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アメリカ・ワシントンDCの新型コロナウイルス感染症への対応(2020年3月~4月)

※ワシントンDCのその後の状況はこちらを参照。
※ワシントンDCにおける対応を時系列で整理した情報はこちらを参照。


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が拡大し、現時点では収束の見通しは立っていません。これを受け、2020年4月16日には全国に緊急事態宣言が出されました。当初、ゴールデンウィーク明けの5月6日までとされていましたが、感染が収束する見通しが立たないため、緊急事態宣言は延長される可能性が大きくなっています。

新型コロナウイルス感染症が流行しているのは日本だけではなく、海外でも感染防止のため様々な施策が行われています。ここで紹介するのは、アメリカ東海岸のワシントンDCの動きです。ワシントンDCではどのようなタイミングで、どのような施策がとられたのかについての情報を共有することで、何らかの参考になればと思います。ただし、日本とアメリカでは状況が違うため、アメリカの方が優れていると主張したり、アメリカの真似をした方がいいと主張したりすることがこの記事の目的ではありません。

なお、紹介しているのは記事を投稿した時点での情報であるため、感染の流行によっては大きく情報が変わる可能性があります。

ワシントンDCの対応

アメリカでの新型コロナウイルス感染症の感染者は、2020年1月21日に西海岸のワシントン州で初めて見つかりました(※Wikipediaの「アメリカ合衆国における2019年コロナウイルス感染症の流行状況」のページより)。ワシントンDCで初めての感染者が見つかったのは、それから約1ヶ月半後の2020年3月7日。感染者の行動履歴の調査が行われ、接触した可能性がある人が自宅で自己隔離することが推奨されました。

3月11日にはヒト・ヒト感染を含む新たな感染者が確認されたことが発表され、「非常事態」(State of Emergency)、および、「公衆衛生上の緊急事態」(Public Health Emergency)が宣言されました。また、1,000人以上が集まる不可欠でない大規模集会・会議を延期または中止すること、1,000人に満たない場合でも社会、文化、娯楽イベントの開催を主催者側が再検討することが推奨されました。
3月13日にはトランプ大統領が国家非常事態を宣言。この日、ワシントンDCでは、DC政府にテレワークを導入すること、3月16日から公立図書館を閉館すること、3月17日から公立学校を休校にすることなどの措置が発表されました。

この後も発見された感染者数は徐々に増加し、3月16日から50人以上の集会禁止、レストランおよび居酒屋(Taverns)でのテーブル席の停止、DCメトロの減便、3月17日からクラブ、多目的施設、ジムクラブ、スパ、マッサージ、劇場の営業停止と、禁止される集会と閉鎖される施設の種類は徐々に増えていきます。

ワシントンDCのタイダル・ベイスン(Tidal Basin)周辺は桜の名所となっています。例年は多くの人で賑わいますが、今年は花見のためにDCメトロ・バスを利用しないようにするために、タイダル・ベイスン(Tidal Basin)周辺の駅が閉鎖されることとなりました。

基幹的でないビジネスの営業停止

3月24日には「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)の営業停止の措置が発表(3月25日22時から発効)。「基幹的でないビジネス」にはツアーガイド、小売服店、美容院、理髪店、ジム、映画館などが含まれること、営業を継続できる「基幹的なビジネス」(Essential Businesses)であっても対面ビジネスを行なう場合はソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)として6フィート(約1.8メートル)以上の間隔をあけるのを遵守することが発表されています。

外出禁止令(自宅待機命令)

3月30日には外出禁止令(自宅待機命令:Stay-at-Home Order)が発令されました(4月1日午前0時1分から発効)。主な内容は以下の通りです。

  • 以下の例外を除き、全てのDC市民が自宅に滞在するよう命ずる。
    □遠隔医療では提供できない医療を受けたり、食料や生活必需品を入手したりするなど、不可欠な活動(Essential Activities)に従事する場合
    □不可欠な政府機能(Essential Governmental Functions)を運用または訪問する場合
    □基幹的なビジネス(Essential Businesses)で働く場合
    □不可欠な移動(Essential Travel)に従事する場合
    □市長令で定義されている「許容されるレクリエーション活動」(Allowable Recreational Activities)に従事する場合
  • アパートの共通エリア(ジム、ラウンジ、ルーフトップ等)の使用を禁止
  • 不可欠な移動(Essential Travel)に従事する場合に公共交通機関を利用する者は、ソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)を遵守
  • 3月24日に発出した市長令に定める通り、基幹的なビジネス(Essential Businesses)のみの運用を許可。
  • 本令に故意に違反した個人または団体は、1,000ドルの罰金、営業の一時停止、または免許の取り消しを含む制裁措置や罰則を含む民事、刑事、行政上の罰則の対象となる。また、本令に故意に違反した個人は、軽犯罪の有罪として、5,000ドル未満の罰金、もしくは90日未満の禁錮、またはその両方が科される可能性がある。
  • 本令は、4月1日午前0時1分から発効され、4月24日まで継続される。後続の市長令によって、延長、取り消し、置き換え、または修正されることもある。

※2020年3月30日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

外出禁止令(自宅待機命令)下においても外出が可能な「許容されるレクリエーション活動」(Allowable Recreational Activities)は次のように定められています。

「許容されるレクリエーション活動」(Allowable Recreational Activities)とは、世帯員との屋外活動(outdoor activity with household members)で、ソーシャル・ディスタンシングの要件(Social Distancing Requirements)に準拠し、活動前後に使用機器の消毒を行うものを意味する。世帯員以外との屋外活動をしてはならない。

例:ウォーキング、ハイキング、ランニング、犬の散歩、サイクリング、ローラーブレード、スクーター、スケートボード、テニス、ゴルフ、ガーデニングと、その他、参加者全員がソーシャル・ディスタンシングの要件を遵守し、人と人との接触がない活動
※「Mayor Bowser Issues Stay-At-Home Order」March 30, 2020の翻訳(一部省略)


4月8日には、市長令「公衆衛生上の緊急事態期間中の食品販売業者に求められるソーシャル・ディスタンシングの手順と、ファーマーズ・マーケットとフィッシュ・マーケットの運営要件」が発令され、食料品店には買い物客がマスク着用を指示するなどの看板を掲示すること、入店する客の数を制限する等の対応が求められました。
4月15日にはタクシー、ライドシェア、民間輸送業者等の利用者、ホテルの宿泊客にもマスク着用が義務化されました。

DC再開

このように感染防止のための様々な対応がとられている一方、4月中旬以降には感染防止の対応によって停滞している社会をどう再開するかの提案が見られるようになっています。
4月16日にはトランプ大統領がアメリカ再開のためのガイドライン『オープニングアップ・アメリカアゲイン』(Guidelines for Opening Up America Again)を発表しました。

4月23日にはワシントンDC市長が『DC再開』(Reopen DC)を発表。これは、3つのフェーズによって社会を段階的に再開していくという提案です。

2020年4月23日木曜日に、ボウザー市長は『DC再開』(ReOpen DC)の計画を発表しました。市長は、我々の街を再開するだけでなく、より公平なDCを築くための一世代に一度の機会だと述べました。安全で持続可能な回復のためには、測定し、データに基づき(Data-driven)、そして、慎重に行う必要があります。『DC再開』は安全で持続可能な方法でDCを再開するために、コミュニティとして協力することです。我々は、一緒に、科学に基づき、コミュニティのニーズに合わせた計画を作成します。

『DC再開』は、ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)のレポート『Public Health Principles for a Phased Reopening During COVID-19: Guidance for Governors』に準拠し、公衆衛生上の重要な指標と能力に基づいた段階的な対応が含まれています。また、コミュニティベースのガイドライン、セクターベースのガイダンス、明確なコミュニケーションに焦点を当てた内容も含まれています。
※「ReOpen DC」のページの翻訳。

『DC再開』では、再開のプロセスが3つのフェーズで捉えられています。

  • (1)緊急対応(Emergency Response):現在のフェーズ。
  • (2)安定化(Stabilization):『DC再開』が焦点を当てるフェーズで、制限を緩和するが、ネガティブな指標を注意深く監視し、迅速に対応する。
  • (3)長期的な回復(Long-term Recovery):新しい、よりレジリエントな正常な状態(New, more resilient normal)を見つける方法。このフェーズは、ワクチンが広く入手可能になったときに開始される可能性が高い。

『DC再開』の作成にあたって重視されるのが、HOPEと呼ばれる健康(Health)、機会(Opportunity)、繁栄(Prosperity)、公平(Equity)の4つの価値です。

健康(Health):健康で安全な市を大切にしています。これは、住民の健康の確保に加えて、健康状態の改善、より応答性の高い緊急サービスの開発、健康的な環境、交通事故による死傷者の減少、犯罪の減少を優先するための機会です。

機会(Opportunity):住民が力強く生きる機会を作ることを大切にしています。復興を通して、活気のある雇用市場のサポートと、教育とトレーニングを通じた新しい雇用機会の計画により、住民が目標を達成することをサポートします。中小企業や起業家がより強く戻ってくるために、技術的および財政的にサポートします。

繁栄(Prosperity):活気のある市を大切にします。市を再スタートすることは、ビジネスと住民にとって重要であり、責任を共有することです。学校、インフラ、社会サービス、保育、世界クラスの場所と空間(World-class places and spaces)、そして、家族のための住宅への重要な投資をサポートするために、政府と企業の強力な財政回復を確実にする必要があります。

公平(Equity):最も弱い立場にある人々(Most vulnerable)のための結果の改善を大切にします。アフォーダブル・ハウジング、便利で健康的なコミュニティ、健康的な食品、地元のビジネス開発、小売店の選択肢(Retail options)、素晴らしいコミュニティ施設は、最も必要とするコミュニティに資源を集中させることで、自宅の近くで、そして、市の全ての近隣で見つかるようにするべきです。
※「ReOpen DC」のページの翻訳。


ワシントンDCでは、感染防止のための様々な対策が取られ、また、社会を再開するための提案が行われています。これらに加えて、特に4月に入ると暮らしをサポートするための様々な対策が発表されてきたことにも気づかされます。例えば、次のような対策です。

  • 隔離等で自宅から出られない、または、家族等の助けが得られないDC市民に必須の食料品を届けるサービスを開始する(4月9日の記者会見)。
  • DC公立学校(DCPS)での食料品配布が4月13日(月)から開始。学生および高齢者への食事配布とは別途行われるもので、食料品を入手できない脆弱な家族向けであり、先着順・無料で配布される(4月9日の記者会見)。
  • DC住民が不可欠な運動を行うスペースを確保するための措置として、4月30日までRock Creek Park、Anacostia Park、Fort Dupont Parkの車道を閉鎖する(4月13日の記者会見)。
  • 自宅から出られないDC市民が食料品等の要請を行うためのホットラインおよびオンラインフォームを開設(4月13日の記者会見)。
  • 子どものストレス管理のため、親向けのバーチャルワークショップを開催している(4月17日の記者会見)。
  • 家庭内暴力(DV)を受けている者へのホットラインを紹介(4月20日の記者会見)。

※在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。


このように、ワシントンDCでは最初の感染者の発見から2週間余りで「基幹的でないビジネス」の営業停止措置、3週間余りで外出禁止令(自宅待機命令)、6週間弱でマスク着用の義務化が出されています。さらに、最初の感染者の発見から7週間弱で『DC再開』が発表されています。
ワシントンDCのこのような動きを振り返ることで、次のようなことに気づかされます。

  • 「基幹的でないビジネス」の営業停止、外出禁止令(自宅待機命令)、マスク着用の義務化というように、感染防止のための厳格な対応が早期に出されていること
  • どのようなビジネスが禁止されるのか、どのような活動が禁止されるのかなどが罰則を伴う法として明確に定められていること
  • 社会を再開するための条件とロードマップが明確にされていること
  • 社会を再開するとは、決して元の状態に戻すことではなく、新たな価値を生み出そうとしていること
  • 最初に厳格に定めた禁止事項を、条件を満たすことで徐々に緩めていくアプローチがとられていること

見落としてはならないのは、ビジネスや活動を禁止するだけでなく、様々な暮らしをサポートする対策が取られていること、大人は最大1,200ドル(約13万円)、子どもには500ドル(約5万5千円)という迅速な現金給付とセットになっていることは見落としてはなりません(※「米上院、コロナ経済対策を可決 下院送付、27日成立か」・『東京新聞』2020年3月26日)。
ワシントンDCの動きは、日本の次のような状況、つまり、行政からの要請を受けたり、世間の目に対応したりすることで、あくまでも「自粛」として感染防止が行われており、また、緊急事態宣言がずるずると続き、どのような条件であれば社会を再開するかの議論が進んでいない状況とは大きく異なると感じます。世間の目に対応したりすることで、あくまでも「自粛」として感染防止が行われており、また、緊急事態宣言がずるずると続き、どのような条件であれば社会を再開するかの議論が進んでいない状況とは大きく異なると感じます。

ソーシャル・ディスタンシング

ワシントンDCに限らず、アメリカでは新型コロナウイルス感染症への対応として「ソーシャル・ディスタンシング」(Social Distancing)が重視されています。
ソーシャル・ディスタンシングは社会的・物理的な距離の確保により感染拡大を防止する方法。「社会距離戦略」、「社会距離の確保」、「対人距離の確保」などと訳され、外出時には他者と6フィート(約1.8メートル)の距離をとることだと説明される場合があります。この説明は間違いではありませんが、ソーシャル・ディスタンシングについての説明を読むと、ソーシャル・ディスタンシングにはもう少し広い意味が込められていることがわかります。

ワシントンDCの外出禁止令(自宅待機命令)では、ソーシャル・ディスタンシングが次のように定められています。

ソーシャル・ディスタンシングの要件(Social Distancing Requirements)には以下が含まれる。

  • 他の人と少なくとも6フィートのソーシャル・ディスタンシングを確保すること。
  • 可能な限り、頻繁に、あるいは、感染の可能性のある表面に接触した後に、石鹸と水で少なくとも20秒間手を洗うか、ハンドサニタイザー(手指消毒剤)を利用すること。
  • 咳やくしゃみをする時は、ティッシュで覆い、そのティッシュをすぐに捨てるのが好ましい。袖や肘で覆ってもよいが、手では覆わないこと。
  • よく触る場所(high-touch surfaces)を定期的に清掃すること。
  • 握手をしないこと。

※「Mayor Bowser Issues Stay-At-Home Order」March 30, 2020の翻訳

この定義からは、ソーシャル・ディスタンシングとは感染症の広がりを防ぐために、社会的・物理的な距離を確保することであり、他者と6フィート(約1.8メートル)の距離を確保することは、その中の1つであることがわかります(※アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によるソーシャル・ディスタンシングの説明をこちらの記事で紹介しています)。

(更新:2020年6月1日)