『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

アメリカの郊外住宅地・グリーンベルトにおける高齢者の生活支援プログラム(GAIL)

グリーンベルト(Greenbelt)は、ニューディール政策によって作られたアメリカ・ワシントンDC郊外の街。まちびらきは1937年と、既に80年以上の歴史をもつ街です。

まちびらき当初は若い世代が住んでいたグリーンベルトも、年月が経過し、2010年の国勢調査時点の高齢化率は7.3%となっています*1)。千里ニュータウンと比べると高齢化率は小さいですが、高齢者がどうすれば街に住み続けることができるかが考えられていることに変わりはありません。

高齢者の生活をサポートするため、グリーンベルト市にはGAIL(Greenbelt Assistance in Living Program)と呼ばれる生活支援のためのプログラムがあります。

グリーンベルト市のウェブサイトには、GAILの目標が次のように記載されています。

このプログラムの目標は、高齢者が自宅に住み続けることができるように情報とサポートを提供することです。GAILプログラムは2001年に設立され、メリーランド州グリーンベルト市に居住する高齢者、および/または、グリーンベルトの高齢者の介護者が利用できます。
GAILプログラムは、コミュニティ全体に利益をもたらすための資源とプログラムを含んで、拡大してきました。
*「SENIOR SERVICES & PROGRAMS」のページより。

グリーンベルト市が発行するGAILのリーフレットには、プログラムが次の6つに分けてプログラムが紹介されています。

  • 幸福のために(For Your Well-being)
  • 住宅のために(For Your Home)
  • 移動するために(For Getting Around)
  • 住宅ニーズのために(For Your Housing Needs)
  • 介護者のために(Fore Caregivers)
  • 障がい者のために(For People with Disabilities)

以下ではそれぞれのプログラムを見ていきたいと思います*2)。

幸福のために(For Your Well-being)

栄養(Nutrition)

●毎月の食品無料配布(Free Monthly Produce Distributions)
2019年は、5月にスプリングヒル・レイク小学校(Springhill Lake Elementary School)、6月~10月にグリーン・リッジ・ハウス(Green Ridge House)で食品の無料配布が行われた。

●ブラウンバッグ食品プログラム(Brown Bag Food Program)
固定収入の高齢者に栄養価の高い保存食と洗面用具を配布することで、食費を抑えることを目的とするプログラムで、キャピタルエリア・コミュニティ・フードバンク(Capital Area Community Food Bank)との協働で行われる。
参加者は、毎月最低1袋の保存食と洗面用具を受け取ることができる。配布物は、毎月第3火曜に、市庁舎内のGAILオフィスで受け取ることができる。グリーン・リッジ・ハウス(Green Ridge House)の居住者は、グリーン・リッジ・ハウスのロビーで受け取ることができ、外出できない居住者はドアまで配布してもらえる。このプログラムの目標は、高齢者に食事を提供することに加えて、家から出て社交する機会を提供することである。10ドルの寄付で、1袋あたり0.83ドルの費用で、1年間に12袋の食料品を受け取ることができる。 収入のガイドラインが適用される。

健康・メンタルヘルス(Health & Mental Health)

●出張の/オフィスでのカウンセリング(Mobile or In-Office Counseling)

●毎年のインフルエンザ・クリニックと健康フェア(Annual Free Flu Clinic and Health Fair)

●毎年のメンタルヘルス検診日(Annual Mental Health Screening Day)

●認知症サポートグループ(Memory Support Group)
早期のアルツハイマー病、軽度の認知障がい、または、他のかたちの認知症の人々、及び、その配偶者、パートナー、介護者にスティグマのない環境を提供。認知症サポートグループ、認知症カフェ(Memory Cafe)が行われている。
認知症サポートグループは、○感情や不安を表現できる安全な環境、○同じ経験を共有する人と出会い、関係を築く機会の提供、○病気に関する教育、支援サービスとプログラムのオプションへの橋渡し、を提供する。認知症サポートグループは毎月第2・第4水曜の13時30分から14時30分まで、市庁舎の会議室で開かれている。
認知症カフェは、○活発な議論、社交、情報収集、軽食、友情、創造的な楽しみの機会、○介護者が大切な人と共に働き、メンバーがまだ参加できる活動に光をあてる機会。これは、家庭環境において継続できる活動への関心を呼び起こすことを目標としている、○グループ外の人々との出会いと友情を深める場所、を提供する。認知症カフェは毎月第1・第3水曜の13時30分から15時まで、市庁舎の会議室で開かれている。

●脳フィットネス・プログラム(Brain Fitness Program)

●コミュニティ看護プログラム(Community Nursing Program)
この無料プログラムは、ボウイー州立大学(Bowie State University)とワシントン・アドベンティスト大学(Washington Adventist University)の看護学部とGAILとの協働で行われる。プログラムの対象者は、グリーンベルト市内に居住する60歳以上の高齢者、50歳以上の障がいをもつ人。
参加者は、学生の看護師から最大6回の家庭訪問を受けることができる。家庭訪問は、毎週水曜の9時から15時までに予定されています。学生の看護師が参加者に電話をして、最初の家庭訪問の日時を決める。
提供される無料サービスは次の通り。○入浴介助、○血糖値のモニタリング、血液採取(Finger Sticks)の支援、○健康教育、○脈拍、呼吸、体温など(Vital Signs)のモニタリング、○ヘルスケアの専門家との患者擁護、○薬の管理など。

●処方薬割引カード(Prescription Drug Discount Cards)

在宅介護支援(Home Care Assistance)

●在宅ヘルスケアの優先医療給付プログラム(Home Health Care-Preferred Provider Program)

●GIVESによるボランティア・サービス(Volunteer Services through GIVES)
GIVES(Greenbelt Intergenerational Volunteer Exchange Service)は世代間のボランティア交換サービス。GIVESは、支援を必要とする人々が自分の家で自立して生活することを支援するためのボランティア組織で、親しみのある訪問、洗濯、手紙の執筆/代読、軽い家事、地域内の移動、食事の準備、軽微な住宅の修繕、息抜きなどを提供する(*Greenbelt Community Websiteの「GIVES」のページ)。

●情報・紹介(Information and Referral)

金銭的支援へのアクセス(Access to Financial Assistance)

●エネルギー支援、フードスタンプ、社会保障などの政府プログラムへの申請の支援(Help in applying to government programs like Energy Assistance, Food Stamps, and Social Security)
フードスタンプ(Food Stamp)は低所得者向けにの食料費補助対策。現在の正式名称は「SNAP=Supplemental Nutrition Assistance Program」(Wikipediaの「フードスタンプ」のページ)。

住宅のために(For Your Home)

消費者小切手帳(Consumer Checkbook)

●無料の会員プログラムに参加して、地域のビジネスやサービスを評価してください(Take part in our free membership program and gain access to ratings of area businesses and services.)

適応機器プログラム(Adaptable Equipment Program)

●資格のある申請者は、スライド制で価格設定された最大2つの家庭用機器を受け取ることができます(Eligible applicants can receive up to two pieces of home equipment priced on a sliding scale.)

移動するために(For Getting Around)

交通(Transportation)

●グリーンベルト・コネクション(Greenbelt Connection)
グリーンベルト・コネクション(Greenbelt Connection)は12人乗りの車椅子対応バンを運行するグリーンベルト市による輸送サービス。グリーンベルトの全住民が利用可能。乗車の少なくとも24時間前に電話でバンを手配する必要がある。運行時間は、月曜~金曜の8時~15時30分、土曜の9時~17時、日曜の9時~16時。祝日は運休。費用は高齢者、障がい者、6~18歳の子どもが1ドル/人、6歳未満の子どもは無料、その他の人は2ドル/人(*Greenbelt Onlineの「Can you Go Car-less in Greenbelt?」2014年1月19日のページ)。

●GIVESによるボランティア・サービス(Volunteer Services through GIVES)
GIVES(Greenbelt Intergenerational Volunteer Exchange Service)は世代間のボランティア交換サービス。GIVESは、支援を必要とする人々が自分の家で自立して生活することを支援するためのボランティア組織で、親しみのある訪問、洗濯、手紙の執筆/代読、軽い家事、地域内の移動、食事の準備、軽微な住宅の修繕、息抜きなどを提供する(*Greenbelt Community Websiteの「GIVES」のページ)。

●スタッフのサポートによる追加の移動サービス(Connection to additional transportation services with the help of our staff)

住宅ニーズのために(For Your Housing Needs)

グリーン・リッジ・ハウス(Green Ridge House)

●62歳以上、及び、障がい者のための低所得者住宅(Low-income housing for 62+ and disabled adults)

○グリーン・リッジ・ハウス(GRH)は、グリーンベルト市が所有する62歳以上の高齢者、または、障がい者のための住宅・都市開発省(HUD)のセクション8・202のアパートで*3)、1ベッドルームが101戸ある。アメニティには敷地内の美容室、温室、陶芸室、エクササイズ・ルーム、コンピューター・ルーム、社会活動(social activities)、図書室、居住者を利益とリソースに結びつけるサービス・コーディネーターが含まれる。グリーン・リッジ・ハウスには、収入に関するガイドラインが適用される。

○サービス・コーディネーター
グリーン・リッジ・ハウスのサービス・コーディネーターは、居住者が自立して暮らせるようになるため/暮らし続けるために必要なサービスやサポートを特定し、取得するのをサポートする。
サービス・コーディネーターには次のような義務があるが、これらには限定されない。・紹介サービス、・健康、心理的、社会的ニーズの評価、・利用可能なサービス、申請手続き、権利についての居住者への教育と、必要に応じたアドボカシーの提供、・コミュニティ・イベントでのサポートプログラムの準備。

○広報紙(Green Ridge House Gazette
四半期ごとに発行し、健康に関するイベントと検査、今後のプログラムとイベント、申請の締切、及び、グリーン・リッジ・ハウスと周辺コミュニティに関する追加のサービスに関する重要な情報を伝える。

○毎年の健康および社会サービス・プログラムのアセスメント
少なくとも年に1回、グリーン・リッジ・ハウスのサービス・コーディネーターはそれぞれの居住者と面会し、市内および郡(County)内で利用可能な様々なプログラムとサービスの受給資格のアセスメント、及び、再アセスメントを行う。
このアセスメントは居住者が、自立を取り戻し、維持することをサポートする。

○フィットネス・プログラム
Wiiインタラクティブ・ゲーム
Wiiインタラクティブ・ゲームにより、快適なコミュニティ・ルームで誰でもボーリング、テニス、ゴルフ、野球、あるいは釣りでさえも、楽しむことができる。車椅子、歩行器、杖を利用している居住者も参加することができる。Wiiゲームは、毎週木曜・金曜の13時から15時まで、グリーン・リッジ・ハウスのコミュニティ・ルームで開かれる。

笑いヨガ(Laughter Yoga)
笑いヨガは、筋肉を動かすユニークで楽しい方法である。自分が快適なレベルで練習することができる。笑いヨガは、毎週月曜と木曜の10時から11時まで、グリーン・リッジ・ハウスのコミュニティ・ルームで開かれる。

○食品の無料配布

○昼食会
高齢者の栄養プログラム(Senior Nutrition Program)により、月曜・水曜・金曜の11時30分から、グリーン・リッジ・ハウスのダイニング・ルームで温かい食事が提供される。
十分な人数分の食事を提供するため、居住者は少なくとも2日前に予約する必要がある。

○現地での健康検診
毎月の血圧測定
コミュニティの看護師が血圧測定のためにやって来る。看護師は、健康的な血圧レベルに改善、維持する方法に関するヒントを伝える。測定は、毎週水曜の13時から、グリーン・リッジ・ハウスのダイニング・ルームで開かれる。
処方薬割引プログラム
処方薬割引カード(Prescription Discount Cards)は、ナショナル・リーグ・オブ・シティーズ(NLC:National League of Cities)との協働によりグリーンベルト市が住民に提供するもので、NLCのグリーンベルト市のメンバーシップを通じて利用可能になる。カードは何例、収入、既存の健康保険に関わらず、全てのグリーンベルトの住民が無料で利用できる。

住宅のオプションの理解(Understanding Housing Options)

●個人のニーズに応じて、様々なタイプの住宅を探すサポートを行います。(We can meet with you to help you explore different types of housing depending on your personal needs.)

介護者のために(Fore Caregivers)

介護者サポートグループ(Caregiver Support Group)

●毎月第2水曜(2nd Wednesday of the Monthly)
●大切な人をケアするアダルトチルドレン、配偶者、家族、または、友人のためのサポート(Support for adult children, spouses, family, or friends who provide care to a loved one)
護者サポートグループは慢性の健康障がいをもつ人の介護者、家族、友人が判定されない環境を提供することで、介護の問題と可能な解決策についての実用的な情報の交換、○課題と対処方法についての話し合い、○感情、ニーズ、不安の共有、○コミュニティで利用可能なリソースとサポートサービスについての学び、を行う。
護者サポートグループは毎月第2水曜の18時から19時まで、コミュニティ・センターで開かれている。

介護者のための一対一の情報・紹介・カウンセリング(One-on-One Information & Referral & Counseling for Caregivers)

●大切な人が利用できるリソースがわからない家族や介護者向け(For families or caregivers who are unsure about resources for their loved ones)

障がい者のために(For People with Disabilities)

利用可能なリソースへの橋渡し(Connection to Available Resources)

●事前の電話予約制(Call ahead to schedule an appointment)

移動式の/オフィスでのカウンセリング(Mobile or In-Office Counseling)

●空き状況の問合せ(Call for availability)

障がい者所得と医療給付(Disability Income and Medical Benefits)

●給付の理解のサポート(Help in understanding your benefits)
●給付の申請のサポート(Help in applying for benefits)

障がい者サポートグループ(Differently Abled Support Group)

●身体的および精神的な課題を抱える50歳以上の人向けの毎月のサポートグループ(A monthly support group for adults 50+ with physical and mental challenges.)


グリーンベルト市のGAILでは以上のようなプログラムが行われています。

また、GAILのリーフレットには記載されていませんが、月曜〜金曜の12時からコミュニティ・センターで、高齢者を対象とする昼食会が開かれています(2日前までに要予約。3ドルの寄付が必要)*4)。

様々なレクリエーション・プログラムも行われており、例えば、コミュニティ・センターの掲示板には、高齢者を対象とする様々なプログラムが案内されています。


  • 1)高齢化率はグリーンベルト市(City of Greenbelt)の数値。グリーンベルトでは、1937年に第1期、1941年に第2期の入居が行われた。現在、第1期、第2期に入居が行われたエリア周辺も開発され、新たに開発された地域も含めてグリーンベルト市を構成している。グリーンベルト市の中で第1期、第2期にまち開きが行われたエリアはオールド・グリーンベルト(Old Greenbelt)と呼ばれている。初期に入居が行われたため、オールド・グリーンベルトの高齢化率は、グリーンベルト市全体の高齢化率に比べて、大きい可能性がある。
  • 2)以下に紹介するプログラムの項目はGAILのリーフレットに記載のもの。それぞれの項目の説明は、特に記載がない場合はグリーンベルト市の「SENIOR SERVICES & PROGRAMS」のページを参考にしている。
  • *3)「セクション202住宅は連邦政府唯一の高齢者専用住宅であり、住宅・都市開発省の管理下にある」、「入居資格は、62歳以上であることと、年収が該当地域の住民の年収の中央値の半分以下であることの2点」。セクション8は「住宅・都市開発省の家賃補助を目的とする」プログラム(クルーム洋子『アメリカの高齢者住宅とケアの実情』・『海外社会保障研究』No.162 Autumun 2018)。
  • *4)グリーンベルト市の「SENIOR SERVICES & PROGRAMS」のページより。