2020年4月16日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、全国に緊急事態宣言が出されました。当初、ゴールデンウィーク明けの5月6日までとされていましたが、感染が収束する見通しが立たないため、緊急事態宣言は延長される可能性が大きくなっています。
感染防止のため、業種によってはビジネスを休業したり、外出を控えたりすることが求められています。現時点では感染症の拡大防止に最優先で取り組むべきですが、このままずるずるとビジネスを休業したり、外出を控えたりすることを続けていては、経済的に破綻したり、自宅に閉じこもって運動不足になったり孤立したりするなどの問題も生じます。
そのため、どのような基準を満たせば社会を再び開いていくかを議論していく必要がありますが、感染症の収束が見通せない状況ではこのような議論を見かけることはないように感じます。
日本はこのような状況ですが、海外ではどうやって社会を再び開くかについての復興プランを打ち出している国々があります。
アメリカもその1つ。2020年4月16日、トランプ大統領はアメリカ再開のためのガイドライン『オープニングアップ・アメリカアゲイン』(Guidelines for Opening Up America Again)を公表しました。
感染者数が増加し続けている状況で、再開の話をするのは気が早いという批判もあるようですが、上に書いた通り、このままずるずると社会を閉じたままにしておくわけにはいかず、どのような基準を満たせば、どのように社会を再開していくのかを明確に示し、共有していくのは大切なことだと考えています。
ここでは参考として、『オープニングアップ・アメリカアゲイン』の内容をご紹介したいと思います。
詳細は以下で紹介する通りですが、次のような点を特徴としてあげることができます。
- 再開のために満たすべき基準がデータに基づいて明確に定められていること
- 3つのフェーズを設けて、段階的に社会を再開していくアプローチであること
- それぞれのフェーズにおいて、個人または雇用者が従うべきガイドラインが定められていること
- 高齢者や基礎疾患のある人、免疫系が損なわれている人のように感染症に対する高リスクの人を守ることが重視されていること
- 全国一律ではなく、州または郡単位で行われるものであること
オープニングアップ・アメリカアゲイン
『オープニングアップ・アメリカアゲイン』は公衆衛生の専門家の助言に基づいた3フェーズからなるアプローチで、新型コロナウイルス感染症によって閉じた状態にある経済を再開し、人々が仕事に戻り、暮らしを守り続けるためのガイドラインとされており、基準、準備、フェーズ・ガイドラインの3つによって構成されています。
- 基準(Criteria):各地域や州が、フェーズに入る前に満たすべきデータに基づいた(Data-driven)条件
- 準備(Prepardness):今後の課題に対応するために州がなすべきこと
- フェーズ・ガイドライン(Phase Guidelines):全てのフェーズ、および、特定の各フェーズにおける個人と雇用者の責任
※『Guidelines for Opening Up America Again』(April 16, 2020)の翻訳。
フェーズ移行のための基準(Gating Criteria)
各地域や州がフェーズに入る前に満たすべき条件は、症状、症例、病院の3つの観点から定められています。
■症状(Symptoms)
直近14日間でインフルエンザに似た症状(ILI=Influenza-like illnesses)の報告数が減少傾向にあること。
および
直近14日間で新型コロナウイルス感染症に類似する症状の報告数が減少傾向にあること。■症例(Case)
直近14日間で確認された症例(Documented cases)が減少傾向にあること。
または
直近14日間で総検査数に対する陽性検査の割合が低下傾向にあること(総検査数は横ばいであるか、または、増加していること)。■病院(Hospitals)
危機対応(Crisis care)なしで全ての患者が治療されること。
および
感染リスクのある医療従事者のための抗体検査を含む強固な検査プログラムが整っていること。※州および地方自治体は、これらの基準の適用を地域の状況に合わせて調整する必要がある場合がある(例:深刻な新型コロナウイルス感染症の感染爆発(Outbreaks)が発生した大都市圏、感染爆発(Outbreaks)が発生していないか、または、軽度な発生であった農村部や郊外)。さらに、必要に応じて、知事は地域ベースでこれらの基準を満たし、以下に概説されたフェーズを進めるべきである。
※『Guidelines for Opening Up America Again』(April 16, 2020)の翻訳。
準備
州の中核となる準備責任として、検査と接触者追跡、ヘルスケアシステムの容量、計画の3つの観点から挙げられています。
■検査と接触者追跡(Testing & Contact Tracing)
- 症状のある人、および、陽性と診断された人の接触者のための安全で効率的なスクリーニングと検査のための場所を迅速に設置する能力。
- 一連の症状のある人/インフルエンザに似た症状のある人(Syndromic/ILI-indicated persons)に新型コロナウイルス感染症の検査をする、および、陽性と診断された人の接触者を追跡する能力。
- 定点観測調査(Sentinel surveillance)のサイトが無症状の症例をスクリーニングしており、陽性と診断された人の接触者の追跡がされていることの確認。
■ヘルスケアシステムの容量(Healthcare System Capacity)
- 急激なサージ(Surge:押し寄せ)の対応に必要な、十分な個人防護具(PPE)と重要な医療機器を迅速、かつ、供給する能力。
- サージに対応する集中治療室の許容力(Ability to surge ICU capacity)。
■計画(Plans)
- 重要産業に従事する労働者の健康と安全の保護。
- リスクの高い施設(高齢者介護施設など)で生活する人々、働く人々の健康と安全の保護。
公共交通機関の従業員と利用者の保護。- ソーシャル・ディスタンシングとフェイスカバー(マスク着用)の手順の市民へのアドバイス。
- 深刻度に応じてフェーズを再出発したり、前のフェーズに戻したりすることによって、リバウンドや感染爆発(Outbreaks)の発生を制限したり軽減したりするための状況監視と迅速な措置。
※『Guidelines for Opening Up America Again』(April 16, 2020)の翻訳。
フェーズ・ガイドライン
フェーズによるアプローチは、次の4点をふまえたものだとされています。
- 最新のデータと対応体制に基づくこと
- 再流行のリスクを軽減すること
- 最も脆弱な人々を守ること
- 知事の裁量で州または郡単位で実施可能であること
ここで言及されている脆弱な人(Vulnerable Individuals)については、次のように記されています。
- 高齢者
- 高血圧、慢性肺疾患、糖尿病、肥満、喘息などの深刻な基礎疾患のある人、および、癌に対する化学療法やそのような治療が必要になる疾患などによって免疫系が損なわれている人
全てのフェーズ
第1〜3のすべてのフェーズにおいて、個人、雇用者が従うべきガイドラインとして以下があげられています。
■個人
特にフェイスカバーリングに関しては、州や地域のガイダンスやCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の補完的なガイダンスを継続的に遵守する。良い衛生習慣の継続
- 特に頻繁に使用する物や表面に触れた後は、石鹸と水で手を洗うか、ハンドサニタイザー(手指消毒剤)を使用する。
- 顔を触らないようにする。
- テッシュ、あるいは、肘の内側にくしゃみや咳をする。
- 頻繁に使用する物や表面を可能な限り消毒する。
- 公共の場所、特に公共交通機関を利用する際にはフェイスカバー(マスク)着用を強く意識する。
体調が悪い人の自宅待機
- 通勤、通学しない。
- 医療提供者 (Medical provider)に連絡し、アドバイスに従う。
■雇用者
連邦、州、地方自治体の規制とガイダンスに従い、業界のベストプラクティスに基づいて、以下についての適切な方針を作成し、実施する。
- ソーシャル・ディスタンシングと保護具
- 体温測定
- 衛生
- 共用エリアと多くの人が行き交うエリアの利用と消毒
- 出張
従業員の健康状態を監視する。症状のある人を、医療提供者 (Medical provider)の許可を得るまで物理的に仕事に復帰させない。
従業員が陽性診断を受けた場合、従業員の接触者追跡(Contact tracing)に関する方針および手順を開発し、実施する。
※『Guidelines for Opening Up America Again』(April 16, 2020)の翻訳。
第1フェーズ
先にあげたフェーズ移行のための基準(Gating Criteria)を満たした州と地域は第1フェーズに入ることができるとされています。
第1フェーズにおいて、個人、雇用者が従うべきガイドラインとして以下があげられています。
■個人
全ての脆弱な人(Vulnerable Individuals)は、自宅など所定の場所に待機(Shelter in place)し続けなければならない。脆弱な人が世帯内にいる人は、職場や、他者との距離を確保することが現実的ではない環境に戻ることで、ウイルスを家に持ち帰る可能性があることを認識すべきである。脆弱な人の隔離する(Isolate)ための予防策を講じる必要がある。全ての人々が、公共の場所(公園、屋外のレクリエーション・エリア、ショッピング・エリアなど)では、他者との物理的な距離を最大限にとるべきである。10人以上が集まる環境(Social settings of more than 10 people)は、他者との適切な距離をとることが現実的でない場合は、予防措置がとられていない限り避けるべきである。
適切な他者との物理的な距離をとることが容易ではない状況(レセプション、展示会など)では、10人以上のグループでの社会的な集まり(Socializing)を避ける。
不可欠でない移動を最小限にし(Minimize Non-Essential Travel)、移動後の隔離(Isolation)に関するCDC(アメリカ疾病予防管理センター)のガイドラインを遵守する。
■雇用者
事業運営において可能な限り、テレワークを奨励し続ける。可能であれば、段階的に職場に戻る。
社員が集まり交流する可能性が高い共有エリアを閉じる、あるいは、厳格にソーシャル・ディスタンシングの手順を実施する。
不可欠ではない移動を最小限にし(Minimize Non-Essential Travel)、移動後の隔離(Isolation)に関するCDC(アメリカ疾病予防管理センター)のガイドラインを遵守する。
脆弱な人(Vulnerable Population)に含まれる社員のための特別な対応(Special Accomodations)を強く検討する。
■特定の雇用者
現在閉鎖されている学校および青少年の集団活動(デイケア、キャンプなど)は閉鎖されたままにする必要がある。高齢者生活施設(Senior Living Facilities)や病院への訪問は禁止されるべきである。入居者や患者と接する人は、衛生面での厳格な手順を遵守する必要がある。
大型施設(座って食事をするレストラン、映画館、スポーツ会場、礼拝所)は、厳格なフィジカル・ディスタンシングの手順の下で運営することができる。
緊急でない手術は、CMS(Center for Medicare & Medicaid Services:メディケア・メディケイドサービスセンター)のガイドラインを遵守している施設において、臨床的に適切であれば、外来で再開できる。
ジムは厳格なフィジカル・ディスタンシングと衛生管理の手順が守られていれば営業することができる。
バーは引き続き営業禁止である。
※『Guidelines for Opening Up America Again』(April 16, 2020)の翻訳。
第2フェーズ
感染症の再発の証拠がなく、フェーズ移行のための基準(Gating Criteria)を第1フェーズからさらに14日間満たした州と地域は第2フェーズに入ることができるとされています。
第2フェーズにおいて、個人、雇用者が従うべきガイドラインとして以下があげられています。
■個人
全ての脆弱な人(Vulnerable Individuals)は、自宅など所定の場所に待機(Shelter in place)し続けなければならない。脆弱な人が世帯内にいる人は、職場や、他者との距離を確保することが現実的ではない環境に戻ることで、ウイルスを家に持ち帰る可能性があることを認識すべきである。脆弱な人の隔離する(Isolate)ための予防策を講じる必要がある。全ての人々が、公共の場所(公園、屋外のレクリエーション・エリア、ショッピング・エリアなど)では、他者との物理的な距離を最大限にとるべきである。50人以上が集まる環境(Social settings of more than 50 people)は、他者との適切な距離をとることが現実的でない場合は、予防措置がとられていない限り避けるべきである。
不可欠ではない移動(Non-Essential Travel)は再開可能である。
■雇用者
事業運営において可能な限り、テレワークを奨励し続ける。社員が集まり交流する可能性が高い共有エリアを閉じる、あるいは、適度なソーシャル・ディスタンシングの手順を実施する。
不可欠ではない移動(Non-Essential Travel)は再開可能である。
脆弱な人(Vulnerable Population)に含まれる社員のための特別な対応(Special Accomodations)を強く検討する。
■特定の雇用者
学校および青少年の集団活動(デイケア、キャンプなど)は再開可能である。高齢者介護施設(Senior Care Facilities)や病院への訪問は禁止されるべきである。入居者や患者と接する人は、衛生面での厳格な手順を遵守する必要がある。
大型施設(座って食事をするレストラン、映画館、スポーツ会場、礼拝所)は、適度なフィジカル・ディスタンシングの手順の下で運営することができる。
緊急でない手術は、CMS(Center for Medicare & Medicaid Services:メディケア・メディケイドサービスセンター)のガイドラインを遵守している施設において、臨床的に適切であれば、外来および入院ともに再開できる。
ジムは厳格なフィジカル・ディスタンシングと衛生管理の手順が守られていれば営業することができる。
バーは適用可能で適切な(Applicable and appropriate)場合は、スタンディング・ルームの収容人数を下げて営業することができる。
※『Guidelines for Opening Up America Again』(April 16, 2020)の翻訳。
第3フェーズ
感染症の再発の証拠がなく、フェーズ移行のための基準(Gating Criteria)を第2フェーズからさらに14日間満たした州と地域は第3フェーズに入ることができるとされています。
第3フェーズにおいて、個人、雇用者が従うべきガイドラインとして以下があげられています。
■個人
脆弱な人(Vulunerable Individuals)は公共の場所での交流(Public interactions)を再開することができるが、フィジカル・ディスタンシングを実践し、予防措置がとられていない限り、他者との適切な距離をとることが現実的でない社会的な環境への関わり(Exposure to social settings)を最小限にするべきである。リスクの低い人は混雑した環境で過ごす時間を最小限にすることを考慮する必要がある。
■雇用者
職場の人員配置の制限を解除する。■特定の雇用者
高齢者介護施設(Senior Care Facilities)や病院への訪問を再開することができる。入居者や患者と接する人は、衛生面に注意する必要がある。大型施設(座って食事をするレストラン、映画館、スポーツ会場、礼拝所)は、限定的な(Limited)フィジカル・ディスタンシングの手順の下で運営することができる。
ジムは通常の衛生管理の手順が守られていれば営業することができる。
バーは適用可能な(Applicable)場合は、スタンディング・ルームの収容人数を増やして営業することができる。
※『Guidelines for Opening Up America Again』(April 16, 2020)の翻訳。
- 『Guidelines for Opening Up America Again』(April 16, 2020)の翻訳にあたっては、2020年4月20日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」を参考にした。
(更新:2020年5月23日)