『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

「地域を作り上げる」誰もが当事者(未来を拓く 居場所ハウス)

*『シルバー新報』という新聞に掲載された「未来を拓く 居場所ハウス」(全5回)の第4回目の記事をもとに、一部加筆したものです。
PDFファイルはこちら

「地域を作り上げる」誰もが当事者−試行錯誤から広がる関係−

「居場所ハウス」は国内外の団体からの協力を受けてプロジェクトが進められたが、建物を建てて終わるのではなく、少しでも地域に根差した場所となるよう、オープンの1年以上前から時間をかけ、地域の人々を交えたワークショップが行われてきた。

□2012年

  • 5月14日:ワークショップ(居場所カフェの理念・イメージを共有する)
  • 5月16日:ワークショップ(メニューを考える)
  • 7月11日:ワークショップ(運営・建物を考える)
  • 10月24日:地鎮祭
  • 10月25日:ワークショップ(運営・建物を考える)
  • 12月7日:ワークショップ(運営に関して自分にできることを見つける)

□2013年

  • 3月8日:NPO法人「居場所」創造プロジェクト設立
  • 5月8日:ワークショップ(運営に関して自分にできることを見つける)
  • 6月13日:「居場所ハウス」オープン

ワークショップ以外にも、運営の中心となるメンバーによって運営方法や建物の設計、備品などについてのミーティングも重ねられてきた。しかし当然のことながら、地域の全住民がワークショップやミーティングに参加するわけではなく、運営が始まればワークショップやミーティングに参加したことがない人が次々にやって来る。そのため、新たな人々が入り込む余地が残されている必要がある。また、運営が始まれば必要な備品が出てきたり、「この部分をこうしたい」という意見も出てくる。そのため、備品を徐々に揃えたり、空間に手を加えたりできることも大切である。

「居場所ハウス」は米国ハネウェル社の社会貢献活動部門「ハネウェル・ホームタウン・ソリューションズ」の基金からの寄付を受けて建設された。寄付金の一部は、オープニングまでに使い切るのではなく、運営が始まってから必要な備品を揃えることができるようにと、運営協力金として確保していただいた。実際、運営が始まると必要な備品がいくつも出てきたため、運営のための定例会などで意見交換しながら、必要な備品を揃えていった。また、なるべく既成の商品を買うのではなく、材料を買い手作りで場所を作っていって欲しいという考えから、本棚、キッチン奥の倉庫の棚、2階(物置)への梯子などは材料を購入し、現役時代に建築関係の仕事についていた方が手作りで作ってくださった。
運営協力金を使う以外にも、板の間だった部分に畳を敷いたり、勝手口を取り付けたりと空間に手を加えている。敷地についても必要に応じて手を加えるという考えから、最初は舗装していなかった。そして、運営が始まってから花壇を作ったり、畑を作ったり、駐車場を作ったりと環境の整備を行っている。
このように「居場所ハウス」では徐々に備品を揃えたり、建物内外の環境整備を行っているが、どのような備品を購入するか、どのように環境を整備するかを議論すること自体が、地域の人々にとってのコミュニケーションのきっかけになっている。

備品の購入や環境整備といったハード面だけでなく、今後どのように運営していくかについても議論を重ねている。現在、「居場所ハウス」は補助金を受けて運営している。しかし今後の運営については、大きな備品を買ったりイベントをしたりする時には補助金を使うことがあっても、日々の運営まで補助金に頼るのは好ましくないということで、スタッフの意見は一致している。その具体的な方法を見つけていくことが今後の大きな課題だが、運営のあり方については次のような2つの案が出されている。
「居場所ハウス」は大船渡市末崎町の中でも、保育園、小学校、中学校などが集まる中央地区に位置し、周辺の高台移転が完了すれば人口が増える。しかし、周辺には食事ができる店がほとんどない。そこで、一人暮らしの高齢者を支援するという意味でも、「居場所ハウス」で昼食を提供できないかというのが、1つ目の提案である。また、末崎町はワカメ養殖発祥の地であり、ワカメをはじめとする豊かな海の幸がある。農業をしている人、郷土食を作るのが得意な人、手芸が得意な人もいる。「居場所ハウス」でこれらを扱う産地直売のマーケットを開催することで、お金がまわる仕組みが作れないか。それによって地域に特産品を定着させることにつながれば、高齢化の歯止めにもなるのではないかというのが、2つ目の提案である。
これらはまだ提案の段階であり、実現するためにはクリアすべき課題も多いが、課題をクリアするために議論することがコミュニケーションであり、「そのことなら、あの人に聞いてみよう」「あの人に頼んでみよう」というように、知人へ、そのまた知人へと話をすることが、「居場所ハウス」をきっかけとする広がりのある関係を築いていくことにもつながっている。

「居場所ハウス」では試行錯誤しながら、徐々に場所を作りあげている。ただし、地域の全住民がワークショップやミーティングに参加するわけではない、オープンするまでどのような備品が必要になるかわからないという消極的な理由だけで、こうした試行錯誤が求められるわけではない。完成された場所のお客さんでなく、場所を作りあげ、より良い地域を作っていくための当事者であるためには、試行錯誤というプロセスを経ることが不可欠なのである。2年目の運営がスタートした「居場所ハウス」はまだ運営の方向性について試行錯誤しているが、様々な可能性があるから試行錯誤できるのだと積極的に捉えて、これからも徐々に場所を作っていきたい。


131108-115231

現役時代、建築関係の仕事に携わっていた方による手作りの本棚

140712-141325

敷地内の畑で野菜を収穫