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ソーシャル・ディスタンシングとは:アメリカ疾病予防管理センター(CDC)による説明

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が拡大し、現時点では収束の見通しは立っていません。これを受け、ニュースでは緊急事態宣言、ロックダウン(都市封鎖)という表現を目にするようになりました。

新型コロナウイルス感染症は人から人に感染するため、感染防止するためには外出しない方がよいということになりますが、外出しないと、(新型コロナウイルス感染症に感染しないとしても)運動不足になったり、孤立感を抱いたりするという副作用がもたらされます。買い物に行ったり、職業によっては仕事をしたり、あるいは、ペットの散歩をさせたりなど、そもそも暮らしとは外出を抜きにして、言い換えれば、パブリックな場所との関わりを抜きにして成立することはありません。

ここでは、新型コロナウイルス感染症への対応としてアメリカで重視されているソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)をご紹介したいと思います。これは、パブリックな場所との関わりを守ることに関わってくることです。

ソーシャル・ディスタンシングとは

ソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)は社会的・物理的な距離の確保により感染拡大を防止する方法で、「社会距離戦略」、「社会距離の確保」、「対人距離の確保」などと訳され、外出時には他者と6フィート(約1.8メートル)の距離をとることだと説明される場合があります。この説明は間違いではありませんが、ソーシャル・ディスタンシングについての説明を読むと、ソーシャル・ディスタンシングにはもう少し広い意味が込められていることがわかります。

新型コロナウイルス感染症との関わりで、日本でも名前が知られるようになったアメリカ疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)の「Social Distancing, Quarantine, and Isolation」のページには、「対面での接触を制限することが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐ最善の方法です」と書かれ、ソーシャル・ディスタンシングが次のように説明されています。

ソーシャル・ディスタンシングとは?

ソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)は、フィジカル・ディスタンシング(Physical Distancing)とも呼ばれ、自宅以外の場所で、他の人との間にスペースを空けることを意味します。ソーシャル・ディスタンシングを実践するためには

  • 他の人から少なくとも6フィート(2メートル)離れる
  • グループで集まらない
  • 人混みに近づかず、マスギャザリング(Mass Gathering)を避ける*1)

新型コロナウイルス感染症を防ぐための日常的な対策に加えて、他の人との間にスペースを確保することは、ウイルスにさらされるのを避け、地域や国や世界全体への感染拡大を遅らせるための最善の方法の1つです。

新型コロナウイルス感染症がお住まいの地域で感染拡大している時は、屋内においても屋外においても、家族以外の人との濃厚接触を制限する必要があります。症状が出る前にウイルスを拡散することがあるので、症状がなくても、可能な限り他の人と距離を置くことが重要です。ソーシャル・ディスタンシングは、重症化するリスクが高い人にとって特に重要です。

ソーシャル・ディスタンシングをなぜ実践するのか?

新型コロナウイルス感染症は、主に長期にわたり濃厚接触(6フィート以内)している人の間で広がります。感染者が咳をしたり、くしゃみをしたり、話をしたりすると、口や鼻から飛沫が空中に放出され、近くにいる人の口や鼻に付着することで感染が広がります。また、飛沫は肺に吸入されることもあります。最近の研究では、感染しているが、症状が出ない人も新型コロナウイルス感染症の感染拡大に関与している可能性が高いことが明らかにされています。

ウイルスが付着した表面や物体に触れた後、自分の口や鼻、目に触れることで新型コロナウイルス感染症に感染する可能性があります。ただし、これはウイルス感染の主な原因とは考えられていません。ウイルスは、日光や湿度などの要因に応じて、物の表面上で数時間から数日間生存し続けます。ソーシャル・ディスタンシングは、感染者や、汚染された物の表面との接触を制限するのに役立ちます。

重症化のリスクは人によって異なりますが、誰もが新型コロナウイルス感染症に感染し、拡散してしまう可能性があります。誰もが感染拡大を遅らせ、自分自身、家族、そして、コミュニティを守る役割を担っています。

ソーシャル・ディスタンシングのためのヒント

  • 居住地の関係機関の指示に従ってください。
  • 食料品店や薬局で、食料品や薬を買う必要がある場合は、他の人から少なくとも6フィート離れてください。
    ・可能なら、薬は通信販売を利用してください。
    ・食料品の配達サービスを検討してください。
    ・食料品店など公共の場所に出かける必要がある場合を含めて、他の人の周りにいる時は、口と鼻を布製のフェイスカバーで覆って下さい。
    ・フェイスカバーをつけていても、他の人からは少なくとも6フィート離れてください。
  • 友人の家、公園、レストラン、お店、その他の場所など、私的な場所や公共の場所での大小の集まりを避けてください。このアドバイスは、 ティーンエイジャーを含むあらゆる年齢の人々に適用されます。子どもたちは学校が休みの間、直接、遊びの約束(※Playdate:時間・場所を決めた遊び)をするべきではありません。ソーシャル・ディスタンシングを保ちながら社会的なつながりを維持するために、学校が休みの間に子どもたちが健康でいられるためのヒントを学んでください。
  • 可能であれば、自宅で仕事をしてください。
  • 可能であれば、公共交通機関、ライドシェアリング(※UberやLyftなど)、タクシーの利用は避けてください。
  • 生徒、または、保護者は、デジタル/遠隔学習の選択肢について学校に相談してください。

離れている間でも、連絡を取り合ってください。同居していない友人や家族と連絡を取り合うことは非常に重要です。電話をしたり、ビデオチャットをしたり、ソーシャルメディアで連絡を取り合ったりしてください。
ストレスの多い状況に対する反応は人によってそれぞれであり、愛する人と社会的に距離を置かなければならないことは困難かもしれません。ストレス対処のヒントをお読みください。
※CDC「Social Distancing, Quarantine, and Isolation」のページの翻訳。

ソーシャル・ディスタンシングとは感染症の広がりを防ぐために、社会的・物理的な距離を確保することを意識したライフスタイルのことだと捉えることができます。ただし、こうしたライフスタイルでもパブリックな場所との関わりは必要であり、6フィート(約1.8メートル)の対人距離を確保することは、パブリックな場所との関わりにおける作法として理解することができます。

従って、ソーシャル・ディスタンシングとは、パブリックな場所から退避して引きこもったり、誰かを隔離したり排除したりするものでなく、「離れている間でも、連絡を取り合ってください」と社会的接触の重要性が指摘されていることは見落としてはなりません。

ソーシャル・ディスタンシングのためにパブリックな場所ではどのような対応がされているのか。食料品店における対応事例をこちらのページで、公園における対応事例をこちらのページでご紹介しています。


訳者注

  • 1)マスギャザリング(Mass Gathering)とは、「祭りやコンサート、スポーツなどの行事や催し物などへの参加を目的に、多くの人が特定の地域に集まる」ように、「一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」のこと(松本哲哉「『マスギャザリングと感染症』の連載にあたり」・『モダンメディア』65巻10号, 2019)。

ソーシャル・ディスタンシングとフィジカル・ディスタンシング

感染防止に必要なのは物理的な距離を確保することであり、社会的に隔離したり排除したりすることでないという趣旨で、最近、WHOはソーシャル・ディスタンシングを、「物理的距離の確保」を表すフィジカル・ディスタンシング(Physical Distancing)に言い換えるようになっています。ただし、ここでCDCによるソーシャル・ディスタンシングの説明を見てきた通り、ソーシャル・ディスタンシングが意味するのは物理的距離の確保だけでないことには注意が必要です。

また、日本ではソーシャル・ディスタンス(Social Distance)という表現が用いられる場合もありますが、この語は他者との親密さ/疎遠さを表し、特定の個人やグループを排除するという意味があるため、感染防止の対策としてのソーシャル・ディスタンシングとは異なります。感染防止に必要なのは、社会的な距離(Distanceという名詞)ではなく、社会的な距離を取ること(Distancingという動名詞)であることにも注意が必要です。

(更新:2020年5月21日)