『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

ネパール・マタティルタ村におけるIbashoの拠点についてのワークショップ②

2017年3月17日(金)、マタティルタ(Matatirtha)村を再び訪れ、村の方々とのワークショップを行いました。この日のワークショップの目的は、3月14日(月)、15日(火)の2日間のワークショップで村の方々から出された意見に対して、Ibasho/Ibasho Japan、コーディネーターの「Bihani」、建築家、建築を教える大学教員のメンバーで議論した内容を伝えることで、Ibashoの拠点となる建物についての考え方を変えてもらうこと。

先日ご紹介したように、メンバーでは拠点となる建物のコンセプトを次のように整理しました。

  1. Ibashoのエコシステムを生み出す
  2. 建物を建設することで広場を活かす
  3. 家具を上手く使って多用途に使える空間とする
  4. 村の人々が自分たちで建築する・増築する

この日も、拠点となる建物を建てる敷地でワークショップを開催。参加者は男性約10人、女性約15人、子ども8人。

最初に、新たに建てる拠点の建物と、村の既存の場所とのつながりを見つけるため、村の地図を描いてもらいました。地図に描いてもらったのは、3月14日(月)のワークショップで出されたミーティング、音楽やダンスの練習、レストラン、インターネット、図書室、クラフト作り、遊び場、映画を見る、オフィスなどを行っている場所です。
前に出て場所を地図上に描く人、後ろから場所の方向を教える人など、地図を描くことは思ってた以上に盛り上がりました。描かれた地図は正確な地図ではありませんが、かえって、村の方々がどのような場所を重要視しているかが伝わってくる地図となりました。

ネパールでは、木の下に人々が座って話をしている光景を見かけます。木の下など、人々が集まるオープンな場所を「チャウタリ」(Chautari)と呼ぶようで、地図にも「チャウタリ」として2つの木が描かれました。

次に新たに建てる建物の模型を見せました。最初に、既存の建物を置いた模型を見せた後、既存の建物を取り除き、新たに建てる1階部分の建物を置きます。さらに、後からこのように増築してもよいということで、増築部分の模型を置きました。
模型を見た人からは、2階部分も広場に面して置いた方がいいという意見や、キッチンの場所についての意見が出されました。

上に書いた通り、この日のワークショップの目的は、建物のコンセプトを伝えることで、建物についての考え方を変えてもらうことです。しばらく時間をかけて村の中で議論してもらえるよう、模型は村に預けて帰ってきました。
この後は村の方々の意見をふまえながら、村の人々自身が建物を建てることができるようにプロジェクトを進めることになります。このプロセスは、村の人々自身が建物を建てる際、専門家はどのような役割を果たせるのかを見出すプロセスでもあります。なお建物の検討と同時に、農園での野菜作り、クラフト作りは並行して行う予定であり、また、村におけるIbashoプロジェクトの主体として協働組合の設立の準備も進めていきます。

Ibashoプロジェクトからは話はそれてしまいますが、ワークショップに参加していた子どもの何人かは、模型を見て建築家になりたいと話してくれました。この日のワークショップは、子どもたちに大人の仕事の世界を垣間見てもらうための機会にもなったのかなと思います。


日本では建築は専門家が作るというのが暗黙の前提とされているように思います。だから、もしこのプロジェクトが日本で行われていたら、専門家はワークショップで出された村の方々の意見を上手くまとめて、自分で設計するという役割を疑うことはなかったかもしれません。けれども、マタティルタ村でのプロジェクトはそうではない。
しかし考えてみれば、衣食住という生活を支える最も大切なものの1つである「住」を地域の人的・物的リソースを用いて確保することは暮らしの基本ではないかと思わされます。日本にいるとついつい当たり前のことだとやり過ごしてしまう様々なことを、ネパールからは教えられます。