『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

韓国の第一期新都市の光景

韓国では、ソウル市内への人口集中に伴う住宅不足への対応として、1988年に「住宅200万戸建設計画」が発表されました。1988年から5年間で年間40万戸の住宅を供給することで住宅不足を解消しようとする計画で、この計画の下で、城南市盆唐(ブンダン、Bundang)、高陽市一山(イルサン、Ilsan)、安養市坪村(ピョンチョン、Pyeongchon)、富川市中洞(チュンドン、Jung-dong)、軍浦市山本(サンボン、Sanbon)の5つの新都市が開発されました*1)。この後、韓国では多くの新都市が開発されていることから、この5つの新都市は第一期新都市と位置づけられています。
第一期新都市はいずれもソウル市内から20~25kmの範囲に位置しています。開発面積は、盆唐と一山は千里ニュータウンより大きく、坪村、中洞、山本は千里ニュータウンの半分以下となっています。ただし、坪村、中洞、山本も千里ニュータウンより計画人口、計画住戸戸数が大きく、千里ニュータウンより高密度な街として計画されていることがわかります*2)。

名称盆唐一山坪村中洞山本(参考)千里ニュータウン
位置京畿道城南市京畿道高陽市京畿道安養市京畿道富川市京畿道軍浦市大阪府吹田市・豊中市
ソウル江南地域から南東側へ25kmソウル北西側20kmソウルの南側20kmソウル西側20kmソウル南端25km大阪都心の北側15km
開発時期1989年4月~1989年6月~1989年6月〜1989年9月~1989年10月~1961年7月〜
事業施工者土地開発公社土地開発公社土地開発公社土地開発公社、大韓住宅公社、富川市大韓住宅公社大阪府住宅局
面積(ha)1,8941,5734955444191,160
計画人口(万人)3927.817171715
計画住戸数(万戸)9.86.94.24.24.33.0
・参考:自治体国際化協会(1998)『韓国の「新都市」について:住宅供給を目的とした街づくり』
・参考:山地英雄(2002)『新しき故郷:千里ニュータウンの40年』NGS
・千里ニュータウンの計画人口、計画戸数は、当初は15万人、3万戸だったが、実施段階では12万人、3万7330戸、建設末期の1971年5月時点では12万人、4万戸とされた。

開発から30年が経過した第一期新都市は、現在、どのような状況になっているのか。少し歩いただけでは表面的なことしかわからないのは当然ですが、第一印象にも何かの意味があるかもしれません。
ここでは、千里ニュータウンを改めて振り返るという意味で、千里ニュータウンとの共通点や相違点を中心に、第一期新都市を歩いて印象に残ったことをご紹介します。

格子状の幹線道路

第一期新都市は、特に中心部分は幹線道路が格子状に通されています。幹線道路によって作られる街区は、街によって多少の違いはありますが、長辺が400mから700m、短辺が400mから500mほどの長方形になっています。一方、千里ニュータウンの幹線道路は格子状でなく、幹線道路で囲まれた住区は、半径が500m(直径が1km)の円におおよそ収まるくらいの大きさとなっています。

(盆唐の幹線道路)

(一山の幹線道路)

(坪村の幹線道路)

(山本の幹線道路)

歩行者専用道路

新都市では、歩行者専用道のネットワークによって、歩車分離が実現されています。歩車分離とは、安全を確保するため、人が歩く道と車が通る道を分離すること。新都市の歩行者専用道路には、歩行者専用道路はベンチが置かれ、自転車レーンがもうけられているところもありました。学校、公園、住宅、店舗などには、歩行者専用道路からアクセスすることができるようになっています。
歩行者専用道は、千里ニュータウンの後半に開発された住区でも採用されているもので、共通点として興味深いと思います。

(盆唐の歩行者専用道路)

(一山の歩行者専用道路)

(坪村の歩行者専用道路)

一山では、京義・中央線と地下鉄3号線の駅、そして、一山湖公園という重要な場所を結ぶ公園軸が、東西に1つずつもうけられています。公園軸は、歩行者の主要な動線になっていると同時に、ベンチ、フィットネスコーナー、東屋などで多くの人が過ごしています。千里ニュータウンでは、歩行者専用道路が公園のすぐ脇を通っていますが、一山の公園軸は歩行者専用道路と公園が一体となった空間。上で紹介した歩行者専用道路は、公園軸にも接続されています。

(一山の公園軸)

丘陵地に開発された千里ニュータウンでは、尾根の部分に歩行者専用道路、谷の部分に車道が通されることで、地形を活かした立体交差による歩車分離が工夫されています。
一方、新都市は比較的平坦な土地に開発されているため、千里ニュータウンのような立体交差は見かけませんでしたが、歩行者専用道路や一山の公園軸と、幹線道路が交差する場所では、歩道橋が架けられているのを見かけました。自転車も通れる緩やかなスロープのある歩道橋です。この歩道橋によって、歩行者専用道路と幹線道路の立体交差による歩車分離が実現されています。

(一山の歩道橋)

(坪村の歩道橋)

盆唐では、中央公園から続く丘が幹線道路をまたぐようにもうけられており、立体交差による歩車分離が実現されていました。

(盆唐の中央公園から続く丘)

中央公園

幹線道路が格子状に通されていることにも関わりますが、盆唐、坪村、山本では、街の中央付近に中央公園と呼ばれるいう、四角い公園が配置されています。盆唐の中央公園が、長辺が約1km、短辺が約500mと最も大きく、坪村の中央公園が、長辺が約430m、短辺が約310m、山本の中央公園が、長辺が約310m、短辺が約150mとなっています。

(盆唐の中央公園)

(坪村の中央公園)

(山本の中央公園)

一山には中央公園と呼ばれる公園はありません。ただし、やや性格が異なりますが、中央付近にチョンバル山(鼎鉢山)公園、南に一山湖公園という大きな公園がもうけられていました。さらに、上で紹介した公園軸が、一山の東西の中心部を南北に通っており、一山でも公園が、街の重要な位置に配置されていると感じました。

(一山湖公園)

(一山の公園軸)

幹線道路沿いの店舗

千里ニュータウンでは、店舗が3ヶ所の地区センター、各住区の近隣センターに集められています。特に近隣センターは、住区の中心付近に配置されているため、幹線道路沿いに店舗が並ぶ光景は見かけません。
千里ニュータウンは、クラレンス・ペリー(1975)の近隣住区論に基づいて開発されていますが、クラレンス・ペリーは、近隣住区の原則の1つとして、店舗の位置について次のように指摘しています。

「地域の店舗――サービスする人口に応じた商店街地区を、1か所またはそれ以上つくり、住区の周辺、できれば交通の接点か隣りの近隣住区の同じような場所の近くに配置すべきである。」(クラレンス・ペリー, 1975)

店舗の配置は、千里ニュータウンと、クラレンス・ペリーの近隣住区の原則との大きな違いになっています*3)。

一方、新都市では、幹線道路沿いに店舗が並んでいるのを見かけました。盆唐では、100m弱の距離を置いて平行に配置された2本の道路の内側に店舗が配置されていました。
土地利用の割合によれば、千里ニュータウンと新都市では、商業・業務地域の割合にそれほど大きな違いはありませんが、新都市の方が、千里ニュータウンより店舗が多い印象を受けました。もちろん、少し歩いた印象に過ぎませんが、店舗が多いという印象を受けたのは、幹線道路沿いに店舗が並ぶため、店舗を見かける頻度が多かったという配置の影響かもしれません。

(盆唐の幹線道路沿いの店舗)

(一山の幹線道路沿いの店舗)

(坪村の幹線道路沿いの店舗)

(山本の幹線道路沿いの店舗)

特に盆唐では、歩道や歩行車線道路では、野菜、果物など様々なものを販売する露店が出されているのを見かけました。露店を開いている人と話しながら買い物をしている人を何度も見かけました。このような光景を見て、露店は、単に買い物という機能を街に追加するだけでなく、露店を開く人が通りの主(あるじ)となることで、他者との接触の機会を生み出す場所になっていることも感じました。

(盆唐の露店)


■注

  • 1)韓国の新都市の情報は自治体国際化協会(1998)より。なお、金中銀(2015)では、盆唐、一山、坪村、山本、中洞という高度成長期に計画された韓国首都圏の新都市は、高度成長期に開発された日本のニュータウンと同様、クラレンス・ペリーの近隣住区論に基づいて開発されたことが指摘されている。
  • 2)5つの第一期新都市の計画人口の合計は約117.8万人、計画住戸数の合計は約29.4万戸である。『毎日新聞:韓国代表経済メディア』の記事「盆唐・一山・平村・中東・山本 2035年までに大々的に整備 人口95万人→124万人に 11月に再建築の第一打者を発表」(2024年10月21日)では、現在、5つの第一期新都市には95.4万人、39.2万世帯が住んでいること、2035年までに124.2万人、53.7万世帯の街へと再開発することが計画されており、2024年11月からは最初の建て替えが始まることが紹介されている。
  • 3)ただし、千里ニュータウンの後半に開発された竹見台と桃山台は、幹線道路を挟んで向き合うように近隣センターが配置されており、クラレンス・ペリーの近隣住区の原則に基づくものになっている。

■参考文献