『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

“お客さん”としての参加を越えて(未来を拓く 居場所ハウス)

*『シルバー新報』に掲載された「未来を拓く 居場所ハウス」(全5回)の第1回目の記事をもとに、一部加筆したものです。
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“お客さん”としての参加を越えて−試行錯誤も許容し合う−

< 2013年6月13、岩手県大船渡市末崎町(まっさきちょう)に東日本大震災からの復興の拠点として「ハネウェル居場所ハウス」(以下、居場所ハウス)がオープンした。
「居場所ハウス」のアイディアは、米国ワシントンDCの非営利組織「Ibasho」が提唱する8つの理念がもとになっている※。その理念の1つとして「地域の人たちがオーナーになること」があげられている。「居場所ハウス」は高齢者を中心とする地域の人々が、お客さんではなく、良いことも悪いことも引き受けながら場所を作りあげ、それを通じて地域をより良くしていく当事者になるために開かれた場所である。

地域活動に参加したいという高齢者は多い。内閣府が平成25年度に実施した「高齢者の地域社会への参加に関する調査結果」によると、回答者の約7割が何らかの社会参加活動に参加したいと回答している。「居場所ハウス」の活動にも多くの高齢者が参加している。ただし、「居場所ハウス」への参加は、既存の活動にお客さんとして参加するというものではない。

ここで「居場所ハウス」のオープンの経緯と運営内容を紹介したい。「居場所ハウス」の建物は、米国ハネウェル社の社会貢献活動部門「ハネウェル・ホームタウン・ソリューションズ」の基金からの寄付を受け、陸前高田市気仙町の古民家を移築・再生したものである。オープンまでに米国の「Ibasho」、「オペレーションUSA」と、社会福祉法人典人会、有限会社伊東組、北海道大学建築計画学研究室、内閣府「SEEDx地域未来塾」など国内外から多くの協力を受け、オープン後は地域の高齢者を中心メンバーとするNPO法人「居場所」創造プロジェクトが運営を担っている。

「居場所ハウス」は10時から16時まで(木曜日のみ定休)のカフェ的なスペースの運営を基本としており、昨年のオープンから1年間に約5,500人が訪れた。「居場所ハウス」が踊り教室、生け花教室などの教室を主催したり、地域の人々が会議や同級会を開いたり、カラオケや大正琴の練習をしたり、近くにある末崎地区サポートセンターが健康クラブを行ったりすることもある。ただし、地域の人々はこれらの教室やイベントに参加するだけでなく、様々なかたちで運営に関わっている。

その1つが運営のための定例会である。オープン直後の2013年6月29日から毎月1回、欠かさずに開かれている会議で、毎回10名ほどが参加している。定例会では運営で生じた課題や環境整備、備品の購入について情報共有、意見交換したり、これから実施するイベントに向けた打合せなどを行っている。

定例会以外にも仕事の経験を活かして、花・植木に水や肥料をやったり、収納や本棚などの大工仕事をしてくださる方。手作りのお菓子や漬物、畑でとれた野菜、養殖したワカメや貝を差し入れたり、薪ストーブ用の薪を持って来てくださる方。薪ストーブに火をつけたり、毎日夕方に戸締りの確認をしたり、食材や備品の買い出しをしたり、事務や会計をしたりなど、裏方の仕事をしてくださる方。あるいは、イベントのチラシを配布したり、有益な様々な情報を教えてくださったり、花を生けたり、楽しいおしゃべりで場を和ませてくださったりと、ここには到底書き切れない多くの人々の関わりによって運営が成立している。
もしも、限られた人や専門家がサービスを一方的に提供する場所であれば、こうした多様な関わりは行われなかった可能性がある。多様な関わりがなされていることが、地域で運営していくという雰囲気が生まれていることの表れだと言ってよいだろう。

もちろん、限られた人や専門家が運営するのに比べれば、スムーズな運営ではないかもしれない。実際、様々な課題もあるし、時には意見が対立することもある。例えば、運営体制について言えば、以前は毎日ボランティアスタッフ1~2人が交替して運営を担当していたが、上手くいかなかったこともあり現在は月・火・金曜日はパートスタッフ、水・土・日曜日はボランティアスタッフが運営を担当している(このうち、日曜日は男性を中心として、1~2人が週替りで運営を担当している)。このように、ポジティブな意味で、地域には「居場所ハウス」の運営において試行錯誤する自由が許容されていると言える。

「居場所ハウス」において、地域の人々は、何かしてもらうことを期待し、期待が満たされなければ苦情を言うだけのお客さんではない。得意なこと、好きなこと、できることを通して運営に協力したり、議論し合って試行錯誤したりしながら、共に場所を作りあげ、さらには地域をより良いものに変えていける当事者なのである。


[注]
※「Ibahso」の理念はこちらを参照。

130907-111357

カフェ的なスペースでは訪れた人々が思い思いに過ごす

140530-141618

毎月欠かさず開催されている運営のための定例会