『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

香港のThe Mills(南豊紗廠):紡績工場をリノベーションした場所

The Mills(南豊紗廠)

香港の荃湾(Tsuen Wan)ニュータウンに、The Millsという紡績工場をイノベーション、カルチャー、学びの拠点としてリノベーションした場所。

香港のデベロッパーである南豊集団(Nan Fung Group)は、1954年、南豊紡績(Nan Fung Textiles Limited)として設立されました。当時の香港では繊維が最大の産業であり、労働者の30%が繊維産業に従事していたということです。後にThe Millsとなる第4・5・6工場は1960〜1970年に完成しています。けれども、1980年代になると香港の繊維産業は下火に。2008年、南豊紡績は紡績工場の操業を停止し、建物は倉庫として使われるようになりました。
南豊集団は、創立60周年にあたる2014年に、紡績工場だった建物をリノベーションするプロジェクトを発表。2018年にThe Millsとしてオープンしました*1)。

(The Mills)

イノベーション、カルチャー、学びの拠点として、The Millsは、The Mills Shopfloor(南豊店堂)、CHAT(Centre for Heritage Arts& Textile)、The Mills Fabrica(南豊作坊)の3つの柱が掲げられています*2)。

  • The Mills Shopfloor(南豊店堂):ハンズオン・ラーニング(体験型学習)と体験型リテールのランドマークで、ライフスタイル、食、DIYの精神を持つ人々の文化(Maker Culture)の世界に触れ、探究することができる。
  • CHAT(Centre for Heritage Arts& Textile):The Millsの保存プロジェクトの一環。展示、共同の学びのプログラムなどの多角的なキュレーション・プログラムを通して、創造的な体験を生み出すアートセンターを目指す。
  • The Mills Fabrica(南豊作坊):テックスタイル(テクノロジーとライフスタイルの交差点)と、持続可能性のためのアグリフードテック・イノベーションを加速させるプラットフォーム。イノベーター、起業家、企業のコラボレーションによって、ポジティブな未来を実現する。

The Mills Fabrica(南豊作坊)は、荃湾のThe Millsに加えて、ロンドンにも開かれています。

The Mills(南豊紗廠)の空間

The Millsのある荃湾はニュータウンとして開発された地域です。
香港政府は、人口の急増に対応して1950年代に入るとサテライト・タウン(satellite town)の開発を開始しました。荃湾は、1959年からサテライト・タウン(satellite town)としての開発が始められました。ニュータウンが自己完結(self-contained)のコミュニティであるのに対して、サテライト・タウンは都市(母都市)の機能の一部を担う都市という違いがあります。1961年、香港政府は荃湾(Tsuen Wan)を、隣接する葵涌(Kwai Chung)、青衣(Tsing Yi)に拡大することを決定。その後、1970年代になって、第1期のニュータウンとして開発されることになります*3)。
歴史を振り返ると、The Millsは、荃湾がサテライト・タウン、ニュータウンとして開発が進められた時期に建設された工場であることがわかります。

荃湾駅はMTR荃湾線の終点で、香港島の中環(Central)駅から約30分の位置にあります。The Millsは、荃湾駅から東に10分ほど歩いたところにあります。駅からThe Millsの近くまで、高架の歩行者専用のブリッジがかけられているため、途中まで車にあうことなく移動することができます。荃湾駅からは無料のシャトルバスも運行しています*4)。

(荃湾駅周辺)

The Millsへは、北側の青山公路(Castle Peak Road)、南側の白田壩街(Pak Tin Par St)の両側から入ることができます。

(The Mills北側)

(The Mills南側)

The Millsは、大きく東西のブロックに分かれており、訪れたとき、ブロックの間の1階部分では音楽の演奏が行われていました。

西側のブロックは、中央に吹き抜けのある空間。1階と2階は吹き抜けを囲むように店舗や飲食店が並んでいます。

(吹き抜けのある空間)

3階はCHATの展示スペースで、香港の繊維産業の歴史、布にまつわる展示がされていました。

(CHATの展示室)

西側のブロックの屋上はThe Parkという庭園として公開されています。

(屋上庭園)

東側のブロックは、北側が6階建て、南側が2階建てとなっており、店舗、飲食店、The Mills Fabricaのためのホールなどが入っています。訪れた時、広いスペースで献血も行われていました。南側部分の屋上は、The Deckという庭園として公開されています。

(東側のブロック)

入居している店舗や飲食店、ロゴ、建物はどれも「お洒落」で訪れた時、若い世代の人が多いように印象を受けました。また、犬の同伴が可能なようで、犬を連れた人も多かったです。

歴史的な建物をリノベーションして、歴史を継承するとともに、新たなタイプの場所を生み出すこと。千里ニュータウンにもこのような場所があったらと羨ましく感じました。


■注