様々なテーマで、収集した写真などの資料がデータベースとして掲載されています。また、オンラインショップ(Onlineshop)では書籍、音声、写真、グリーティングカード、Tシャツなどに加えて、地域についての授業を行う教員のために、ワークシートとPowerPointの付いた授業計画、回顧録/思い出話(reminiscences)、写真、地図など授業に必要な全ての教材をセットにした教材パック(Teacher’s resource pack)も販売されています。教材は10ポンド、送料2.95ポンド(約2140円、送料約630円)で販売されています。
先に書いた通り、ディスカバー千里も小学校での出前授業を行っていますが、収集した写真やインタビューから教材パックを作成されていることは、参考になります。
■注
- 1)以下は、ディスカバー千里のウェブサイトに加えて、このニュータウン・スケッチの千里ニュータウンについての記事にもあてはまる。
- 2)Living Archive「Background of Living Archive MK – Creative Placemaking Since The 1970s」のページより。
■参考文献
- 田中康裕「「英国ミルトン・キーンズにおけるアーカイブの概要とその意義:計画住宅地におけるアーカイブに関する研究」・『日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)』F分冊 pp339-340 2013年8月

















