2000年頃から、日本では「まちの居場所」(コミュニティ・カフェ、地域の茶の間、まちの縁側などと呼ばれることもある)が同時多発的に開かれています。
「まちの居場所」は、あらかじめ予定を立ててから、何らかの目的に参加する公民館や集会所と違い、気が向いた時にふらっと立ち寄れる場所という特徴があります。気が向いた時にふらっと立ち寄れる場所を実現するために運営日を多くしたり、運営時間を長くしたり、コーヒーや食事を提供したり、本を置いたり、家具のレイアウトを工夫したり、スタッフと来訪者との関係を緩やかなものにしたりなど、様々な配慮がなされています。
こうした「まちの居場所」に対して、様々な配慮がされたとしても、スタッフ・来訪者が固定化して、常連ばかりが集まり入りにくいという指摘が度々なされます。この指摘はある意味では正しいと思いますが、それでは常連を作らないようにすればよいか? というと、話はそう簡単ではありません。
目次
サードプレイスにおける常連
「まちの居場所」を捉える上で重要なキーワードに、レイ・オルデンバーグのサードプレイスがあります。サードプレイスとは、サードプレイスとは、「インフォーマルな公共の集いの場」であり、「第一の家、第二の職場」に続く「第三の場所」。
レイ・オルデンバーグはサードプレイスの特徴を次のように描いていますが、これは「まちの居場所」にもあてはまります。
「サードプレイスは中立の領域に存在し、訪れる客たちの差別をなくして社会的平等の状態にする役目を果たす。こうした場所のなかでは、会話がおもな活動であるとともに、人柄や個性を披露し理解するための重要な手段となる。サードプレイスはあって当たり前のものと思われていて、その大半は目立たない。人はそれぞれ社会の公式な機関で多大な時間を費やさなければならないので、サードプレイスは通常、就業時間外にも営業している。サードプレイスの個性は、とりわけ常連客によって決まり、遊び心に満ちた雰囲気を特徴とする。他の領域で人びとが大真面目に関わっているのとは対照的だ。家とは根本的に違うたぐいの環境とはいえ、サードプレイスは、精神的な心地よさと支えを与える点が、良い家庭に酷似している。
以上が、万国共通の、活気あるインフォーマルな公共生活に不可欠と思われるサードプレイスの特徴だ。」
*レイ・オルデンバーグ(忠平美幸訳)『サードプレイス:コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書房 2013年
ここで注目すべきは、「サードプレイスの個性は、とりわけ常連客によって決ま」ると述べられていること。レイ・オルデンバーグは常連について次のようにも述べています。
「サードプレイスの魅力は、座席の数や、出される飲み物の種類の多さ、駐車場が使えるかどうか、値段といった特徴にあまり左右されない。固定客をサードプレイスに引き寄せるものは、店側が提供するのではなく、客仲間が提供する。サードプレイスは、しかるべき人びとがそこにいて活気づけてこその空間であり、その「しかるべき人びと」とは常連である。常連は、その場所に特色を与え、いつ訪れても誰かしら仲間がいることを確約してくれる。
サードプレイスは常連に支配されているが、かならずしも数の上でというわけではない。常連は、いついかなるときも人数に関係なく、その場所を熟知していて、にぎやかな雰囲気を作ってくれる。常連の気配と物腰が、人から人へと伝わり広がる交流のスタイルを提供するから、常連が新顔を受け入れることはとても重要だ。店主が歓迎することは、重要とはいえ大した問題ではない。バーカウンターのこちら側での歓迎と受容こそが、新参者をサードプレイスの交友の世界へといざなうのである。」「常連といえども昔はみな新参者だったのであり、新参者の受け入れは、サードプレイスの活力を維持するうえで欠かせない。」
*レイ・オルデンバーグ(忠平美幸訳)『サードプレイス:コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書房 2013年
セミパブリックな場所における内部の人々
「まちの居場所」における常連の存在を考える上でもう1つ重要なのは、劇作家・平田オリザによる「セミパブリックな空間」。平田オリザは『演劇入門』(講談社現代新書 1998年)において、空間を、
- 家の茶の間のような「プライベートな空間」
- 「セミパブリックな空間」
- 道路や広場といった「パブリックな空間」
の3つに分類しています。重要なのは「パブリックな空間」では「ただ人々はその場所を通り過ぎるだけだから、会話自体が成り立ちにくくなる」という指摘。そこで、平田オリザは「セミパブリックな空間」、つまり、「物語を構成する主要な一群、例えば家族というような核になる一群がそこにいて、そのいわば「内部」の人々に対して、「外部」の人々が出入り自由であるということが前提になる」場所を演劇に舞台に選ぶとしています。
これを参考にすれば、「パブリックな空間」には誰もが同じ立場で関われるが、つまり、常連は存在しないが、それゆえ会話自体が成り立ちにくいということになるのかもしれません。だから、人々の関わりを生み出すためには常連が「内部」の人々になるような「セミパブリックな場所」。
これは、「新参者をサードプレイスの交友の世界へといざなう」のは「バーカウンターのこちら側での歓迎と受容」、つまり、常連であるというレイ・オルデンバーグの指摘に通じています。
自分と反りが合わない人々との関わり
大切なのは「まちの居場所」から常連を排することではなく、常連が「まちの居場所」に新たにやって来る人々を受け入れる媒介者としての役割を担うこと。
これを考える上で、レイ・オルデンバーグの次の指摘が注目されます。
「部外者はしばしば、サードプレイスの常連たちを「みな同じような考えかたをする」というふうに見たがるが、それは違う。サードプレイスの集団の「一員」になれるか否かは、ある特定の主題に「何の関心もない」人びと——つまり自分と反りが合わない人びと——と折り合いをつけられるかどうかにかかっている。また、その集団の一員であれば、ときに自分の持論が仲間うちに受けないこともある。彼らは同意しない。イデオロギーや「政治的公正」や弱い者いじめの上に成り立つ例の連合とちがって、サードプレイスの集まりでは、誰かの考えに「無理やりつきあわされる」ことはない。その輪に入れてもらえるかどうかは、本人の性格と、座を盛り上げる力しだいだ——ただし、特定の考えにこだわらない。」
*レイ・オルデンバーグ(忠平美幸訳)『サードプレイス:コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書房 2013年
「自分と反りが合わない人びと——と折り合いをつけられるかどうかにかかっている」。「まちの居場所」だけでなく、コミュニティに関わる活動においては、つながり、絆といった言葉が好んで用いられるように親密であること、仲良くすることが美化される傾向にあります。けれども、親密さ、仲の良さを強調するだけでは、常連が媒介者としての役割を担うことはできない。
以前、「まちの居場所」とは「他者を親密さの次元だけで評価しないことを学ぶ場所」であると書いたことがありますが、「まちの居場所」の常連をめぐる課題を考える上では、その関係を親密さや、仲の良さといった次元で捉えないことがヒントになるのではないかと思います。
居場所ハウスの来訪者の特徴
「まちの居場所」の常連について、こでは大船渡市末崎町の「居場所ハウス」を具体例として取り上げて考えたいと思います。
「居場所ハウス」では2013年6月のオープン以来、ゲストブックによって来訪者をカウントしています。オープンの2013年6月から2017年12月末までのゲストブックにおいて、来訪者が記入されたとみなせる25,606件のうち、個人が特定できるのが23,401件で約91%。以下ではこの延べ来訪者23,401人を対象とします。
延べ来訪者23,401人のうち、重複を除いた「来訪者」(以下、延べ来訪者(数)と区別するため、重複を除いた来訪者(数)を「来訪者(数)」と表記)は2,727人。つまり、2013年6月から2017年12月末までの期間に「居場所ハウス」には2,727人が来訪したことになります。
延べ来訪者数と「来訪者数」の推移
延べ来訪者数と「来訪者数」の推移のグラフからは、次のような特徴がみられます。
- 各月ごとの「来訪者」の合計は、オープン当初は1月に合計200~250人が訪問していた。2014年3月には300人近くが訪問している。
- 2015年頃からは延べ来訪者数が徐々に増加していく一方、「来訪者」の合計は大きな変化は見られず150人前後を推移。
- 各月ごとの延べ来訪者数と「来訪者数」の割合、つまり、1人の「来訪者」が1月に平均何回来訪しているかの推移は、オープン当初は2回程度であったのが徐々に増加しており、最近では4~5回の間を推移している
これらのことから、オープン当初は延べ来訪者数は少なかったものの多くの「来訪者」が訪れていたのに対して、2015年頃からは延べ来訪者数は増加したが「来訪者数」は増加していないこと、つまりオープン当初に比べると「来訪者数」は減少したが、1人の「来訪者」が何度も来訪するようになったという傾向がみられます。
「来訪者」ごとの来訪回数
2,727人の来訪回数については、次のような特徴がみられます。
- 来訪回数が3回以下の人で「来訪者」の80%を、来訪回数が7回以下の人で「来訪者」の90%、来訪回数が17回以下の人で「来訪者」の95%を占める。
- 1回だけ来訪した人が1,813人で約66%。
- 来訪回数が1,000回を超える人もいる。来訪回数が最も多い人が1,102回、次に多い人が1,069回でありいずれもコアメンバーの男性。
コアメンバー、定期的に訪問する人、定期的に訪問しない人
ここで、来訪者を次の3つに分類します。
- ①コアメンバー(40人):パート、ボランティアとして「居場所ハウス」の日々の運営に関わる人。
- ②50回以上訪問した人(36人):2013年6月から2017年12月末までの55ヶ月の間に50回以上来訪した人。2013年6月から2017年12月末まで定期的に来訪している人ばかりでないが、50回の来訪とはおよそ月に1回程度の割合で来訪している目安。
- ③49回以下しか訪問していない人(2,651人):2013年6月から2017年12月末までの55ヶ月の間に49回以下しか来訪していない人。
人数にすれば圧倒的に「③49回以下しか訪問していない人」が多いですが、延べ来訪者数に対する割合のグラフからは、次のような特徴を見ることができます。
- オープン当初、「①コアメンバー」は2~3割であったが、2013年後半には約4割となっている。
- 2016年1月には「①コアメンバー」の来訪回数が6割を超えるなど、コアメンバーの来訪回数はさらに増えており、それ以降、5~6割の間を推移している。
- 「②50回以上訪問した人」の割合は、オープン当初は約1わりだったが、2013年後半以降は約2割とほぼ一定している。
- 「③49回以下しか訪問していない人」はオープン当初は6割を超えていたが、最近では2~3割となっている。
ここで、「①コアメンバー」、「②50回以上訪問した人」を、仮に「居場所ハウス」における常連、あるいは、「内部」の人々だと見なせば、次のような点を指摘することができます。
- 「①コアメンバー」、「②50回以上訪問した人」に比べると、「③49回以下しか訪問していない人」の人数が圧倒的に多い。
- 延べ来訪者数に対する「①コアメンバー」、「②50回以上訪問した人」の割合は、オープン当初は小さかったが、次第に増加している。
- 「③49回以下しか訪問していない人」は最近でも約2割と一定数存在している。
以上の結果からは、「①コアメンバー」、「②50回以上訪問した人」は少人数でありながら、来訪回数は非常に多いと言えます。ただし、「③49回以下しか訪問していない人」の来訪も一定数あることからは、「居場所ハウス」は「①コアメンバー」、「②50回以上訪問した人」という常連、あるいは、「内部」の人々だけが来訪する場所ではないこともわかります。
*参考
- レイ・オルデンバーグ(忠平美幸訳)『サードプレイス:コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書房 2013年
- 平田オリザ『演劇入門』講談社現代新書 1998年
- 田中康裕『岩手県大船渡市「居場所ハウス」の歩み:プロダクティブ・エイジング実現に向けた先駆的取り組みの考察』長寿社会開発センター・国際長寿センター 2018年3月