『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

新千里東町近隣センター要員住宅のバスオール

2012年11月10日(土)、おおさかカンヴァスとしては最後のイベントとなる、2回目の「大きな本」新千里東町ツアーを行ないました。ツーアでは、千里中央と新千里東町の住区内に8冊の「大きな本」を展示したのに加えて、新千里東町近隣センターにある要員住宅を開放しました。

新千里東町近隣センターの要員住宅

要員住宅は近隣センターで働く人々のための住宅。千里ニュータウンの全ての住区にあったわけではないため、新千里東町の要員住宅には、新千里東町以外の近隣センターで働く人々も住んでいました。

新千里東町の要員住宅の住戸には風呂場がないため、お住まいの方は隣の銭湯(銭湯は1986年に閉鎖され、現在はマンション(1987年8月竣工)になっている)を利用されていましたが、住戸内でバスオールを使っている方もいました。

新千里東町の要員住宅は既に閉鎖されていますが、かつて使われていたバスオールがいくつか残されているため、ツアーでは3つの住戸を開放しました。

201号室

ベランダに置かれたバスオール。湯船のないシャワーだけのタイプです。目隠しとして、バスオールのすぐ隣にはカーテンが取り付けられています。

301号室

ダイニングに置かれたバスオール。現在、吹田市立博物館で3世代のバスオールが展示されています。これによると、301号室のバスオールは、洗い場のついた3世代目のタイプになるようです。サイズ的にベランダに置けないため、ダイニングに置かれていたのだと思われます。
バスオールは壁から少し離して置かれています。部屋のスペースがもったいないですが、バスオールについている排水パイプを曲げることができないため、ベランダに排水するためにはこの位置にしか置くことができないという事情があります。

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405号室

301号室と同様、洗い場のついたタイプで、同じようにダイニングに置かれています。バスオールには、ベランダに設置された湯沸かし器のお湯を使っていました。

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バスオールの扉の脇には「HOXAN」(ホクサン)という製造会社の名前が記載されています。
使用上の注意、お手入れ方法のシールには次のような注意書き。

ご使用上の注意
○次のものは、部品を着色、溶解腐蝕させる原因となりますので、お使いにならないで下さい。
・染毛剤 口紅等 有色化粉品
・湯の花等 硫黄系浴用剤
○タバコ等の火気及び金属、ガラス等の硬いもの、先端の鋭いものを落さないでい下さい。
○浴室内の湿気は、カビ、悪臭等の発生の原因となりますので、換気に心掛けてください。

お手入れ方法
○汚れを落すには、柔らかい布かスポンジに、中性洗剤をつけて拭きとってください。
○タワシ、ミガキ粉は表面に傷を、ベンジン等の有機溶剤及び酸類は、部品を溶解させる原因となりますので、お使いにならないで下さい。
○排水トラップは、定期的に掃除をしてください。

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バスオールの思い出

要員住宅の405号室には、府営新千里東住宅にお住まいのIさんに来ていただき、ツアー参加者にバスオールや新千里東町での暮らしなどについて話をしていただきました。

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話をしてくださったIさんは、新千里東町の入居が始まった昭和41年(1966年)から府営新千里東住宅にお住まい。
Iさんは、入居後しばらく要員住宅の存在を知らなかったとのこと。子どもが幼稚園に行き始め、地域の人と話をするようになった。ある人に「どこに住んでるんですか?」と尋ねると「要員住宅です」という返事。「それどこにあるの?」と尋ねると「学校の前にある」と言われて初めて要員住宅のことを知ったということです。

要員住宅と同様、府営新千里東住宅にも最初はお風呂がなく、Iさんもバスオールを使われていました。
昭和41年(1966年)に入居した時の府営新千里東住宅の家賃は5,800円。入居から10年くらい経ってバスオール(※吹田市立博物館に展示されている初期のタイプの)を購入されましたが、10万円くらいしたそうです。「飲まず食わずでお給料の3~4ヶ月分ぐらいだったんじゃないかな」。このようなバスールは一括では買えないので、みな1年か2年かけて払っていたようです。代金は、ガス代の集金の時に、一緒に支払っていたとのこと。

ツアーに参加されたある方からは、バスオールは高価だったので、使わなくなったものをもらった人もいたという話を伺いました。当時、バスオールはそれほど高価なものでした。けれども、夜遅く働いている人、夜遅くまで麻雀してる人はお風呂屋さんが閉まってしまうので、バスオールは有り難かった、とIさん。

Iさんからは、次のような話も伺いました。

「私の家にあったバスオールは卵形をしていた。壁が薄かったから、中に入ると向かいの棟からシルエットが見えてしまう。ベランダが落ちるという話もあって、ベランダには置くことができず、みな家の中に置いていた。」

「この部屋はベランダに湯沸器を付けてもらってるけど、私のとこはキッチンの湯沸器から工事をして湯を引っ張っていた。だからバスオールを使ってる時は、キッチンでお湯が使えなかった。」

「バスオールは追い炊きができないので、入る時はみな一斉に〔間をおかず順番に〕入らなければならなかった。」

「ベランダは雨水を排水するものだからと言われて、キッチンの排水溝の蓋を開けて水を流してた。でも、みんな大概ベランダに流してた。」

「子どもが排水のパイプに足を引っ掛けたら、パイプが外れてしまう。水が溢れたら、すぐ下の部屋だけでなく、ずっと下の方まで水が流れてしまった。だから、お風呂使う時はみんな気をつかってた。」

Iさんは、「ここを開けて排水して」、「ここの湯沸器からお湯を引っ張って」などと指差しながら、バスオールの使い方を説明してくださいました。


南千里の情報館(千里ニュータウン情報館)にもバスオールが展示されてるけど、「実地」で置かれてるのはもうここだけというIさんの言葉の通り、バスオールを単体の物として取り出して展示するのではなく、実際に利用されていた位置で、キッチンやベランダとの位置関係も含めて、言わば、生活の場所における使われ方を紹介できたこと。これが、この日のツアーの大きな意義であり、「実地」に置かれた物が持つ力を感じさせられました。

無理なお願いにも関わらず、私が使ってたより立派なバスオールで、「こんな立派なんを説明できんのはちょっとうれしいかな」とまで話してくださったIさんには感謝しています。

(更新:2022年4月19日)