『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

香港の天水囲ニュータウンの光景

香港では、1960年代後半から1970年代にかけて「ニュータウン」(new town)という言葉が正式に採用され、これまでに9つのニュータウンが開発されてきました。
ヨーロッパ文化センター・イタリア「Time Space Existence」における香港中文大学(CUHK)のグループによる展示「「ニュー」ニュー・タウン」を見た後、いくつかの香港のニュータウンを歩く機会がありました。少し歩いただけのため表面的な印象に過ぎませんが、香港のニュータウンで見た光景をご紹介したいと思います。

天水囲ニュータウン

天水囲(Tin Shui Wai)ニュータウンは、1983年から第3期のニュータウンとして開発されました。周囲は開発されておらず、MTRが天水囲ニュータウンに近づくと、緑が広がる土地に高層の住棟群が突然と姿を現した印象を受けました。面積は430haと第1期のニュータウンに比べると狭いですが、計画人口は29万人と非常に高密度なニュータウンです*1)。

天水囲駅は、MTR屯馬線の荃湾西駅と屯門駅の間にあり、九龍半島の南端にある尖東(East Tsim Sha Tsui)駅から約35分の位置にあります。

天水囲ニュータウンの中心には、天水囲公園という大きな公園があり、天水囲駅はニュータウンの南端に位置します。駅を北に出ると、真っ直ぐに通された天端路という大きな通りと、通りの両側に建ち並ぶ高層の住棟が目に飛び込んでいます。大通りにはライトレール(軽鉄)が走っています。
真っ直ぐに通された大通り、建ち並ぶ高層の住棟、そして、ライトレールという組み合わせは近未来的な印象を受けます。このような駅前の風景は先に紹介した第1期の荃湾ニュータウン、屯門ニュータウンには見られず、開発された時期の違いが現れているように感じました。

(天端路)

集合住宅の住棟の中には、スターハウスと呼ばれるY字型の平面をもつものがあります。千里ニュータウンには竹見台に高層のスターハウスがありますが、天水囲駅の北東には竹見台より高層のスターハウスが建ち並んでいるエリア(Tin Yiu Estate)がありました。スターハウスの住棟間には車は入って来ない庭園になっています。1階には託児所、高齢者のデイサービスのような施設も見かけました。

(高層のスターハウスが建ち並ぶTin Yiu Estate)

ライトレールの路線は、天水囲駅から天端路路に沿って北に走った後、天水囲ニュータウンの北端を走る湿地公園路(Wetland Park Rd)を東に、さらに天城路を南に走って天水囲駅に戻るというループになっています。途中、天端路と天城路の間を天栄路を通ってショートカットする路線もあります。ライトレールのいくつかの駅前には、ショッピングモールを見かけました。

(ライトレール)

天水囲ニュータウンで印象に残っているのが歩道と車道を立体交差させるかたちの歩車分離がされていることです。天水囲ニュータウンに通された歩道は、ブリッジによって車道の上を跨いだり、トンネルによって車道の下を潜ったりすることで、歩行者は車にあうことなく移動できるような工夫がされていました。
これは、千里ニュータウン後半に開発された住区をめぐる歩行者専用道路と共通しており興味深いと感じました。千里丘陵を開発した千里ニュータウンは元々、土地に高低差があり、尾根筋に歩行者専用道路、谷筋に車道を通すことで立体交差が実現されています。天水囲ニュータウンは平らな土地に開発されているため、千里ニュータウンのような土地の高低差を活かしたものではありませんが、歩道と車道が立体交差するいくつかの部分で、急な階段ではなく自転車も通れる緩やかな坂を見かけました。

(歩道)

(車道・線路の上を跨ぐ歩道)

(車道の下を潜る歩道)


■注

  • 1)面積と人口は、ヨーロッパ文化センター・イタリア「Time Space Existence」における香港中文大学(CUHK)のグループによる展示「“New” New Town」を参照している。