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アメリカ・メリーランド州の新型コロナウイルス感染症への対応(2020年3月~6月)

※メリーランド州のその後の状況はこちらを参照。
※メリーランド州における対応を時系列で整理した情報はこちらを参照。


2020年5月25日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応として発令されていた緊急事態宣言が解除されたものの、7月に入ってからも感染者数が微増しており、新型コロナウイルス感染症が完全に収束したわけではありません。

ここで紹介するメリーランド州は、アメリカ東海岸に位置(ワシントンDCに隣接)する人口は約600万人の州です。新型コロナウイルス感染症の感染者数、死亡者数を見ると1日の感染者数が1,800人に近かった日もありますが、6月末になると300~500人の間を推移するようになっています。1日の死亡者数も90人を超えた日もありますが、10〜20人の間を推移するようになっています。このように感染者数、死亡者数も減少しており、これにあわせて社会を再開する動きも少しずつ進められてきました。

メリーランド州ではどのようなタイミングで、どのような施策がとられたのかについての情報を共有することで、何らかの参考になればと思います。なお、紹介しているのは記事を投稿した時点での情報であるため、感染の流行によっては大きく情報が変わる可能性があります。

メリーランド州の対応

アメリカでの新型コロナウイルス感染症の感染者は、2020年1月21日に西海岸のワシントン州で初めて見つかりました(※Wikipediaの「アメリカ合衆国における2019年コロナウイルス感染症の流行状況」のページより)。メリーランド州で初めての感染者が見つかったのは、それから約1ヶ月半後の2020年3月5日。これを受け、メリーランド州知事が非常事態を宣言しています。
メリーランド州内での市中感染の確認を受け、3月12日には公立学校の休校、250人以上の集会禁止などの措置が発表されました。翌日、3月13日にはトランプ大統領が国家非常事態を宣言しました。

3月16日には50人以上の集会禁止と、バー、レストラン、フィットネスセンター、映画館の閉鎖、3月19日には10人以上の集会禁止と、ショッピングモール、ボーリング場、ビリヤード馬の閉鎖、電車やバスは医療従事者や警官等を優先と、禁止される集会と閉鎖される施設の種類は徐々に増えていきます。
そして、3月23日には「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)が営業停止されることになりました。

外出禁止令(自宅待機命令)

3月30日には外出禁止令(自宅待機命令:Stay-at-Home Order)が発令されました。
外出禁止令(自宅待機命令)によりメリーランド州に住む全ての人は、以下を除いて自宅(home)または居住地(places of residences)に滞在することが求められます。

  • 不可欠な活動(Essential Activities)を実施、または、参加すること。
  • 閉鎖が求められないビジネスおよび組織のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
    □自宅と、ビジネスおよび組織の間を往復すること。
    □商品の配送やサービスの提供のために、顧客との間を往復すること。
  • 基幹的でないビジネス(Non-Essential Businesses)のスタッフおよびオーナーは、以下の場合に移動することができる。
    □最小限の業務を従事するために、自宅と基幹的でないビジネスの間を往復すること。
    □商品の配送のために、顧客との間を往復すること。

※メリーランド州知事令第20-03-30-01号(2020年3月30日)の翻訳

外出が認められる不可欠な活動(Essential Activities)は次のように定義されています。

  • 自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜のために、必要な物やサービスを入手すること。これには食料品、家庭で消費・利用する用品、在宅勤務に必要な用品や機器、ランドリー、自宅や居住地の安全、衛生、不可欠なメンテナンスに必要な製品などが含まれる。
  • 自分自身、家族、世帯員、ペット、家畜の健康と安全のために不可欠な活動に従事すること。これには医療、心身の健康、救急サービスを求めること、薬や医療品を入手することなどが含まれる。
  • 家族、友人、ペット、家畜を、別の世帯または場所でケアすること。これには不可欠な健康と安全活動のために家族、友人、ペット、家畜を輸送すること、必要な用品やサービスを入手することなどが含まれる。
  • 食事や遠隔学習のための教材を受け取るために、教育施設との間を往復すること。
  • ウォーキング、ハイキング、ランニング、自転車などアウトドアエクササイズに従事すること。(後略)
  • 法執行機関または裁判所命令により求められる移動をすること。
  • 必要な目的のために、連邦政府、州政府、地方自治体の建物との間を往復すること。

※メリーランド州知事令第20-03-30-01号(2020年3月30日)の翻訳


4月15日には、買い物をする時、および、公共交通機関を利用する時にはフェイスカバー、マスク着用を義務化する知事令が発令(4月18日7時から発効)。

メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ

このように感染防止のための様々な対応がとられてきた一方、4月中旬になると感染防止の対応によって停滞している社会をどう再開するかの提案が見られるようになっています。
4月16日にはトランプ大統領がアメリカ再開のためのガイドライン『オープニングアップ・アメリカアゲイン』(Guidelines for Opening Up America Again)を発表。

メリーランド州では4月24日に『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』(Maryland Strong: Roadmap to Recovery)が発表されました。『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』では次の3つのステージに沿って、段階的に復興していくことが提案されています。

□低リスク(Low Risk)
「低リスクは復興の第一ステージであり、ビジネス、コミュニティ、宗教、生活の質の改善を含みます。・・・・・・
最初のステップは、「生活の質」(Quality of Life)の改善の幅広いカテゴリーに焦点を当てるもので、「自宅待機」命令(“Stay at Home” Order)の解除(および自主的な「より安全な在宅生活」ガイダンス(“Safer-at-Home” guidance)への移行)を伴います。」

□中リスク(Medium Risk)
「中リスクは、初期の復興の中ではより長いステージになるかもしれませんが、多くのビジネスや活動が復活するステージでもあります。この期間中に再開するビジネスは、厳格なフィジカル・ディスタンシングとマスク着用の要件を遵守する必要があります。」

□高リスク(High Risk)
「高リスクは、より野心的で長期的な目標です。このレベルでは、通常の状態に完全に戻るために、広く入手可能なアメリカ食品医薬品局(FDA=Food and Drug Administration)の承認を受けたワクチン、あるいは、重大な疾患のある患者を救ったり、最もリスクの高い人々の深刻な病気を予防したりできる安全で効果的な治療方法が必要になります。そのため、このレベルを達成するための科学の専門家からの現実的なタイムラインはまだありません。」
※『Maryland Strong: Roadmap to Recovery』(April 24, 2020)の翻訳

そして、3つのステージに沿って復興を進めるための構成要素として、次の4つがあげられています。

  • (1)第一線で働く医療従事者のための十分な個人用保護具(PPE=Personal Protective Equipment)の調達
  • (2)病院の収容能力(Surge capacity)の確保
  • (3)十分な検査能力(Testing capacity)の確保
  • (4)強固な接触者追跡(Contact tracing)プログラム

外出禁止令(自宅待機命令)から自宅待機に関する勧告へ

5月に入るとビジネスや活動を再開する具体的な動きが見られるようになります。

5月6日には、ステージ1に移行する前に行うことが可能な活動として、緊急でない手術とアウトドア・アクティビティが発表されました。

外出禁止令(自宅待機命令)を解除し再開のステージ1に移行する前に、現在、州民が行える活動をいくつか特定した。これらの活動は公共衛生に関するガイドラインに従い、フィジカル・ディスタンシングをとることが前提

  • 緊急ではない手術(Elective Surgeries):メリーランド州保健局は病院に対してどのような手術が可能なのかガイドラインを提示する
  • アウトドア・アクティビティ:明日(5月7日)7時から、ゴルフ、テニス、ボート、キャンピングなどアウトドア・アクティビティが可能になる。州立公園は全面的に再開され、州立公園の一部であるビーチはウォーキングやエクササイズのために開放、地方政府の管轄下にあるプレイグラウンドなども再開される

※2020年5月6日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

5月15日の17時から外出禁止令(自宅待機命令:Stay-at-Home Order)が解除され、自宅待機に関する勧告(Safer-at-Home Public Health Advisory)に移行し、再開ステージ1が始まりました。

自宅待機に関する勧告への移行により、次のようなビジネスや活動の再開が可能とされました。

  • 小売店は最大収容人数の50%を上限として再開可。店の外でのピックアップと配達のオプションを引き続き強く奨励。例としては、洋服屋、靴屋、ペットの美容師(Pet groomer)、アニマルシェルター(animal adoption shelters)、洗車サービス、アートギャラリー、本屋
  • 製造業は安全・公衆衛生ガイドラインに従う形で操業開始可
  • 教会や礼拝所は再開可。アウトドアでの集会が強く推奨されるが、最大収容人数の50%を上限として適切な安全策をとった上で屋内での集会も可
  • パーソナルサービス(床屋と美容院)は予約のみ、50%の収容を上限として再開可。適切な安全ガイドラインに則る必要がある
  • 全ての州民、特に高齢者やハイリスクの方々は、できるかぎり自宅待機を続けるべき。雇用者はテレワークを推進し続けるべき。全ての州民は屋内の公共空間、公共交通機関、小売店内ではマスクをつけるべきである
  • 全ての州民はフィジカル・ディスタンシングをとり、10人超の集会を避けるべき。手洗いや頻繁にふれるエリアを消毒することも忘れないようにすること
  • ※2020年5月13日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

5月29日17時からは、レストランやバーでの屋外ダイニング、VFW(Veterans of Foreign Wars)ポスト、エルクスクラブ(Elks Clubs)をはじめとする社交クラブ、友愛クラブにおける屋外ダイニング、ユーススポーツ活動、ユースデイキャンプ、屋外プール、ドライブインシアターが再開されました。

なお、ステージ1への移行は柔軟かつ地域の状況に基づくアプローチであり、移行のタイミングは郡(County)や独立都市の判断に委ねられるとされています。

再開ステージ1からステージ2へ

6月に入ると再開の動きがさらに進められます。6月5日の17時から「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)の閉鎖命令を解除し、ステージ2に移行しました。ステージ2では、次のようなビジネスが新たに再開されることとなりました。

  • ステージ2で再開されるビジネス:製造、建設、大小の小売店、専門業者、卸売業者、倉庫、IT企業、法律事務所、経理、銀行、金融機関、保険代理店、デザインスタジオ、広告、建築会社、メディア制作会社、不動産、旅行代理店、自動車ディーラーのショールーム、銀行の支店等
  • 追加的に再開されるパーソナルサービス:ネイルサロン、日焼けサロン、マッサージ・タトゥーパーラーなどのパーソナルサービスは、ガイドライン履行のもと、予約のみ、最大収容人数の50%以下で営業が可能

※2020年6月3日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

ステージ1への移行と同様、ステージ2への移行は柔軟かつ地域の状況に基づくアプローチであり、移行のタイミングは郡(County)や独立都市の判断に委ねられるとされています。

この後も、次のような追加的再開が行われました。

□6月12日(金)17時から

  • レストランは、最大収容数の50%を上限として、屋内での飲食を再開可
  • 屋外アミューズメント(ミニチュアゴルフ、ゴーカートトラック、屋外プール等)は、最大収容数の50%を上限として再開可

□6月19日(金)17時から

  • 屋内フィットネス活動(ジム、武術、ダンス等)は、最大収容数の50%を上限として再開可
  • カジノ、アーケード、モールは再開可

※2020年6月10日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

検査体制の拡充

このように徐々に社会を再開する動きが進められてきましたが、これと並行して検査体制が拡充されてきたことは見落とせないポイントです。

メリーランド州では3月17日という早い段階で、州内の全ての車両排気ガス検査場(VEIP=Vehicle Emissions Inspection Program)を閉鎖し、ドライブスルー方式の検査場を設置することが発表されています。

当初、検査のためには医師の検査指示書(order)と予約が必要とされていました。5月22日からは複数の検査場で医師の検査指示書や予約なしでの検査が可能となり、これにより新型コロナウイルス感染症に暴露した可能性がある人でも検査を受けることができるようになっています。
5月22日からは薬局・コンビニエンスストアのチェーンであるCVSでも医師の検査指示書が不要のドライブスルー検査を受けることができるようになっています。
さらに、6月30日には、ボルチモア市内に即日で検査結果を受け取ることができる検査場(検査には事前登録が必要)の開設が発表されています。

メリーランド州はこのような経緯で、検査体制の拡充が進められてきました。5月20日には、州の人口の3.5%に相当する208,658件の検査がこれまでに行われたこと、この1ヶ月間に140,767件の検査が行われたこと、これは前の1ヶ月間の2倍になったことが発表されています。

「長期的な検査戦略:
今日の時点で、メリーランド州は208,658件の新型コロナウイルス感染症の検査を実施しており、これは州の人口の3.5%を占めます。この1ヶ月間で、州は140,767件の新型コロナウイルス感染症の検査を実施しており、前の1ヶ月の2倍になりました。4月29日、ホーガン知事は高齢者施設や養鶏場などの優先度の高い感染爆発(outbreak)やクラスター、州施設における第一線の医療従事者やファースト・レスポンダー(負傷者や被災者に対して最初に応急処置などを行う人)に、追加の検査リソースを集中すると発表しました。これらの取り組みが本格的になり、メリーランド州民への検査は拡大し続けています。」
※メリーランド州「Governor Hogan Announces Critical Milestone in COVID-19 Testing Strategy as State Broadens Criteria for Testing, Dramatically Expands Testing Availability Statewide」のページの翻訳。

先に触れた通り、人口が約600万人のメリーランド州では、1日の感染者が1,800人に近かった日もありますが、6月末になると300~500人の間を推移するようになっています。


メリーランド州では3月上旬の最初の感染者の発見から2週間余りで「基幹的でないビジネス」が営業停止となり、1ヶ月弱で不可欠な活動以外での外出を禁止する外出禁止令(自宅待機命令)が、約6週間でマスク着用の義務化が出されています。このような様々な制限をかけるのと並行して、4月下旬には『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』が発表。そして、5月中旬には外出禁止令(自宅待機命令)から自宅待機に関する勧告と再開ステージ1への移行が行われ、5月末にはレストランでの屋外ダイニングが再開。6月上旬には再開ステージ2への移行が行われ、6月中旬にはレストランやバー内での食事が再開されてきました。それと並行して、検査体制が拡充されてきました。

この2ヶ月半の動きを振り返ることで、次のようなことに気づかされます。

  • 「基幹的でないビジネス」の営業停止、外出禁止令(自宅待機命令)、マスク着用の義務化というように、感染防止のための厳格な対応が早期に出されていること
  • どのようなビジネスが禁止されるのか、どのような活動が禁止されるのかなどが罰則を伴う法として明確に定められていること
  • 社会を再開するための条件とロードマップが明確にされていること
  • 最初に厳格に定めた禁止事項を、条件を満たすことで徐々に緩めていくアプローチがとられていること
  • 社会の再開と並行した検査体制の拡充により、ウイルスに暴露した可能性がある人でも検査を受けることができるようになっていること

なお、メリーランド州に限りませんが、ビジネスや活動を禁止するだけでなく、大人は最大1,200ドル(約13万円)、子どもには500ドル(約5万5千円)という迅速な現金給付(4月中には給付)、さらに失業者への保険という措置とセットになっていることも忘れてはなりません。

メリーランド州の動きは、行政からの要請を受けたり、世間の目に対応したりすることで、あくまでも「自粛」として感染防止が行われており、検査数の少ない日本の状況とは大きく異なります。感染者数や死亡者数はアメリカの方が圧倒的に多く、国による状況も違うためアメリカと日本のどちらの対応が良いかは単純に比較できませんが、この点については、後から振り返った検証が行われると考えています。

(更新:2020年10月1日)