『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

東欧の団地

ドイツのライプチヒで開催された国際学会・IAPS 21 Conference(IAPS=International Association of People-Environment Studies)に参加し、日本の分譲マンションについての調査結果を報告してきました。

IAPS 21 Conferenceで、東欧の団地(集合住宅)についての研究がいくつか発表されていました。これらの研究の問題意識は日本と共通するところがあり、ポーランドから来られていた方が、日本の分譲マンションのことについて興味をもってくださいました。

ポーランドはドイツの東に隣接する国ですが、この国の首都、ワルシャワの団地について、原武史氏がこんなことを書かれています。

トラムが通る広い道の両側に、5階建てや11階建ての団地が整然と並び、停留所の前にはカルフールのような巨大スーパーも見えてくる。停留所5〜6カ所分に相当する大団地もあった。大団地と中心部を結ぶトラムは、朝のラッシュ時には待たずに乗れるが、どの電車も満員であった。
私はこれまで、先に述べたポートランド、大連、香港のほか、ソウル、北京、台北、ロンドン、エルサレムなどの郊外を、トラムや電車、タクシーに乗って見たことがある。このうち、香港、ソウル、北京などに集合住宅はあっても、高層ないし超高層マンションのようであり、ロンドンやポートランドなどは一戸建て主体で、中層や高層の集合住宅を見つけるのが難しかった。
これらの都市に比べると、ワルシャワの郊外は、はるかに東京の郊外に似ていた。
・・・・・・。一口に団地といっても、建設された時期によって5階建てが多かったり11階建てが多かったりするのは、ワルシャワも東京も変わらなかった。
・・・・・・
東西南北、どの方角に進んでも、必ず団地があらわれる。私は、かつて訪れたことのある外国のどの都市よりも、あるいは大団地のない日本の地方都市よりも、ワルシャワに親近感を抱いた。
*原武史『沿線風景』講談社 2010年

研究の問題意識に共通点があるのは、日本と東欧の国々の郊外の住環境が似ているから、というのが大きな理由かもしれません。


写真はライプチヒで撮影したもの。ライプチヒは、旧東ドイツ地域にあり、現在では50万人程が住む都市。外観だけからは、住戸の中がどんな間取りになっているのかわかりませんが、箱形の建物が並ぶ光景は、日本の団地に似ています。

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参加した学会では、東欧の団地について次のような研究が発表されていました。

1つ目は、ドイツ・ライプチヒの団地についての研究。1975〜1989年に建設された団地を、30年にわたって調査した研究で、次のような内容です。

  • この団地では、近年では高齢者の割合が増えている。
  • 高齢者は団地に住み続けることを強く望んでいるが、段差や階段、シャワーのない狭いバスルーム、歩行や車椅子に十分なスペースがないなど、建物は居住者のニーズに十分には対応できていない。
  • さらに、歩道は歩きにくく、人々は集まれる場所をもっと欲しいと要求するなど(・・・, and there is a need for more meeting places for older people.)、集合住宅を取りまく環境も適切ではない。

以上のような問題はあるが、この団地は全ての年代の人々(子どもを持つ若い家族も含まれる)にとって生活するのに良好な環境であると多くの回答者が考えている、という調査結果になっているようです。
*Kabisch, Sigrun, and Katrin Großmann. Large Housing Estates: Challenges and Chances in the Mirror of Demographic Change (The Case of Leipzig-Grünau from 1979 to 2009 in a Sociological Longitudinal Study). IAPS 21 Conference, Abstracts of Presentations, 2010

もう1つは、ポーランドの団地についての研究で、内容は以下の通り。
ヨーロッパの国々では、第二次大戦後に建設された大規模団地は、問題を抱えた地域だと見なされることが多い。しかし、ポーランドの大規模団地は、今でも物理的、社会的に魅力的な住環境であり続けている。1977〜1978年に建設された大規模団地の居住者に対して、いくつかの側面から(Usability=使い易さ, Aesthetic=美的, Safely=安全性, Social=社会的, Emotional=感情的)団地を評価してもらうという調査を実施。この調査から、居住者は全ての側面においてこの団地を高く評価しているということが明らかにされている。ただし、Usability(使い易さ)に関しては、自由な時間を過ごすための場所が不足していると評価されている(The respondents positively evaluated the usability assets and the development of the estate, except one aspect, which is the availability of places to spend free time.)。
*Szafranska, Ewa. The Residential Attractiveness of a Large Housing Estate in the Opinion of the Inhabitants. the Case of the Retkinia-North Housing Estate in Lodz (Poland). IAPS 21 Conference, Abstracts of Presentations, 2010

特に集まれる場所が不足している、自由な時間を過ごせる場所が不足しているという部分は、千里ニュータウン・新千里東町の「ひがしまち街角広場」が生まれた背景と似ていると感じました。

(更新:2015年6月3日)