アメリカのニュータウン、グリーンベルト(Greenbelt)は今年まちびらきから75周年を迎え、年間を通して様々な行事が行われています。
今回ご紹介するのはその中の1つ、アライト・ダンス・シアター(alight dance theater)とグリーンベルト・ミュージアム(Greenbelt Museum)による共同プロジェクトの「ホームタウン・ヒーローズ(故郷の英雄たち/Hometown Heroes: 75 Years of Extraordinary Greenbelt Women)」というダンス・インスタレーション。ダンスで、まちびらき当時の女性(主婦)の生活を表現するという非常に興味深いプロジェクトです。
75年前に新しく生まれた街、グリーンベルト。入居してきたのは主に若い夫婦。昼間、男性は仕事へ出かけ、街に残るのは主婦となった若い女性ばかり。男性のいない間、家庭のこと、それだけでなく、街のことを切り盛りしていたのは彼女たちだった。ヒロインズでなく、あえてヒーローズというタイトルがつけられているのは、このような意味が込められているのかもしれません。
恐らく、このような状況はかつての千里ニュータウンでも見られたのだろうと思います。そういう意味で、ニュータウンには国を超えた共通点がありそうです。
「ホームタウン・ヒーローズ」の舞台となったのは、グリーンベルトのミュージアム。市が、75年前に建てられた住戸を買い取り、当時の家具などと一緒に、公開している場所です。
「ホームタウン・ヒーローズ」は6月と7月にそれぞれ2日の計4日、それぞれの日に13:00、13:30、14:00、14:30と4回上映される予定です。ただし、1回の公演を見ることのできるのは6〜8人。
事前にウェブサイトを見たところ、既にチケットは売り切れと書かれていました。「ミュージアムでダンスと言っても、小さな住宅なのに、どうやってダンスをするのだろう?」と思いながら、ミュージアムの中に入れなくとも雰囲気が少しでもわかればと思いミュージアムに向かいました。
ミュージアムに到着すると、表にはテントが貼られており、既に何人かの方が集まっていました。ちょうどキュレーターの方が表に出てこられて、まだチケットは余ってるとのこと。幸運にも初演のチケットを購入することができました。チケットの代金は3ドル。
公演は住宅の前の庭から始まります。1930年代の服を着た女性が、物干しロープに洗濯物を干しているシーン。扉のところにラジカセが置かれており、当時の暮らしを振り返る語り(収集されたオーラル・ヒストリー)が流されています。
ミュージアムとして公開されているのは、グリーンベルトがまち開きした1937年に建てられたブロック造の建物。通りと庭に面するようにと住宅の配置が考えられており、通りに面した側はサービス・サイド(Service Side)、庭に面した側はガーデン・サイド(Garden Side)と呼ばれています。洗濯を干しているのはサービス・サイドの庭。なお、住宅は一戸建てではなく、数軒が連続するロウハウス(row house)のタイプ。ミュージアムは、2軒が連続するロウハウスの片方の住戸に開かれており、もう片方の住戸は実際に住んでおられる方がいます。
洗濯物を干し終えた女性は、ガレージの脇を通って庭(ガーデン・サイド)へ移動。今度は、窓拭きのシーン。観客もその脇を通って、裏庭に移動します。
窓拭きをしているところを、友人が庭を通りかかります。すると、2人が庭を舞台としてダンスを始めました。
ダンスが終わった後、2人はポーチのテーブルで一休み。
2人がポーチで休んでいると、向こうから、買い物帰りの2人の女性が歩いて来ました。買い物のカートを道端において、ダンスが始まります。
歩いてきた女性も加わって、3人でのダンス。
最後には、ポーチで休んでいた2人も加わり、5人でのダンスです。庭を飛び跳ね、駆け回るダンサーたち・・・ 観客のすぐ目の前でダンスが繰り広げられているので、かなりの臨場感でした。庭にもラジカセが置かれ当時の暮らしを振る語り(収集されたオーラル・ヒストリー)が流されています。
ダンスの後、友人たちはそれぞれの方角へ歩いていきました。友人たちと別れた女性は、家の中へ。観客も後について家の中に入ります。
家に入った女性は、リビング・ダイニングで拭き掃除。
掃除の途中で、雑誌を読む女性。かと思うと、突然、雑誌を手にしたままダンスが始まります。部屋に置かれている家具は、全てまちびらき当時のもの。すぐ目の前で、当時の暮らしが再現されているようで、ある方は「映画の中に入り込んだようだ」という感想。
ここでも、部屋に置かれたラジカセから、人々が当時の暮らしを振り返る語り(収集されたオーラル・ヒストリー)と、当時の音楽、当時のラジオ番組・CMが流れてきます。
しばらくすると、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。それを聞いた女性は、2階の子ども部屋へ行き、赤ちゃんを抱いてあやします。
赤ちゃんが寝静まった後、女性は隣のベッドルームへ。化粧をなおした後、収納スペースから段ボールを取り出しました。中にしまわれていたのはウェディングドレス。ドレスをベッドの上に広げて眺めます。しばらく眺めた後、段ボールにいれて収納スペースへ。ここでもダンスが繰り広げられました。
1階に降りた女性はキッチンへ。食器を洗った後、クッキング・ブックに載っているレシピを見ながら料理をするシーン。料理の後、リビング・ダイニングで今度は掃き掃除。新聞がちりとり代わりです。ダイニングのテーブルに食器を並べて、夕食の準備ができました。
この後、靴を履いて表(サービス・サイド)に出たところで上演は終了。およそ30分間の上演でした。表には、次の回の上演を見に来た人たちが集まっていました。
当時の暮らしを、このような方法で表現するのだと、あまりの素晴らしさと、目の前で繰り広げられるダンスの迫力にただただ感心するばかり。あっという間の30分でした。
なお、住戸内や庭に置かれたラジカセでは、当時の暮らしを振り返る語り(収集されたオーラル・ヒストリー)、当時の音楽、当時のラジオ番組・CMが流されていましたが、パンフレットによると、音楽については以下の曲が選曲されています。
- デューク・エリントン(Duke Ellington) “Mood Indigo”
- ショパン(Chopin) ”Prelude in C Op28 #1″
- ビング・クロスビー(Bing Crosby) ”Wrap Your Troubles in Dreams”
- サミー・ケイ(Sammy Kaye) “Love Walked In”
- ビリー・ホリデイ(Billie Holiday) “When You’re Smiling”
(更新:2015年8月31日)