ミッション・ベイ(Mission Bay)は、現在でも開発が進むサンフランシスコの最新の地区(Neighborhood)。北をチャイナ・ベイシン(China Basin)、南をドッグパッチ(Dogpatch)、東をサンフランシスコ湾、西をインターステート280号線(I-280)、7th Street、カルトレイン(Caltrain)の線路に囲まれており、面積は303エーカー(123ha)。
すぐ北東にはサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地であるオラクル・パークがあります。
ミッション・ベイの北部にはサンフランシスコと南部のギルロイを結ぶカルトレイン(Caltrain)の始発駅があります。また、ミッション・ベイを南北に走るThird Streetには、MUNIメトロのTラインが走っており、ダウンタウンまで10分ほどでアクセスすることができます。
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都市化される前、ミッション・ベイは湿地でした。1800年代の半ばになると、建築プロジェクトからの廃棄物置き場として利用されるようになり、1906年のサンフランシスコ地震の瓦礫置き場としても利用されました。湿地は充填剤(Infill)の重量ですぐに安定したため、この地区はすぐに工業地帯になりました。1850年までに、造船と修理、食肉の処理と生産、カキとハマグリの漁に利用されるようになりました。鉄道が建設されたことで、ミッション・ベイは造船所、缶詰工場、砂糖精製所、そして、様々な倉庫の拠点となって行きました。
1998年、この地区の再開発プロジェクトが監理委員会(Board of Supervisors)により発表。土地の大部分は「Southern Pacific Railroad Company」のレールヤードでしたが、「Southern Pacific」と「Santa Fe Railway」の合併が中止されたのに伴い、カテラス社(Catellus Development Corporation)に移管されることになりました。カテラス社はその後、いくつかの区画を他のディベロッパーに売却、下請けに出しました。ミッション・ベイは高級マンション、病院、バイオテクノロジー研究施設のある裕福な地区に急速に発展していきました*1)。
ただし、ミッション・ベイの再開発には紆余曲折があり、最終的には市民参加のプロセスを経て進められたという歴史があります。
佐藤健正による「近代ニュータウンの系譜-理想都市像の変遷-」(2015年7月)では、「市民参加によるベイエリア再生」の事例としてミッション・ベイが取り上げられており、再開発の経緯が次のように紹介されています*2)。
- 1981年:Southern Pacific(後のカテラス社)が最初の計画案を公表。しかし、オフィス、ホテル、郊外型の住宅地開発を含んだこの案は「大都市内の開発としては不適当」との理由で都市計画局に却下。
- 1983年:建築家I・M・ペイの設計による案が公表。運河の周囲に3棟の高層ビルを含む158万m2オフィスを建設する案に対しては、高層ビルにより眺望が遮られる、倉庫・工場の取り壊しによりブルーカラーの雇用が失われる、アフォーダブル・ハウジングが含まれていない、インフラや環境への負荷がかかることから、市民団体からの反発を受ける。これを受け、開発案は取り下げられる。
- 1984年10月:サンフランシスコ市長が、Southern Pacific(後のカテラス社)に超高層建築の制限、低価格住宅の導入などの基本的な開発ガイドラインを示す書簡を送付。この文書が新たな開発計画策定プロセスの出発点となる。
- 1985年:都市計画局、市民、デベロッパー、コンサルタント(SOM)の共同作業による開発計画の策定が開始。サンフランシスコの伝統的な街区構成の継承、アフォーダブル・ハウジングの供給、バランスのとれた複合的土地利用と職住近接、ヒューマンスケールの維持、オープンスペースの確保(20%)など、市民の主張に沿った計画方針が取り入れられ、開発ボリュームも大幅に縮小される。
- 1990年:計画の最終案がまとまる。
- 1991年:サンフランシス市とディベロッパーの間で開発協定が締結。しかし、数年間は経済の悪化、カテラス社の経営不振により開発は進まなかった。
- 1996年:計画が再び動き出す。カテラス社がサンフランシスコ市長に1991年の開発協定の破棄、ミッション・ベイの再開発地区指定を要請。市がこれを受け入れたため、市の再開発プロジェクトとして再始動する。このプロセスは、カテラス社自らが市民参加のプロセスを組み込みながら進められた。市民参加のプロセスは、シミ諮問委員会(CAC:Mission Bay Citizen’s Advisory Committee)によりサポートされた。
- 1998年:正式な再開発計画として取りまとめられる。
- 2000年:事業が開始。
最初の計画案の公表から約40年、事業開始から約20年が経過していることになります。
ミッション・ベイはいくつかのエリアに分かれています。
目次
住宅エリア
ミッション・ベイのほぼ中央を東西に走る公園、ミッション・ベイ・コモンズ(Mission Bay Commons)の北側は住宅のエリアになっています。
中層の住宅が並んでいます。
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ミッション・ベイにはアフォーダブル・ハウジングも設けられています。150戸のアフォーダブル・ハウジングのある建物(1180 Fourth Street)。
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住宅エリア内では子どもの遊び場、ドッグ・パーク、スーパーマーケットを見かけました。
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ミッション・クリーク
住宅地のエリアにはミッション・クリーク(Mission Creek)という人工の水路があり、水路の両側は遊歩道になっています。所々に設置されたベンチに座って話をしたり、散歩したりしている人を見かけました。
遊歩道からは、ミッション・クリークにある20のハウスボート(Houseboarts)、そして、ミッション・ベイの住宅や建物などを一望することができます。
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運河の南側には、ミッション・クリーク・パーク(Mission Creek Park)という芝生の広場のある公園。子どもを遊ばせたり、芝生に座って話をしたりしている人を見かけました。公園の一画には、ミッション・クリーク・パーク・パヴィリオン(Mission Creek Park Pavilion)という小さな建物があります。
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ミッション・クリーク北側の遊歩道を西に歩くとI-280の高架下に。高架下にはバスケットボールコートと、MKThinkの設計によるボートを収納する小さな建物、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)ミッション・クリーク・ボートハウス(UCSF Mission Creek Boathouse)があります。
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ミッション・ベイ・コモンズ(Mission Bay Commons)
ミッション・ベイのほぼ中央を東西に走る公園で、公園の北側が住宅エリア、南側がUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のキャンパス、及び、オフィス・研究施設となっています。
ミッション・ベイ・コモンズには芝生の広場、フードトラックが出店している場所、パターゴルフのコース、サッカー場などがあります。
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ミッション・ベイ・コモンズの西側の延長線上には大きなラウンドアバウト。周囲はまだ更地ですが、将来的にラウンドアバウトの周囲には学校、住宅、公園が建設されるようです。
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Third Street
ミッション・ベイのほぼ中央を南北に走る通りで、MUNIメトロのTラインも走っています。
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UCSFミッション・ベイ・キャンパス
東をThird Street、西をOwens Streetに挟まれたミッション・ベイ・コモンズの南側のエリアは、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)ミッション・ベイ・キャンパスになっており、病院、研究棟などが並んでいます。キャンパスはまだ完成しておらず、建設中の建物も見かけます。
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UCSFミッション・ベイ・キャンパスの中央にある芝生の広場、Koret Quad。向こうに見える茶色の建物は、Legorreta + Legorreta with MBTの設計によるWilliam J. Rutter Centerで、カフェテリア、図書館などが入っています。
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アメリカ合衆国最大級の建築設計事務所のSOM(Skidmore, Owings & Merrill/スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル)の設計による神経科学.(ニューロサイエンス)の研究棟、Sandler Neurosciences Center。
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ミッション・ベイの南西角に位置するMariposa Parkからは、UCSFミッション・ベイ・キャンパスの建物などを一望することができます。
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研究施設・オフィスなどのエリア
ミッション・ベイ・コモンズの南側は、UCSFミッション・ベイ・キャンパスを挟むように東西が研究施設、オフィスなどのエリアになっています。
Owens StreetとI-280の高架に囲まれた部分は研究施設、オフィスのエリアになっており、写真はクラウドサービスのDropboxが入居する建物(1800 Owens St)。
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Third Streetの東側にも研究施設、オフィスのエリアになっており、まだ建設中の建物も多く見られます。
11階建てと6階建ての2棟の建物をスカイブリッジで結ぶ建物。設計はSHoP。
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チェイス・センター(Chase Center)
Third Streetの東側には、2019年9月6日にオープンしたばかりのチェイス・センター(Chase Center)があります。NBAのゴールデンステート・ウォリアーズが拠点とする多目的アリーナです。
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チェイス・センターの前は広場になっており、近未来的な雰囲気のする一画となっています。広場のThird Street沿いにはガラス張りの建物。
訪れたのは平日の昼間だったためあまり人を見かけませんでしたが、ガラス張りの建物脇の階段状のテラスに座っている人を見かけました。
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チェイス・センターの北側を通って東側まで遊歩道となっており、東側からはサンフランシスコ湾を眺めることができます。
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ミッション・ベイは再開発プロジェクトにより計画的に作られた地区ですが、日本のニュータウンと異なり、アフォーダブル・ハウジングを含めた多様な住宅だけでなく、研究施設、オフィス、商業施設、多目的アリーナなど様々な種類の建物から構成されているという特徴があります。
そして、ミッション・ベイの再開発はまだ完了しておらず、風景はこれからも変化していくと思います。
注・参考資料
- *1)Wikipedia「Mission Bay, San Francisco」の記載を翻訳
- *2)以下は、佐藤健正「近代ニュータウンの系譜-理想都市像の変遷-」(2015年7月)の記載を箇条書きにしたもの
- John King, “Mission Bay comes of age“, San Francisco Chronicle, August 25, 2019
- John King, “Mission Bay: 10 diamonds in the rough”, San Francisco Chronicle, Updated: August 25, 2019