『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

岩手県大船渡市「居場所ハウス」の歩み

大船渡市末崎町の「居場所ハウス」は間もなくオープンから5年を迎えます。
「居場所ハウス」がオープンする少し前から大船渡で生活し、運営のお手伝い続けてきましたが、この度、国際長寿センター日本(ILC Japan)からの受託として実施した研究のレポート『岩手県大船渡市「居場所ハウス」の歩み:プロダクティブ・エイジング実現に向けた先駆的取り組みの考察』が完成しましたのでご紹介させていただきます。

このレポートが「居場所ハウス」のこれまでの歩みを伝えるとともに、プロダクティブ・エイジング、まちの居場所等について議論するための1つのきっかけになればと考えています。

PDFファイルはこちらからダウンロードいただけます。

田中康裕『岩手県大船渡市「居場所ハウス」の歩み:プロダクティブ・エイジング実現に向けた先駆的取り組みの考察』長寿社会開発センター・国際長寿センター 2018年3月

目次

刊行にあたって

第1章. はじめに:背景と目的

1-1. 居場所ハウス:被災地に開かれたまちの居場所
1-2. 居場所ハウスが目指すこと
1-3. 居場所という言葉
1-4. まちの居場所への注目
1-5. まちの居場所の特徴
1-6. 本レポートの目的

第2章. 大船渡市末崎町

2-1. 末崎町の概要
2-2. 人口・世帯数の推移 2-3. 末崎町の特徴
2-4. 仮設住宅・高台移転
2-5. 行政区の変化
2-5. 居場所ハウス周辺

第3章. オープンの経緯

3-1. プロジェクトの始まり
3-2. ワークショップ・会議
3-3. 建物の建設
3-4. 本章のまとめ・考察

第4章. 運営体制

4-1. 役員
4-2. 日々の運営当番
4-3. 定例会
4-4. 運営の方向性と収益
4-5. 本章のまとめ・考察

第5章. 空間

5-1. 建物に手を加える行為
5-2. 敷地内に手を加える行為
5-3. 食堂の建設
5-4. 敷地外に手を加える行為
5-5. 本章のまとめ・考察

第6章. 来訪者・コアメンバー

6-1. 居場所ハウスへの関わり
6-2. 来訪者・食堂利用者の推移
6-3. 来訪者の属性
6-4.来訪者の属性の推移 6-5. コアメンバーの来訪状況 6-6. 本章のまとめ・考察

第7章. グループ活動・イベント

7-1. グループ活動・イベントの概要
7-2. グループ活動・イベントの種類
7-3. グループ活動・イベントの変化
7-4. 本章のまとめ・考察

第8章. まとめ・考察

8-1. 居場所ハウスの変化
8-2. 居場所ハウスが実現していること


参考文献・資料

資料編

1. 居場所ハウス略年表
2. NPO法人・居場所創造プロジェクト定款
3. グループ活動・イベント一覧
4. アンケート調査の概要
謝辞

本レポートの目的

「まちの居場所」は2000年頃から草の根の活動として同時多発的に開かれ始めた。近年になると介護予防、生活支援、孤立防止などの効果があることが広く認識され、制度に取り入れられるなど、「まちの居場所」にはますます注目が集まっている。当初、「学校の外」として開かれた子どもの居場所が、行政によっても設置されるようになったのと同じ動きが見られる。
ここから言えるのは、居場所とは既存の制度・施設の枠組みからもれ落ちたものをすくいあげようとする動きにおけるキーワードになっているということである。こうした動きの意味が広く認識され、制度に取り入れられるようになるのは、当初、居場所という言葉ですくいあげようとされたものの価値が的確だったからである。
「まちの居場所」についてのこうした状況をふまえた上で、「居場所ハウス」を対象とする本レポートでは次の2点を明らかにすることを目的とする。

1点目は、「まちの居場所」は実際にどのように運営されているかを明らかにすることである。「まちの居場所」は確かに介護予防、生活支援、孤立防止などの効果があり、普及のため行政による後押しも行われている。「まちの居場所」を開くための情報も共有されつつある。けれども、一旦開かれた後の「まちの居場所」が実際にどのように運営されているかという長期的な観点にたった情報は十分ではない。これは断片的な調査では捉えることが難しいことである。
本レポートは継続的なフィールドワークに基づき、「居場所ハウス」が年月の経過に伴いどのように変化してきたかを明らかにする。

筆者は「居場所ハウス」がオープンする数ヶ月前の2013年3月末に初めて大船渡市末崎町を訪問し、2013年5月から大船渡市内に、2013年9月から末崎町に住み、「居場所ハウス」の日々の運営に携わりながらフィールドワークを続けてきた。本レポートは、筆者のフィールドワークに基づくものである。

筆者は2年前にも「居場所ハウス」に関するレポートを執筆している(田中, 2016)。当時、末崎町にはまだ仮設住宅で暮らす人も多く、高台移転が進行中であった。それから2年が経過し、末崎町の高台移転はほぼ完了した。「居場所ハウス」の変化は、末崎町の復興プロセスと切り離すことはできない。「居場所ハウス」は末崎町の変化による影響をどのように受けているのか、被災地の復興のプロセスにおいてどのような役割を担うようになったのか。本レポートには、2年前に執筆したレポートのその後を追う狙いもある。

2点目は、「まちの居場所」は何を実現できるのかを明らかにすることである。繰り返し述べるように「まちの居場所」は確かに介護予防、生活支援、孤立防止などの様々な課題解決のために有用である。けれども「まちの居場所」がもつ可能性は、これらの課題を解決できるだけにとどまらない。

「まちの居場所」はプロダクティブ・エイジングの「高齢者を社会の弱者や差別の対象としてとらえるのではなく、すべての人が老いてこそますます社会にとって必要な存在としてあり続ける」という理念を具現化するものであり、この理念の具現化がもたらす効果の1つとして、上にあげた様々な課題が解決されるのである。それでは、「まちの居場所」はプロダクティブ・エイジングの理念をどのようなかたちで具現化し得るのか。本レポートでは「居場所ハウス」を通してこのことを明らかにする。