『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

サンフランシスコのPOPOS:民有のパブリック・オープンスペース②

サンフランシスコには、ダウンタウンのオフィスがあるエリアを中心にPOPOSと呼ばれる場所が多数あり、都市での暮らしを豊かにしています。POPOSは「Privately Owned Public Open Space」の頭文字をとったもので、民間が所有する土地ですが、法的にパブリックな場所として公開することが要求される空間で、民有のパブリック・オープンスペースという意味(POPOSの概要はこちらをご覧ください)。

現在、サンフランシスコにPOPOSは78ヶ所あり、屋外の広場、建物の屋上、屋内など多様なタイプがあります。いずれも無料で利用できますが、利用可能な時間が限られている場所もあります。ほとんどの場所は受付不要で自由に利用できますが、建物の屋上にある場合は受付で名前を記入したり、写真付きのID(パスポート等)を提示する必要がある場所もありました。

*地図は「DataSf」に掲載の「Privately Owned Public Open Spaces」(2018年10月24日更新)のデータをもとに作成

ここでは、受付での名前の記入やIDカードの提示が不要な場所のうち、実際に訪れて特に心地よいと感じたPOPOSをご紹介します*1)。

101 California St

  • 住所:101 California Street
  • タイプ:プラザ
  • 開設年:※「101 California Street」の48階の高層ビルは1982年竣工
  • 利用可能時間:常時利用可能
  • 座席:Ample seating at terrace-like steps
  • 飲食サービス:無し
  • トイレ:無し

高層ビルの前のプラザに三角形のひな壇のようなものが3つ配置されています。ひな壇にはクッションが置かれており、いつ通りかかっても人が座っています。話をしたり、コーヒーを飲んだり、本を読んだり、スマートフォンを操作したり、音楽を聴いたりしている人など。高層ビルに入る人、高層ビルから出てきた人がプラザを行き交っています。

お昼の時間帯は特に人が多くなり、座れる場所はほぼ人でいっぱい。通りにはフードトラックが営業しており、食事をしたり、飲み物を飲んだりしている人も。お昼の時間帯にバンドが演奏しているのも見かけたことがあります。

訪れて気づいたのは、1〜2人で過ごしている人がほとんどであること。これに関して上手くデザインされていると感じるのは、ひな壇の所々に人が1~2人で座れるスペースを空けて、プランターが置かれていること。植木鉢が隣り合って座る人との間に適度な距離を作り出してくれるため、周りに大勢の人がいても1~2人で居やすい場所になっていると感じました。

Citygroup Center

  • 住所:1 Sansome Street
  • タイプ:アトリウム
  • 開設年:1983年
  • 利用可能時間:月~金 7:00~17:00
  • 座席:Ample seating at tables with movable chairs.
  • 飲食サービス:カフェ・デリ
  • トイレ:有り

シティグループ・センター(Citygroup)の建物の、Sansome StreetとSutter Streetの交差点に面した部分がPOPOSとして開放されています。ギリシア風の建物の中はアトリウムになっており、丸いテーブルが置かれています。一角にはカフェ・デリのお店も。所々にヤシの木のような形の木が植えられています。北側の壁には、彫刻家であるアレクサンダー・ スターリング・カルダー(Alexander Stirling Calder)による銅像「Star Maiden」が設置されています。

アトリウムに置かれている丸いテーブルはあまり大きくないため、結果として1~2人で過ごしている人ばかりとなっています。2人で話をしている人もいますが、1人で過ごしている人の方が多く、食事をしたり、飲み物を飲んだり、ノートパソコンで作業をしたり、スマートフォンを触ったりして過ごしていました。

100 First Street Rooftop Garden

  • 住所:100 1st Street
  • タイプ:サンテラス・インドアパーク・
  • 開設年:1985年
  • 利用可能時間:常時利用可能
  • 座席:30 seats at 10 tables plus numerous areas to sit along built-in benches and planters, grassy areas.
  • 飲食サービス:1階に有り
  • トイレ:無し

「100 First Garage」の屋上がサンテラスになっており、Mission Street沿いに階段があります。
所々にテーブルが置かれており、段差になっているところにも座れるようにデザインされています。入り組んだ形態になっているため、周りからの視線が遮られるコーナーが作り出されており、そこに座っている人も。訪れた時は1人、2人で座って食事をしたり、話をしたりしている人が多かったです。

Empire Park

  • 住所:642 Commercial Street
  • タイプ:ポケットパーク
  • 開設年:1988年
  • 利用可能時間:営業時間内
  • 座席:15 chairs w/ tables, 8 bench seats in the park, 8 along commercial.
  • 飲食サービス:無し(Commercial Streetに有り)
  • トイレ:無し

ダウンタウンの小さなポケットパーク。入口を入った両脇にベンチ、奥には4人がけの固定式のテーブルが4つ置かれています。正面には正面にはPepo Pichlerによる噴水。
Empire Parkは金融地区(Financial District)とチャイナタウンの境界付近に位置。いずれ人通りの多い地区ですが、このポケットパークは静かな場所になっています。

343 Sansome Rooftop Deck

  • 住所:343 Sansome Street
  • タイプ:ビューテラス
  • 開設年:1990年
  • 利用可能時間:月~金 10:00~17:00
  • 座席:18 chairs, 50 linear seats on planter box sizes.
  • 飲食サービス:Leidesdorff Street沿いに有り
  • トイレ:無

建物の15階にあるテラスですが、受付を通ることなく自由に出入りすることができます。
建物北側のSacramento Street沿いにPOPOSの標識が出ており、建物の中に入るとロビーになっています。ロビーの中央にあるのはベルギーの彫刻家であるポル・ビュリ(Pol Bury)の作品である噴水「L’Octagon」。ロビー奥のエレベーターで15階へ。

テラスに出た左手には塔状のアート作品が置かれており、周りに四角い2人掛けのテーブルが並んでいます。1〜2人で座って食事をしたり、話をしたり、本を読んだりしている人がいました。テラスに出た右手は木が植えられたプランターが並んでおり、いくつかのプランターの周りはベンチになっています。
15階にあるためか静かで、かつ、眺めもよい非常に気持ちのよい場所です。

101 2nd St

  • 住所:101 2nd Street
  • タイプ:アトリウム
  • 開設年:2000年
  • 利用可能時間:8:00~14:00
  • 座席:25 linear seats on bench/ ledge. 23 tables, 69 chairs
  • 飲食サービス:カフェ
  • トイレ:有り(受付でIDを提示)

吹き抜けのアトリウムがPOPOSになっており、2階にあがることもできます。丸いテーブル、四角いテーブル、背の高いテーブル、ベンチと座れる場所が色々なかたちで提供されています。彫刻家であるラリー・ベル(Larry Bell)の作品「Sumer #24」も設置されています。
訪れたときには食事をしたり、話をしたり、ノートパソコンで作業をしたりしている人がいました。アトリウムからオフィス部分に出入りするため、通り過ぎていく人が多かったのも印象に残っています。

560 Mission St

  • 住所:560 Mission Street
  • タイプ:プラザ・インドアパーク
  • 開設年:2002年
  • 利用可能時間:常時利用可能
  • 座席:45 chairs with 15 tables. 134 linear seating on ledges. 10 linear seats on benches
  • 飲食サービス:カフェ
  • トイレ:無し

Mission StreetとJessie Streetをつなぐ細長いプラザで、テーブル、ベンチが並んでいます。Mission Street沿いには水盤があり、中央にはアメリカの彫刻家ジョージ・リッキー(George Rickey)によるキネティック・アート「Annular Eclipse」が設置。この作品の周りの段差にも座れるようになっています。

座れる場所がたくさんあるため、ゆっくりと過ごせる場所になっています。お昼の時間帯はうってかわって人が多くなり、食事をする人でテーブル、ベンチ、段差になっているところがいっぱいになっていました。

555 Mission St

  • 住所:555 Mission Street
  • タイプ:プラザ
  • 開設年:2008年
  • 利用可能時間:常時利用可能
  • 座席:100 linear seats and benches.
  • 飲食サービス:Empty retail on the plaza
  • トイレ:無し

Mission StreetとMinna Streetをつなぐプラザで、Minna Streetの向こうにはセールスフォース・トランジット・センター(Salesforce Transit Center)があります。Mission Street沿いには、彫刻家であるウーゴ・ロンディノーネ(Ugo Rondinone)の作品「Moonrise Sculptures: March, October and December」。この彫刻の間と、プラザを入った奥にベンチが置かれています。奥のベンチは木陰になっており、このベンチで過ごしている人も多数見かけました。

Linkedin(222 2nd St)

  • 住所:222 2nd Street
  • タイプ:ロビー
  • 開設年:2016年
  • 利用可能時間:月~金曜の8:00~18:00
  • 座席:13 tables, capacity of 61
  • 飲食サービス:カフェ
  • トイレ:有り

Linkedin本社ビルの1階ロビーがPOPOSとなっています。Linkedinは、世界最大級のビジネス特化型SNSサービスを展開する会社。このロビーは2016年の開設で、現在サンフランシスコにある78のPOPOSの中で最も新しい場所です。

出入口は開け放されており、自由に出入りすることができます。Howard Street沿いの細長い空間には長いテーブルが9つ並ん置かれています。テーブルが並んだ空間の脇は階段状になっており、ここに座ることも。階段を上がったところにはカフェ。壁にはフランク・ステラ(Frank Stella)による作品、「The Pequod Meets the Delight」、「Riallaro」、「Shards」の3枚の作品が展示されています。

いつ訪れても多くの人が過ごしており、無料でWiFiも利用できるため快適に作業をすることも可能。1人でノートパソコンで作業をしている人、本を読んでいる人、スマートフォンを触っている人もいれば、2~3人で打ち合わせをしている人もいる。食べ物、飲み物を持ち込んで入ってくる人もいます。多くの人が過ごす、気持ちのよい場所になっていました。


実際に訪問して特に心地よいと感じたPOPOSを紹介してきました。

POPOSには屋外の広場、建物の屋上、屋内など多様なタイプがありますが、次のようなことを感じました。

  • 様々な形、大きさ、高さのテーブル、ベンチといった家具が置かれたり、段差に座れるように工夫されたりしており、都市において無料で座れる場所を豊かなかたちで実現している。
  • 通りから直接出入りできるPOPOSは過ごしている人、通り過ぎる人が多い。その反面、通りとの間に柵がもうけられているPOPOS、建物内にあるPOPOSは人が少ない。
  • POPOSの一画でカフェがあるか、POPOSのすぐ隣にカフェがある場所が多い。
  • アート作品が置かれている場所や、池・滝・噴水などがある場所が多い。
  • 1人で過ごしている人もいれば、グループで過ごしている人もいるが、1〜2人で過ごしている人がほとんど。話をしている人、食事をしている人、本を読んでいる人、ノートパソコンで作業をしている人、座っているが特に何もしていない人など、過ごし方は多様。
  • ダウンタウンで仕事をする人々が食事をするために利用するため、特にお昼の時間帯は人でいっぱいになる。

1985年に策定されたダウンタウン・プランにおいて、POPOSのための体系的な要件が作られましたが、その目的はダウンタウンの労働者、居住者、訪問者のニーズに対応できる十分な量と種類の、質の高いオープンスペースを提供すること*2)。実際にPOPOSを訪れ、まさにこの目的が実現されていることを実感しました。
無料だからといって決して居心地の悪い場所ではなく、ゆっくり過ごせたり、ノートパソコンで作業ができたり、周りの景色を眺めたりと、POPOSはサンフランシスコという都市の豊かさを現れだと感じました。このことは、日本の都市では無料で座れる場所が少ないこととは対照的です。

POPOSを訪れてもう1つ感じたことは、過ごしている人のほとんどが1〜2人で過ごしていること。1〜2人でも決して肩身の狭い思いをせず、堂々と居られる場所になっているということです。
本を読む、ノートパソコンで作業をする、寝転ぶ、周りを眺める、音楽を聴く、食事をする、コーヒーを飲む、スマートフォンを触る、電話するなど、都市の中で1人でできることの多様性を見せつけられました。2人になれば話をしたり、一緒に食事をしたりすることもできます。
重要なのは1〜2人で過ごしている人は周りの人と一緒に活動しているわけではありませんが、かといって、決して孤立しているようも見えないこと*3)。これを実現する上で、1〜2人用の小さなテーブル(Citygroup Center、343 Sansome Rooftop Deck、101 2nd Stなど)、ひな壇の間のプランター(101 California St)、視線を遮るようなコーナー(100 First Street Rooftop Garden)というように、1〜2人で自然に座りやすい空間としてデザインされていることも重要だと感じました。

都市とは賑わいが求められるだけの場所ではなく、1〜2人でも孤立せず豊かに居られる場所であることを、POPOSは気づかせてくれました。


  • *1)POPOSの「住所」「タイプ」「開設年」「利用可能時間」「座席数」「飲食サービス」「トイレ」の項目は、DataSFのウェブサイトで公開されているデータ、サンフランシスコ市の計画局のページに掲載されているマップ等の情報に基づく。
  • *2)Planning Department「Privately-Owned Public Open Space and Public Art (POPOS)」のページより。
  • *3)1人、あるいは、2人で過ごしている人の周りに自然にいることができるからこそ、ここで紹介したような写真を撮影することができる。このことは、1人、あるいは、2人で過ごしている人が孤立しているのでないことを現しているのではないかと感じます。

(更新:2019年5月5日)