『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

アメリカ・メリーランド州の新型コロナウイルス感染症への対応(2020年3月~5月)

※メリーランド州のその後の状況はこちらを参照。
※メリーランド州における対応を時系列で整理した情報はこちらを参照。


2020年5月25日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応として発令されていた緊急事態宣言が解除されました。第二波、第三波のリスクも懸念されているため、感染防止の対策は今後も必要になると思いますが、これから社会を再開する動きが進んでいくと思います。

ここで紹介するアメリカ東海岸のメリーランド州(ワシントンDCに隣接する州)でも、5月に入ると社会を再開する動きが見られるようになりました。メリーランド州ではどのようなタイミングで、どのような施策がとられたのかについての情報を共有することで、何らかの参考になればと思います。

なお、紹介しているのは記事を投稿した時点での情報であるため、感染の流行によっては大きく情報が変わる可能性があります。

メリーランド州の対応

アメリカでの新型コロナウイルス感染症の感染者は、2020年1月21日に西海岸のワシントン州で初めて見つかりました(※Wikipediaの「アメリカ合衆国における2019年コロナウイルス感染症の流行状況」のページより)。メリーランド州で初めての感染者が見つかったのは、それから約1ヶ月半後の2020年3月5日。これを受け、メリーランド州知事が非常事態を宣言しています。
メリーランド州内での市中感染の確認を受け、3月12日には公立学校の休校、250人以上の集会禁止などの措置が発表されました。翌日、3月13日にはトランプ大統領が国家非常事態を宣言しました。

3月16日には50人以上の集会禁止と、バー、レストラン、フィットネスセンター、映画館の閉鎖、3月19日には10人以上の集会禁止と、ショッピングモール、ボーリング場、ビリヤード馬の閉鎖、電車やバスは医療従事者や警官等を優先と、禁止される集会と閉鎖される施設の種類は徐々に増えていきます。
そして、3月23日には「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)が営業停止されることになりました。

外出禁止令(自宅待機命令)

3月30日には外出禁止令(自宅待機命令:Stay-at-Home Order)が発令されました。
外出禁止令(自宅待機命令)によりメリーランド州に住む全ての人は、以下を除いて自宅(home)または居住地(places of residences)に滞在することが求められます。

  • 不可欠な活動(Essential Activities)を実施、または、参加すること。
  • 閉鎖が求められないビジネスおよび組織のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
    □自宅と、ビジネスおよび組織の間を往復すること。
    □商品の配送やサービスの提供のために、顧客との間を往復すること。
  • 基幹的でないビジネス(Non-Essential Businesses)のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
    □最小限の業務を従事するために、自宅と基幹的でないビジネスの間を往復すること。
    □商品の配送のために、顧客との間を往復すること。

※メリーランド州知事令第20-03-30-01号(2020年3月30日)の翻訳

外出が認められる不可欠な活動(Essential Activities)は次のように定義されています。

  • 自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜のために、必要な物やサービスを入手すること。これには食料品、家庭で消費・利用する用品、在宅勤務に必要な用品や機器、ランドリー、自宅や居住地の安全、衛生、不可欠なメンテナンスに必要な製品などが含まれる。
  • 自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜の健康と安全のために不可欠な活動に従事すること。これには医療、心身の健康、救急サービスを求めること、薬や医療品を入手することなどが含まれる。
  • 家族、友人、ペット、家畜を、別の世帯または場所でケアすること。これには不可欠な健康と安全活動のために家族、友人、ペット、家畜を輸送すること、必要な用品やサービスを入手することなどが含まれる。
  • 食事や遠隔学習のための教材を受け取るために、教育施設との間を往復すること。
  • ウォーキング、ハイキング、ランニング、自転車などアウトドアエクササイズに従事すること。(後略)
  • 法執行機関または裁判所命令により求められる移動をすること。
  • 必要な目的のために、連邦政府、州政府、地方自治体の建物との間を往復すること。

※メリーランド州知事令第20-03-30-01号(2020年3月30日)の翻訳


4月15日には、買い物をする時、および、公共交通機関を利用する時にはフェイスカバー、マスク着用を義務化する知事令が発令(4月18日7時から発効)。

メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ

このように感染防止のための様々な対応がとられてきた一方、4月中旬になると感染防止の対応によって停滞している社会をどう再開するかの提案が見られるようになっています。
4月16日にはトランプ大統領がアメリカ再開のためのガイドライン『オープニングアップ・アメリカアゲイン』(Guidelines for Opening Up America Again)を発表。

メリーランド州では4月24日に『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』(Maryland Strong: Roadmap to Recovery)が発表されました。『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』では次の3つのステージに沿って、段階的に復興していくことが提案されています。

□低リスク(Low Risk)
「低リスクは復興の第一ステージであり、ビジネス、コミュニティ、宗教、生活の質の改善を含みます。・・・・・・
最初のステップは、「生活の質」(Quality of Life)の改善の幅広いカテゴリーに焦点を当てるもので、「自宅待機」命令(“Stay at Home” Order)の解除(および自主的な「より安全な在宅生活」ガイダンス(“Safer-at-Home” guidance)への移行)を伴います。」

□中リスク(Medium Risk)
「中リスクは、初期の復興の中ではより長いステージになるかもしれませんが、多くのビジネスや活動が復活するステージでもあります。この期間中に再開するビジネスは、厳格なフィジカル・ディスタンシングとマスク着用の要件を遵守する必要があります。」

□高リスク(High Risk)
「高リスクは、より野心的で長期的な目標です。このレベルでは、通常の状態に完全に戻るために、広く入手可能なアメリカ食品医薬品局(FDA=Food and Drug Administration)の承認を受けたワクチン、あるいは、重大な疾患のある患者を救ったり、最もリスクの高い人々の深刻な病気を予防したりできる安全で効果的な治療方法が必要になります。そのため、このレベルを達成するための科学の専門家からの現実的なタイムラインはまだありません。」
※『Maryland Strong: Roadmap to Recovery』(April 24, 2020)の翻訳

そして、3つのステージに沿って復興を進めるための構成要素として、次の4つがあげられています。

  • (1)第一線で働く医療従事者のための十分な個人用保護具(PPE=Personal Protective Equipment)の調達
  • (2)病院の収容能力(Surge capacity)の確保
  • (3)十分な検査能力(Testing capacity)の確保
  • (4)強固な接触者追跡(Contact tracing)プログラム

外出禁止令(自宅待機命令)から自宅待機に関する勧告

5月に入るとビジネスや活動を再開する具体的な動きが見られるようになります。

5月6日には、ステージ1に移行する前に行うことが可能な活動として、緊急でない手術とアウトドア・アクティビティが発表されました。

外出禁止令(自宅待機命令)を解除し再開のステージ1に移行する前に、現在、州民が行える活動をいくつか特定した。これらの活動は公共衛生に関するガイドラインに従い、フィジカル・ディスタンシングをとることが前提

  • 緊急ではない手術(Elective Surgeries):メリーランド州保健局は病院に対してどのような手術が可能なのかガイドラインを提示する
  • アウトドア・アクティビティ:明日(5月7日)7時から、ゴルフ、テニス、ボート、キャンピングなどアウトドア・アクティビティが可能になる。州立公園は全面的に再開され、州立公園の一部であるビーチはウォーキングやエクササイズのために開放、地方政府の管轄下にあるプレイグラウンドなども再開される

※2020年5月6日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

5月15日の17時から外出禁止令(自宅待機命令:Stay-at-Home Order)が解除され、自宅待機に関する勧告(Safer-at-Home Public Health Advisory)に移行し、再開ステージ1が始まりました。

自宅待機に関する勧告への移行により、次のようなビジネスや活動の再開が可能とされました。

  • 小売店は最大収容人数の50%を上限として再開可。店の外でのピックアップと配達のオプションを引き続き強く奨励。例としては、洋服屋、靴屋、ペットの美容師(Pet groomer)、アニマルシェルター(animal adoption shelters)、洗車サービス、アートギャラリー、本屋
  • 製造業は安全・公衆衛生ガイドラインに従う形で操業開始可
  • 教会や礼拝所は再開可。アウトドアでの集会が強く推奨されるが、最大収容人数の50%を上限として適切な安全策をとった上で屋内での集会も可
  • パーソナルサービス(床屋と美容院)は予約のみ、50%の収容を上限として再開可。適切な安全ガイドラインに則る必要がある
  • 全ての州民、特に高齢者やハイリスクの方々は、できるかぎり自宅待機を続けるべき。雇用者はテレワークを推進し続けるべき。全ての州民は屋内の公共空間、公共交通機関、小売店内ではマスクをつけるべきである
  • 全ての州民はフィジカル・ディスタンシングをとり、10人超の集会を避けるべき。手洗いや頻繁にふれるエリアを消毒することも忘れないようにすること
  • ※2020年5月13日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

5月29日17時からは、レストランやバーでの屋外ダイニング、VFW(Veterans of Foreign Wars)ポスト、エルクスクラブ(Elks Clubs)をはじめとする社交クラブ、友愛クラブにおける屋外ダイニング、ユーススポーツ活動、ユースデイキャンプ、屋外プール、ドライブインシアターが再開されました。

ステージ1への移行は、郡(County)などの地方政府の状況に応じたコミュニティ重視のアプローチがとられており、5月15日の時点ではプリンスジョージズ郡(Prince George’s County)とモンゴメリー郡(Montgomery County)などが、ステージ1に移行しないことを発表していました。
その後、5月28日には、プリンスジョージズ郡(Prince George’s County)とモンゴメリー郡(Montgomery County)が6月1日から限定的にステージ1移行すること、ボルチモア市が5月29から小売店でのカーブサイド販売とレストランの屋外ダイニングを認めることを発表しています。これにより、州内すべての郡・独立市が再開に関する発表を行いました。

検査体制の拡充

このように徐々に社会を再開する動きが進められてきましたが、これと並行して検査体制が拡充されてきたことは見落とせないポイントです。

メリーランド州では3月17日という早い段階で、州内の全ての車両排気ガス検査場(VEIP=Vehicle Emissions Inspection Program)を閉鎖し、ドライブスルー方式の検査場を設置することが発表されています。

当初、検査のためには医師の検査指示書(order)と予約が必要とされていました。5月22日からは複数の検査場で医師の検査指示書や予約なしでの検査が可能となり、これにより新型コロナウイルス感染症に暴露した可能性がある人でも検査を受けることができるようになっています。
また、5月22日からは薬局・コンビニエンスストアのチェーンであるCVSでも医師の検査指示書が不要のドライブスルー検査を受けることができるようになっています。

  • 州内全ての車両排気ガス検査場(VEIP)を閉鎖し、ドライブスルー方式の検査センターの設置を発表(3月17日)。
  • オーウィングス・ミルズ (Owings Mills)、プリンス・フレデリック (Prince Frederick)の車両排気ガス検査場(VEIP)に、新たなドライブスルー検査場を開設することを発表。これにより州内の同種の検査場は7か所となる(4月27日)。
  • ソールズベリーのパーデュースタジアム(Perdue Stadium in Salisbury)に新しい検査場が設置されたこと、キャロライン郡(Caroline County)のコミュニティ検査場もすみやかに設置することを発表(5月1日)。
  • 州西部ヘイガーズタウン(Hagerstown)の車両排気ガス検査場(VEIP)に新しいドライブスルー検査場を開設することを発表(5月4日)。
  • ウェストミンスターのキャロル郡農業センター(Carroll County Agriculture Center)にドライブスルー検査場を新設することを発表。これにより州内の同種の検査場は9か所になる(5月13日)。
  • プリンスジョージズ郡クリントン(Clinton)とハイアッツビル(Hyattsville)の車両排気ガス検査場(VEIP)に、新たな検査場を開設することを発表(5月19日)。
  • 今後、新型コロナウイルスに暴露した可能性があるが、症状が出ておらず、医師からの検査指示書がない人でも、州内の4カ所の検査場で予約無しのドライブスルー検査を受けることが可能になることが発表される(5月22日~)。検査料は保険でカバーされる(5月19日)。
  • CVS17店舗(ドライブスルー窓口)で、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が定める要件及び年齢に関するガイドラインを満たす人を対象に、ドライブスルー検査の受付が開始。検査希望者は事前にCVSのウェブサイトで予約が必要。医師からの検査指示書は不要(5月22日)。
  • プリンスジョージズ郡アッパー・マルボロ(Upper Malboro)にあるテーマパーク「シックス・フラッグス・アメリカ(Six Flags America)」に事前予約や医師の診断なしで受検できる新たなドライブスルー検査場を設置することを発表。既に発表されているプリンスジョージズ郡クリントン車両排気ガス検査場のドライブスルー検査場も5月28日から稼働予定であり、州内のドライブスルー検査場はこれで11カ所になる(5月27日)。
  • ドライブスルー検査を行う州内のCVSが30店舗に拡大(5月28日)。

※在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

メリーランド州はこのような経緯で、検査体制の拡充が進められてきました。5月20日には、州の人口の3.5%に相当する208,658件の検査がこれまでに行われたこと、この1ヶ月間に140,767件の検査が行われたこと、これは前の1ヶ月間の2倍になったことが発表されています。

「長期的な検査戦略:
今日の時点で、メリーランド州は208,658件の新型コロナウイルス感染症の検査を実施しており、これは州の人口の3.5%を占めます。この1ヶ月間で、州は140,767件の新型コロナウイルス感染症の検査を実施しており、前の1ヶ月の2倍になりました。4月29日、ホーガン知事は高齢者施設や養鶏場などの優先度の高い感染爆発(outbreak)やクラスター、州施設における第一線の医療従事者やファースト・レスポンダー(負傷者や被災者に対して最初に応急処置などを行う人)に、追加の検査リソースを集中すると発表しました。これらの取り組みが本格的になり、メリーランド州民への検査は拡大し続けています。」
※メリーランド州「Governor Hogan Announces Critical Milestone in COVID-19 Testing Strategy as State Broadens Criteria for Testing, Dramatically Expands Testing Availability Statewide」のページの翻訳。

メリーランド州では最近でも、1日の新規感染者数が1,000人を超える日もありますが、このように検査体制を拡充したうえで発見された感染者数であるということです。


メリーランド州では3月上旬の最初の感染者の発見から2週間余りで「基幹的でないビジネス」が営業停止となり、1ヶ月弱で不可欠な活動以外での外出を禁止する外出禁止令(自宅待機命令)が、約6週間でマスク着用の義務化が出されています。このような様々な制限をかけるのと並行して、4月下旬には『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』が発表。そして、5月中旬には外出禁止令(自宅待機命令)から自宅待機に関する勧告への移行が行われ、5月末にはレストランやバーでの屋外ダイニングが再開されました。それと並行して、検査体制が拡充されてきました。

この2ヶ月半の動きを振り返ることで、次のようなことに気づかされます。

  • 「基幹的でないビジネス」の営業停止、外出禁止令(自宅待機命令)、マスク着用の義務化というように、感染防止のための厳格な対応が早期に出されていること
  • どのようなビジネスが禁止されるのか、どのような活動が禁止されるのかなどが罰則を伴う法として明確に定められていること
  • 社会を再開するための条件とロードマップが明確にされていること
  • 最初に厳格に定めた禁止事項を、条件を満たすことで徐々に緩めていくアプローチがとられていること
  • 社会の再開と並行した検査体制の拡充により、ウイルスに暴露した可能性がある人でも検査を受けることができるようになっていること

なお、ビジネスや活動を禁止するだけでなく、大人は最大1,200ドル(約13万円)、子どもには500ドル(約5万5千円)という迅速な現金給付とセットになっていることも忘れてはなりません(※「米上院、コロナ経済対策を可決 下院送付、27日成立か」・『東京新聞』2020年3月26日)。

メリーランド州の動きは、行政からの要請を受けたり、世間の目に対応したりすることで、あくまでも「自粛」として感染防止が行われており、検査数の少ない日本の状況とは大きく異なります。感染者数や死亡者数はアメリカの方が圧倒的に多く、国による状況も違うためアメリカと日本のどちらの対応が良いかは単純に比較できませんが、この点については、後から振り返った検証が行われると考えています。

(更新:2020年6月24日)