『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

シンガポールの団地における歩車分離のラドバーン方式@ブキ・バトック

千里ニュータウンではクラレンス・A・ペリーによる近隣住区論と、アメリカ・ニュージャージー州のラドバーンで採用されたラドバーン方式(歩車分離方式)が取り入れられています。これらの計画手法は、シンガポールの街・団地の計画においても採用されています。


シンガポールでは国民の約8割がHDB(Housing and Development Board:住宅開発庁)が建設する住宅に住んでいます。HDBの拠点であるHDBハブのギャラリーでも、HDBでは近隣住区のコンセプトを採用していることが展示されています。

もう1つのラドバーン方式とは、アメリカのニュージャージー州のラドバーンという計画住宅地で採用されたもので、スーパーブロック方式やクルドサック(袋小路)により住宅地内部への通過交通を排除するとともに、クルドサックの先端を歩行者専用道路で結ぶという歩車分離の方式のこと。
HDBハブのギャラリーでは、ラドバーン方式について言及されていませんが、HDBの団地を歩いていると、歩車分離のための様々な工夫がなされていることが伺われます。

ブキ・バトック(Bukit Batok)

ブキ・バトック(Bukit Batok)はシンガポール西部に位置。HDBの最初のプロジェクトが完成したのは1982年と、40年弱にわたりHDBによる住宅地開発が行われてきた街ですが、HDBが1992〜2024年まで用いていた分類では、HDBの住宅開発に利用できる土地が多い「成熟していない団地」(Non-mature estate)に分類されています。

MRTのブキ・バトック駅の西側で、ブキ・バトック中央公園(Bukit Batok Central Park)という典型的なラドバーン方式が採用されているエリアを見つけました。ブキ・バトック中央公園で採用されているラドバーン方式は、千里ニュータウンでは府営千里南住宅、府営千里桃山台住宅という後期に開発された府営住宅と非常によく似ていると感じました。

ブキ・バトック駅の西側にはウエスト・モール(West Mall)というショッピング・センターがあります。

ウエスト・モールの脇を進むとラウンドアバウト。ラウンドアバウトを超えて西に進むと、ブキ・バトック・セントラル(Bukit Batok Central)という大通り。横断歩道を渡った先が、典型的なラドバーン方式が見られるエブキ・バトック中央公園です。

ブキ・バトック中央公園

ブキ・バトック中央公園は、雁行型に配置された住棟の間を通るようにもうけられた細長い緑地帯で、約400mの長さの歩行者専用道路が走っています。駅側の入口にあたる部分の右側にあるのが「スポーツパーク@ブキ・バトック・ウェスト・アベニュー6」(Sports Park at Bukit Batok West Ave 6)。NRP(Neighbourhood Renewal Programme:近隣住区リニューアル・プログラム)により作られた場所。ステージ、観覧席のある円形のグラウンドで、訪れた時は中学生くらいの子どもがバスケットボールをして遊んでいました。グラウンドの周りには遊び場、フィットネス・コーナーがもうけられています。

歩行者専用道路は南西の方向に、ブキ・バトック・ウェスト・アベニュー6(Bukit Batok West Ave 6)まで続いています。歩行者専用道路の周りには屋根のある半屋外の広場、遊び場、フィットネス・コーナーが配置。ちょうど改良工事が行われているフィットネス・コーナーもありました。

ブキ・バトック中央公園の両側にはHDBの住棟が並んでおり、歩行者専用道路から各住棟にアクセスすることができるようになっています。両側の住棟を結ぶ屋根付きの接続歩道が通っている場所もあります。

人間はブキ・バトック中央公園の中の歩行者専用道路を通って住棟にアクセス、車は反対側の大通りからアクセス。これによって歩車分離が実現されてます。

住棟の配置にも工夫が見られます。特にブキ・バトック中央公園の南側で見られる住棟配置ですが、

  • [住棟・中庭・住棟]・駐車場・[住棟・中庭・住棟]

というように、2棟の住棟とその間の中庭をペアにし、その間に駐車場を配置することにより、住棟の周りでも歩車分離が実現されています。

中庭になっている部分にはコミュニティ・ガーデン、アートの置かれた庭、スケートボードのコーナーなどがもうけられていました。

駐車場の先は袋小路になっており、その先端に降車のための屋根付きのポーチ(Dropp-Off Porch)。ここから屋根付きの接続歩道により各住棟にアクセスすることができます。


2棟の住棟をペアにした配置は、千里ニュータウンのUR団地で見られる「北入り」と「南入り」タイプの住棟をペアにした平行配置(NSペアによる配置)に共通しているように思います。ただし、千里ニュータウンのUR団地の住棟は階段室側で、片側からしかアクセスすることができません。それに対して、HDBの住棟の1階はピロティ状のヴォイド・デッキ(Void Deck)になっているためアクセスする方向の制約を受けないという違いがあります。

ヴォイド・デッキを通して住棟の向こう側にまで視線が届くため、住棟の間の中庭は閉ざされた感じにはなっていません。

(更新:2022年9月11日)