『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

HDBギャラリー②:シンガポールにおける持続可能な街・団地を実現するための取り組み

シンガポールのHDBギャラリーでは、街の計画理念だけでなく、開発した街を持続可能なものにするための方法についての展示もされていました。

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コミュニティ形成のための方針

コミュニティ形成のために重要視されているのが3つの「I」。Inform(情報を伝える)、Involve(巻きこむ)、Integrate(統合する)の3つです。

  • Inform(情報を伝える):住民が公のトークライブや展示を通して、政策やプログラムについて最新の知識を得ることができるようにする。
  • Involve(巻きこむ):住民が対話やフォーラムにおいて意見を聞くことができる。
  • Integrate(統合する):近隣住区内でウェルカム・パーティーを開催することで住民が互いに知り合うことができる。

この3つの「I」を大切にしながら、具体的には次のような活動がなされています*2)。

ウェルカム・パーティ

ウェルカム・パーティは2006年以降に開催されるようになったもので、住民が草の根の活動のアドバイザーやリーダー、近隣住区を知るための機会になっている。ウェルカム・パーティは楽しく、カジュアルなものであるため、コミュニティの結びつきを強めることができる。

コミュニティ・ガーデン

コミュニティ・ガーデンはHDB(Housing and Development Board・住宅開発庁)、NParks(National Parks Board・国立公園局)のサポートを受けて、住民が手入れをしている。住民がコミュニティ・ガーデンに関わるにつれ、彼らは過去のカンポン(Kampong・シンガポールの人々がかつて住んでいた村)の精神を再び思い起こす。現在、180以上のコミュニティ・ガーデンがあり、ここには現代版のカンポン精神の表れである。

プロジェクト「SPHERE & CHEER」

HDBは学校や団体と共同して様々な活動を行うことで、賃貸住宅やワンルームの住戸に住んでいる高齢者との交流を行っている。
※SPHEREは「S」tudents, Singapore 「P」ools, 「H」DB 「E」nriching and 「R」eaching out to 「E」lderlyの意味。
※CHEERは「C」ommunity and 「H」DB 「E」ngaging 「E」lderly 「R」esidentsの意味。

ヘリテージ・コーナー/トレイル

イーシュン(Yishun)、ドーソン(Dawson)、ゲイラン・セライ(Gaylang Serai)にもうけられたヘリテージ(Heritage)のコーナーとトレイルは、住民がコミュニティへの帰属感、コミュニティとの一体感をもってもらうためのもの。コーナーとトレイルにはハートランドのユニークなヘリテージを展示している*1)。

コミュニティ形成

管区は400〜800戸からなる住棟がいくつか集まり構成されたもの。あらゆる年代の人々のために、管区には多数の社会的活動、レクリエーションのための施設がある。パヴィリオン、遊び場、フィットネス・ステーション、歩道は住民が交流し、交友関係を築くための重要な場所になっている。市民の諮問委員会(Citizen’s Consultative Committee)、住民委員会(Residents’ Committee)、コミュニティ・クラブ(Community Club)によって構成される人民協会(People Association)の草の根組織のネットワークは、住民のために組織された様々なコミュニティ活動を通して、社会的なつながりを促進している。
※HDBギャラリーの展示の翻訳。

住戸・団地の更新

HDBでは以上のようなソフト的な働きかけに加えて、様々なレベルにおいて団地を更新していくために次のような様々なプログラムが用意されています。

  • MUP(Main Upgrading Programme)(1992年〜)
    :管区、住棟、住戸レベルにおける一連の改良が含まれる。住戸のオーナーにはユーティリティ・ルームなどのスペースを追加することもできる。
  • IUP(Interim Upgrading Programme)(1994年〜)
    :住棟の工事と、管区レベルでの設備の質の向上に焦点をあてる。
  • IUP Plus(IUP Plus Programme)(2003年〜)
    :IUPとLUP(Lift Upgrading Programme)により構成される。これら2つのプログラムを同時に行うことで、住戸のオーナーは待ち時間を短縮することができる。
  • SERS(Selective En block Redevelopment Scheme)(1995年〜)
    :土地利用を最適化するために選択された古い住棟を再開発し、住戸のオーナーには代替として近くの住戸を提供する。
  • LUP(Lift Upgrading Programme)(2001年〜)
    :可能な限り全ての住民が直接エレベーターにアクセスできるようにするために、既存のエレベーターのアップグレード、新しいエレベーターの設置、エレベーターの各階への停止を行う。
  • Town Centre Rejuvenation(2002年〜)
    :タウン・センターの活性化として新たな開発、設備の追加、改良を行う。2002年には、トア・パヨ(Toa Payoh)・タウン・センターは、HDBハブと最初のエアコン付きバス・インターチェンジの追加による活性化が行われた。
  • HIP(Home Improvement Programme)(2008年〜)
    :一般的なメンテナンス問題を解決する。 トイレのアップグレードのような追加の改良と、剥離コンクリートの修復、天井の漏れ、排水管の交換などの基本的な改良により構成される。
  • NRP(Neighbourhood renewal Programme)(2008年〜)
    :住棟と近隣住区の改良に焦点をあてる。NRPのキーとなる特徴は、協議型のパブリック・フォーラム(Consultative Public Forum)を通して、住民の積極的な参加が行われることである。

持続可能な開発のための要点

HDBでは持続可能な開発のため、環境、社会、経済の3つの側面における取り組みが行われています。持続可能な開発のための要点として以下の4点があげられていました。

進化するニーズに対応する計画

公営の住宅団地は住民が住み、学び、働き、遊ぶための幅広い施設を提供するように計画されている。古い団地は、変化するニーズに応え、コミュニティのつながりを維持するため絶えずアップグレードされる。

デザインから施工・メンテナンスまで

HDBの団地においてはデザイン、施工、メンテナンスは開発プロセスとして統合されている。そこでは公営の住宅団地の環境を持続可能なものにするため、環境に配慮した実践・方法が採用されている。

研究開発(R&D)

HDB Building Research Instituteは、環境を持続可能にするための研究開発と、生活環境を改善するための技術開発に重点を置いている。ここでは、グリーン・ビルディングと、環境に配慮した最善の実践を実現するための新たな技術が試行されている。

コミュニティへの関わり

対話、フィードバック・セッション(Feedback Sessions)、研究、調査を通じて、住民、テナント、組織の意見をすくいあげることで、変化するニーズを、団地の計画や持続可能な開発を促進するためのプログラムに統合する。
※HDBギャラリーの展示の翻訳。

持続可能な開発のための新手法としてHDBでは住棟・立体駐車場の屋上緑化、建物の壁面緑化、雨水の再利用、リサイクルの促進、センサー・LED化・太陽発電による省エネの技術を開発、及び、開発中だと展示で紹介されていました。


  • 1)ハートランド(Heartland):オーチャード・ロードとビジネス街の外側のエリア(郊外)を指し、HDBの団地が建ち並んでいる。
  • 2)HDBギャラリーの展示の翻訳にあたっては、次のような翻訳語をあてた。
    • HDB Town:HDBの街(Town Centreはタウン・センター)
    • Estate:団地
    • Regional:地域の
    • Regional Centre:地域センター
    • Neighbourhood:近隣住区(Neighbourhood Centre:近隣センター、Neighbourhood park:近隣公園)
    • Precinct:管区
    • Block:住棟

※HDBのギャラリーは2018年9月にリニューアル・オープンしました。リニューアル後のギャラーの様子はこちらをご覧ください。

(更新:2022年7月24日)