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新型コロナウイルス感染症からの復興プラン:アメリカ・メリーランド州

2020年4月16日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、全国に緊急事態宣言が出されました。当初、ゴールデンウィーク明けの5月6日までとされていましたが、延長が検討されているという話も聞きます。
感染防止のため、業種によってはビジネスを休業したり、外出を控えたりすることが求められています。もちろん、現時点では感染症の拡大防止に最優先で取り組むべきですが、このままずるずるとビジネスを休業したり、外出を控えたりすることを続けていては、経済的に破綻したり、自宅に閉じこもって運動不足になったり孤立したりするなどの問題も生じてしまいます。どうやって社会を再び開いていくかを考えていく必要がありますが、感染症の収束が見通せない状況であり、こうした観点からの議論を見かけることはないように感じます。

日本はこのような状況ですが、海外ではどうやって社会を再び開くかについての復興プランを打ち出している国もあります。復興プランを打ち出すことに対しては、感染収束の見通しが立っていない状況では気が早いという批判もされているようですが、上に書いた通り、このままずるずると社会を閉じたままにしておくわけにはいかず、どのような条件が整えば、社会を再開するかを明確にしておくことは大切な作業だと考えています。

例えば、アメリカでは2020年4月16日にアメリカ再開のためのガイドライン『オープニングアップ・アメリカアゲイン』(Guidelines for Opening Up America Again)が公表され、州・地域が満たすべきフェーズ移行のための基準や、段階的に社会を再開していくというアプローチの提案が行われました。これを受け、2020年4月24日、東海岸のメリーランド州では『メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ』(Maryland Strong: Roadmap to Recovery)が公表されました。ここでは、メリーランド州の復興プランの内容をご紹介したいと思います。

メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ

メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップは、メリーランド州の経済を再開するための道筋を示すとともに、そのための「ニューノーマル」(新しい日常)の詳細を示すもので、ここでは経済回復と公衆衛生の保護は対立するのではなく、同じ目標に向かって進むものだとされています。

「メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ(Maryland Strong)は、メリーランド州の経済を徐々に責任を持って再開する道筋と、そのために必要は「ニューノーマル」(新しい日常)の詳細を示すものです。経済回復と公衆衛生の保護は対立する目標ではなく、同じ目標であり、手を取り合って協力しなければならないことを認識しています。」
※『Maryland Strong: Roadmap to Recovery』(April 24, 2020)の翻訳。

メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップでは経済を再開し、公衆衛生を保護するためのステージが、次のように低リスク、中リスク、高リスクの3つに分けられています。

復興の3つのステージ

■低リスク(Low Risk)
「低リスクは復興の第一ステージであり、ビジネス、コミュニティ、宗教、生活の質の改善を含みます。・・・・・・
最初のステップは、「生活の質」(Quality of Life)の改善の幅広いカテゴリーに焦点を当てるもので、「自宅待機」命令(“Stay at Home” Order)の解除(および自主的な「より安全な在宅生活」ガイダンス(“Safer-at-Home” guidance)への移行)を伴います。」

■中リスク(Medium Risk)
「中リスクは、初期の復興の中ではより長いステージになるかもしれませんが、多くのビジネスや活動が復活するステージでもあります。この期間中に再開するビジネスは、厳格なフィジカル・ディスタンシングとマスク着用の要件を遵守する必要があります。」

■高リスク(High Risk)
「高リスクは、より野心的で長期的な目標です。このレベルでは、通常の状態に完全に戻るために、広く入手可能なアメリカ食品医薬品局(FDA=Food and Drug Administration)の承認を受けたワクチン、あるいは、重大な疾患のある患者を救ったり、最もリスクの高い人々の深刻な病気を予防したりできる安全で効果的な治療方法が必要になります。そのため、このレベルを達成するための科学の専門家からの現実的なタイムラインはまだありません。」
※『Maryland Strong: Roadmap to Recovery』(April 24, 2020)の翻訳。ただし、脚注は除いている。

3つのステージはロードマップであり、それぞれのステージに入る日付が設定されているわけではありませんが、希望的には5月上旬には復興プランを開始できる可能性があるとされています。
ロードマップでは、現在、テレワークをしている人々は、非常事態(State of Emergency)の期間中はテレワークを継続すること、そして、非常事態(State of Emergency)が解除されるまではフィジカル・ディスタンシング*1)とマスク着用の要件が継続されることが期待されています。


  • 1)フィジカル・ディスタンシング(Physical Distancing)とは感染防止のために他者との物理的な距離をとることで、「物理的距離の確保」と訳される。他者との距離は6フィート(約1.8メートル)の距離をとる必要があるとされている。「社会距離戦略」、「社会距離の確保」などと訳されるソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)の表現が用いられることもあるが、感染防止のために必要なのは物理的な距離を取ることであり、社会的なつながりを排除するものではないという意味を込め、最近ではWHOがソーシャル・ディスタンシングをフィジカル・ディスタンシングと言い換えるようになっている。ただし、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によるソーシャル・ディスタンシングの説明を読むと、他者から6フィート(2メートル)離れることに加えて、買い物は通信販売や配達サービスを利用すること、自宅で仕事をすること、デジタル/遠隔学習を導入することなどがあげられているように、ソーシャル・ディスタンシングが含意するのは物理的距離の確保だけではないことには注意が必要である。また、日本ではソーシャル・ディスタンス(Social Distance:社会的距離)という表現が用いられる場合もあるが、これは特定の個人やグループを排除するという意味であり、ソーシャル・ディスタンシングとは異なる。感染拡大を防止するために必要なのは、社会的な距離(Distanceという名詞)ではなく、距離を取ること(Distancingという動名詞)であることにも注意が必要である。

4つの構成要素

メリーランド州が、3つのステージに沿って復興を進めるための構成要素として、次の4つがあげられています。

  • (1)第一線で働く医療従事者のための十分な個人用保護具(PPE=Personal Protective Equipment)の調達
  • (2)病院の収容能力(Surge capacity)の確保
  • (3)十分な検査能力(Testing capacity)の確保
  • (4)強固な接触者追跡(Contact tracing)プログラム

「ホーガン知事は、州が復興に向かって進むための必要な4つの構成要素(Building Blocks)を示しました。これらには以下が含まれます。(1)第一線で働く医療従事者のための十分な個人用保護具(PPE=Personal Protective Equipment)の調達、(2)病院の収容能力(Surge capacity)の確保、(3)十分な検査能力(Testing capacity)の確保、(4)強固な接触者追跡(Contact tracing)プログラム。

知事による構成要素は、全米知事協会(NGA=National Governors Association)の枠組みと一致しています。(1)検査能力を拡大し、幅広く検査できるようにする、(2)感染症の広がりを理解し、感染爆発(Outbreaks)を迅速に検出するために、公衆衛生の監視を強化する、(3)感染者の隔離(Isolation)、接触者追跡(Contact tracing)、感染の可能性のある人の隔離(Quarantine)の容量を大幅に拡大する、(4)医療システムが潜在的なサージ(押し寄せ)に対応できることを確認する、(5)エッセンシャルワーカー(Essential workers)とリスクのある人々を保護する。」
※『Maryland Strong: Roadmap to Recovery』(April 24, 2020)の翻訳。

医療従事者の保護、病院の収容能力の確保に加えて、検査(Test)、接触者追跡(Contact tracing)が重視されていることがわかります。
メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップにおいて重視されているのは、新型コロナウイルス感染症の対応に成功したと評価されてる韓国、台湾の対応に通ずるものだと考えることができます。
検査(Test)、接触者追跡(Contact tracing)を重視する世界の流れに対して、症状が出ていてもなかなか検査してもらえない、それゆえ、接触者追跡(Contact Tracing)も難しいという日本の状況は大きくかけ離れたものになっていると言えます。

メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ

※以下は、『Maryland Strong: Roadmap to Recovery』(April 24, 2020)の「VIII. OUR ROADMAP TO RECOVERY」の翻訳。ただし、脚注は除いている。


(1)メリーランド・ストロング:復興のためのロードマップ(Maryland Strong Roadmap to Revovery)は3つのステージに分かれます。
(a)低リスク(Low Risk)
(b)中リスク(Medium Risk)
(c)高リスク(High Risk)

(2)これらのステージは幅広い性格を持っており、それぞれのステージはさらに複数のフェーズに分かれることを想定しています。サブ・フェーズは、追加のフェーズに安全に移行するためのベンチマーク(gating benchmarks for the safe rollout of additional openings exist)を知事が決定した時に発表されます。公衆衛生および経済状況によっては、どのステージにおいても安全な方法で、計画変更は必然的に行われます。

(3)ロードマップは、郡や地方自治体の保健担当者にある程度の柔軟性を提供し、新型コロナウイルス感染症の状況に応じた地域差を考慮することを想定しています。しかしそれは、各ステージ、および、特定のサブ・フェーズについて、知事と行政が定めたパラメーターの範囲内に限定されます。

(a)各ステージにおいて州は、管轄区域および/または地域の新型コロナウイルス感染症の感染率の割合(COVID+ rate)に基づいて、どの地方自治体が適切な移行のための基準(Gating criteria)を満たしているかを評価します。

(b)地域が移行のための基準(Gating criteria)を満たした場合、郡の保健担当者は、州によって定められた現在のステージにおけるパラメーターの下で、許可された活動とビジネスを拡大することができます。(注)ロードマップは郡の保健担当者が、地域のビジネスと集会場所(Gathering places)が公衆衛生上危険な方法で運営されていると判断した場合には、一般的に州全体に開かれているカテゴリーに含まれるかどうかに関わらず、サービスの制限や閉鎖を命令できることを想定しています。

(4)低・中・高の区分では、アメリカ企業公共政策研究所(AEI=American Enterprise Institute)の『Guidance for Governors report』で指定されている(および全米知事協会(NGA=National Governors Association)の「Roadmap to Recovery: A Public Health Guide for Governorsで採用されている)個人を守るための感染リスクを軽減する「変更可能性」(Modification Potential)を中・高として、「接触の数」(Number of Contacts)または「接触の強度」(Contact Intensity)を低・中として、活動とビジネスをカテゴリーに分類しています。AEIとNGAの両レポートは、一般的なガイダンスとしてこのロードマップの付録とされています。

(5)知事は、商務長官の様々な産業復興の諮問グループ、宗教団体の諮問グループ、非営利団体の諮問グループ、および医療、ビジネス、経済の専門家からなる知事自らのチームから、継続的に業界固有の情報を受け取ります。

(6)知事は、州全体の教育および保育施設の安全な利用を評価するために、州の教育長(State Superintendent of Schools)および地域の教育長(Area school superintendents)との協議を継続します。

(7)ロードマップは、現在、テレワークをしている人々は、非常事態(State of Emergency)の期間中はテレワークを継続することを期待しています。さらに、非常事態(State of Emergency)が解除されるまでは、フィジカル・ディスタンシング(Physical Distancing:他者との物理的な距離をとること)、マスク着用の要件が継続されることを期待しています。

(8)低・中・高リスクのステージ
(A)低リスク
低リスクは復興の第一ステージであり、ビジネス、コミュニティ、宗教、生活の質の改善を含みます。知事が構成要素(Building Blocks)とベンチマーク指標(Benchmark metrics)を用いてメリーランド州に十分な基盤があると判断した場合、この復興の最初のステージに移行することが発表されます。
どのような「低リスク」活動が再開されるかの決定は、一括して発表されるのではなく、ホワイトハウスが推奨する移行のための手順(Gating protocols)を使用して、一定期間の間に段階的に展開されます。
最初のステップは、「生活の質」(Quality of Life)の改善の幅広いカテゴリーに焦点を当てるもので、「自宅待機」命令(“Stay at Home” Order)の解除(および自主的な「より安全な在宅生活」ガイダンス(“Safer-at-Home” guidance)への移行)を伴います。

これらのリストは非独占的なものであり、州の新型コロナウイルス感染症の状況に応じて変更される可能性があることを認識することが重要です。

1)「自宅待機」命令(“Stay-Home” Order)以外に、このステージで実施される可能性がある変更の例。

  • a)小規模店舗と特定の小規模事業者
  • b)ビジネスのための店舗での物品の受け渡し(Curbside pickup)とドロップ・オフ
  • c)外来(ambulatory, outpatient)および診療所での選択的な医療・歯科治療
  • d)限定的な出席者による屋外での宗教の集会
  • e)レクリエーションのボート、釣り、ゴルフ、テニス、ハイキング、狩猟
  • f)洗車
  • g)限定的な屋外のジムとフィットネス・クラス
  • h)適切な間隔をあけた屋外作業
  • i)いくつかの個人的なサービス

2)復興の速度を落とす、停止する、あるいは、場合によっては戻すための「ストップ・サイン」(※復興ロードマップの全てのフェーズで適用される)。

  • a)入院の予想外の増加、あるいは、集中治療を必要とする症例の持続的な増加。
  • b)フィジカル・ディスタンシングについてのガイダンス軽視の徴候。この期間、検査(Testing)と接触者追跡(Contact tracing)を強化している間に、フィジカル・ディスタンシングを維持することができれば、感染の急増なしに社会を開くことができる可能性がはるかに大きくなる。
  • c)接触者追跡(Contact tracing)では感染経路を特定できない地域における重大な感染爆発(Outbreaks)(特定の介護施設や脆弱な地域でのクラスターや感染爆発(Outbreaks)ではない)。

(B)中リスク
中リスクは、初期の復興の中ではより長いステージになるかもしれませんが、多くのビジネスや活動が復活するステージでもあります。この期間中に再開するビジネスは、厳格なフィジカル・ディスタンシングとマスク着用の要件を遵守する必要があります。このステージには、復興に向けて、数週間にわたる数多くのステップが含まれます。
このステージでは、適切な移行のための基準(Gating criteria)を満たし、行政が設定したパラメーターの範囲内で行動しているいくつかの郡の保険者や地方自治体が、管轄区域内で特定の商業や他の活動を再開するのが適切かどうかを判断するのを、知事が再び許可することも想定しています。
このステージ内には、これも移行のための手順(Gating protocols)によって設定される容量制限付きのサブ・フェーズがあります。

このステージで実施される可能性がある変更の例。

  • a)社会的集まり(Social gatherings)の上限を上げる
  • b)屋内のジムとフィットネス・クラス
  • c)託児所
  • d)交通機関のスケジュールが通常に戻り始める
  • e)屋内での宗教的な集まり
  • f)制限付きのレストランとバー
  • g)病院での選択的処置および外来処置

(C)高リスク
高リスクは、より野心的で長期的な目標です。このレベルでは、通常の状態に完全に戻るために、広く入手可能なアメリカ食品医薬品局(FDA=Food and Drug Administration)の承認を受けたワクチン、あるいは、重大な疾患のある患者を救ったり、最もリスクの高い人々の深刻な病気を予防したりできる安全で効果的な治療方法が必要になります。そのため、このレベルを達成するための科学の専門家からの現実的なタイムラインはまだありません。
商工業復興の諮問グループ(Commerce Industry Recovery Advisory Groups)は、新型コロナウイルス感染症の拡散リスクが高いと指定された経済の各部門に対して「安全な再開計画」(Safe Reopen Plans)を提出します。計画はメリーランド州の復興チーム(Maryland Strong Recovery Team)により慎重にレビュー、審査され、公衆衛生と商業の両方のニーズを満たしているかどうかが判断されます。中リスクのステージと同様、高リスクのステージでも、容量制限・制御付きのサブ・フェーズがもうけられます。

このステージで実施される可能性がある変更の例。

  • a)より大規模な社会的な集まり(Social gatherings)
  • b)大規模なバーやレストラン
  • c)介護施設や病院への訪問制限の緩和
  • d)娯楽施設
  • e)より大規模な宗教的な集まり

(翻訳ここまで)

(更新:2020年6月24日)