『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

椅子によって作られた場所@シンガポールの団地

シンガポールでは国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。
知り合いから、HDBの団地に興味深い場所があると伺いました。MRTのブオナ・ヴィスタ(Buona Vista)の南西にあるHDBドーヴァー(Dover)の13号棟、14号棟の間の屋根付き通路です。正方形の平面をもつ高層のポイント型住棟である、13号棟、14号棟の間に屋根付きの通路がもうけられており、ここに、居住者が持ち込んだ椅子が並べられており、居住者同士の接触の場所になっているとのこと。

13号棟、14号棟の間の屋根付き通路には、造り付けの金属製のベンチが2脚設置されています。造り付けのベンチは、他のHDBの団地で見かけるタイプのものです。そして、造り付けのベンチを挟むように、9脚の椅子が置かれています。椅子の形、色は様々で、1脚は2人でも座れるような細長いベンチでした。
訪れた時、3人の女性がベンチに座っていました。そして、前を通りかかった人と立ち話をしたり、団地オープンスペースの管理をしている男性に手を振ったりしているのを見かけました。


HDBの団地は、様々な工夫がなされており、学ぶこと、気づかされることは多数あります。その一方で、様々な工夫がされており、管理が行き届いているがゆえに、居住者が共用スペースに手を加える余地は小さいかもしれないと感じることもあります。
しかし、ここでご紹介した通路のように、居住者は共用スペースに手を加えていることがわかります。椅子を並べるというのはシンプルなものですが、それが人々の接触を生み出していることは、人々が滞在できる場所の重要性を現しているように思います。