『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展でIbashoプロジェクトが展示

第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展

2023年5月20日〜11月26日まで、イタリアで第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(以下、ビエンナーレ)が開催されています。

ビエンナーレの主な会場は、ヴェネチア本島の東端にある公園のジャルディーニ(Giardini della Biennale)と、1104年に設置された元造船場のアルセナーレ(Arsenale di Venezia)の2会場で、建築家の吉阪隆正が設計した日本館はジャルディーニにあります。

(ジャルディーニ)

(アルセナーレ)

ビエンナーレのシンガポール・パビリオンで、ワシントンDCの非営利法人・Ibasho岩手県大船渡市フィリピンのオルモック市ネパールのマタティルタ村で行った3つのプロジェクトが紹介されています。

シンガポール・パビリオン

シンガポール・パビリオンは、「When Is Enough, Enough?」がテーマで、アルセナーレ内に開かれています*1)。
都市における「包摂」(inclusion)、「つながり」(connection)、「自由」(freedom)、「愛着」(attachment)、「魅力」(attraction)、「主体性」(agency)という6つの価値は、通常、数値では測定することが難しい。それでは、都市を建設する時、建築家や研究者はこれらの価値をどのように測定し、どの時点で「もう十分である」と判断できるのか。シンガポール・パビリオンの展示はこのような問題提起を投げかけるもの。
展示では、6つの価値を写真と文章で紹介し、中央には、来館者が価値を投票するための機器が置かれています。機器は、例えば、緑の多い環境と開発され切った環境を両極端とする場面がリニアで提示され、それぞれの来館者はどの程度の緑の多さ/開発のされ具合が好みかをボタンを押して投票。ボタンが押されると、白い紙に黒い線が引かれます。これが繰り返されることで、人々の緑の多さ/開発のされ具合の傾向が、白い紙に模様として現れるというものになっています。

(シンガポール・パビリオン)

ワシントンDCのIbashoの代表がシンガポールと関わりがあり、現在、シンガポールでIbashoプロジェクトの立ち上げが進められている関係で、Ibashoがこれまで立ち上げに関わり、サポートしてきた3カ国のプロジェクトの写真が展示されることになったとのこと。会場では、3カ国のIbashoプロジェクトの何枚かの写真が、「主体性」(agency)、「愛着」(attachment)、「つながり」(connection)、「自由」(freedom)という価値を紹介する写真の一部として展示されています。

(Ibashoプロジェクトの写真)

ブラジル館:金獅子賞

今年のビエンナーレで最高賞の金獅子賞を受賞したブラジル館のご紹介をしたいと思います。

「イタリア北部のベネチアで2年に1度開かれる第18回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展の授賞式が20日行われ、国別参加部門の金獅子賞(最高賞)にブラジル館が選ばれた。・・・・・・。ブラジル館は、先住民族や黒人の哲学に基づいて環境問題などを読み解いた展示が評価された。」
※「金獅子賞はブラジル館 ベネチア国際建築展」・『共同通信』2023年5月20日

(ブラジル館)

ブラジル館では、展示の説明に目がとまりました。説明には次のように書かれています。

「正典(Canon)の脱植民地化
1950年代後半に都市計画家ルシオ・コスタと建築家オスカー・ニーマイヤーによって設計されたモダニズムの首都ブラジリアは、本質的には植民地都市(colonial city)である。
・・・・・・
ブラジリアは、ヨーロッパ白人による植民地支配のジェスチャーをモダニズムの手法で再現した、近代的な内陸部の制服として意図された。UNESCOによるブラジリアの世界遺産登録の定義は、この都市の文化的・歴史的な価値を「無から有を生んだ」ことに帰結させるという、植民地的な視点に依拠している。
この部屋では、この正典に対抗する物語を提示する。ブラジリアの設計と建設に影響を与えた辺境のイメージとは反対に、この土地は先住民族やキロンボ(Quilombola)の領土である。植民地の侵略以前、この地域はブラジル中部のさまざまな先住民族が出会い、交流する場所だった。少なくとも18世紀以降は、奴隷にされた難民やキロンボに自由を求める人々が住み始めた。
現在、首都の南約50キロに、300年前に設立されたキロンボ・メスキータ(Quilombo Mesquita)の土地がある。ブラジル最大のキロンボであるカルンガ(Kalunga)の領土は、ブラジリアの北250キロに位置する。キロンボのコミュニティはこの領土全体に広がり、新しい首都建設の中心的な労働力となった。国連によって環境保全のモデルとして認定されているキロンボ・カルンガ(Quilombola Kalunga)は、人類と地球にとって計り知れない財産的価値を持つ「Landscape construction」(景観構築物)でもある。」
※ブラジル館の展示の説明を翻訳したもの*3)

展示されている黒い土は、「インディオの黒い土地」と訳されるテラ・プレタ・デ・インディオ(Terra Preta de Indio)。展示の説明によれば、この土は、アマゾンのいたるところに見られる人為的に作られた肥沃で炭素が豊富な土で、2500〜500年前に形成された古代先住民文明の伝統的なアグロフォレストリー(Agroforestry)のシステムに由来するもの*2)。近年、高い肥沃度と炭素保持能力から、地球規模の気候変動を緩和するための重要な手段として注目されており、「バイオ炭」という名称で人工的に生産する方法が開発されています。

(インディオの黒い土地)

今年のビエンナーレの総合テーマは「The Laboratory of the Future」(未来の実験室)。世界で代表的な計画都市であるブラジリアに対する問題提起を行っているブラジル館の展示をはじめ、全体的に社会や環境の問題に焦点をあてた展示が多い印象を受けました。このような展示が、「建築展」で行われていることは、建築というものにまつわる固定観念を揺さぶるものだと感じました。


■注