国際長寿センター日本(ILC Japan)からの受託として実施した研究レポート「「まちの居場所」の継承にむけて」が完成しましたのでご紹介いたします。
PDFファイルはこちらこちらからダウンロードいただけます。
「まちの居場所」は2000年頃から各地に開かれてきました。先駆的な「まちの居場所」が開かれて既に10〜15年が経過した今、「まちの居場所」は社会にどのような価値を投げかけてきたのか、それはどのように継承し得るのか? について考察したものです。
また、「まちの居場所」が制度化というプロセスを経て広がるのではなく、現場から現場へという形で同時多発的に広がっているという状況において、専門家・研究者はどのような役割を担い得るのか? についても考察しています。
対象としているのは、オープンから運営のお手伝いをしている大船渡市末崎町の「居場所ハウス」(2013年〜)と、学生の頃からお世話になっている東京都江戸川区の「親と子の談話室・とぽす」(1987年〜)、千里ニュータウンの「ひがしまち街角広場」(2001年〜)、そして、新潟市の地域包括ケア推進モデルハウスとして開かれた「実家の茶の間・紫竹」(2014年〜)の4つの場所です。
よろしければご覧ください。
目次
田中康裕『「まちの居場所」の継承にむけて』長寿社会開発センター・国際長寿センター 2017年3月
目次
刊行にあたって(p3)
第1章.はじめに:背景と目的(p7)
1-1.「まちの居場所」をめぐる状況
1-2.対象とする4つの「まちの居場所」
1-3.対象とする「まちの居場所」の位置づけ
1-4.「まちの居場所」の継承
第2章.居場所について(p17)
2-1.居場所という言葉
2-2.居場所という言葉の意味
2-3.まちの居場所の可能性
第3章.親と子の談話室・とぽす(p21)
第4章.ひがしまち街角広場(p35)
第5章.居場所ハウス(p55)
第6章.実家の茶の間・紫竹(p77)
第7章.「まちの居場所」の運営の継続(p87)
7-1.人の確保
7-2.ものの確保
7-3.お金の確保
7-4.内部の人に対して外部の人が出入り自由であること(セミパブリックな空間)
7-5.ありあわせのものを活用すること(ブリコラージュ)
7-6.主客の関係の入れ替わりを大切にすること(ホスピタリティ)
第8章.「まちの居場所」の価値(p99)
8-1.社会的弱者ではなく、尊厳をもった個人として居られること
8-2.プログラムへの参加ではなく、場所に居ること
8-3.完成されたものの利用ではなく、自分たちで徐々に作りあげていけること
8-4.既存の枠組内での連携ではなく、まちを再構築すること
第9章.「まちの居場所」の価値の継承(p111)
9-1.「まちの居場所」の価値と制度・施設化
9-2.理念の中身を事後的に豊かなものにし共有すること
あとがき:「まちの居場所」における専門家・研究者
注(p117)
参考文献・資料(p133)
まちの居場所」の継承
「まちの居場所」は、当初、草の根の活動として、地域の人々が中心となって開き、試行錯誤により運営されてきたが、近年は制度・施設の中に位置づけようとする動きもみられるようになった。このような「まちの居場所」をめぐる状況において、本レポートの目的は「まちの居場所」の継承について考察することである。特に次の2つの観点からの考察を行う。
運営の継続
1つ目は、各地に開かれている「まちの居場所」の運営をどう継続していくかである。これを本レポートでは「運営の継続」と呼ぶ。大分大学福祉科学研究センター(2011)*1)による全国166ヵ所のコミュニティ・カフェの調査で、採算が黒字の場所は約4%、収支がバランスしている場所は50%、赤字の場所は約44%であること、補助金を除けば約7割が赤字であることを明らかにしていように、運営資金が十分ではない中で、中心となる少数の人々によって、あるいは、ボランティアによって支えられてきた「まちの居場所」も多い。
運営を継続するために必要なこととして一般的にあげられるのは人、もの(場所・物品等)、お金を確保することである。第7章では、本レポートで対象とする4つの場所で人・もの・お金がどのように確保されているかをみる。詳細は第7章に述べる通りだが、いずれの場所も試行錯誤によって人・もの・お金の確保がなされており、その方法に1つの正解は存在しないこと。また、確保の方法は地域の状況と不可分であることが明らかとなった。そのため、本レポートで対象とする4つの場所で行われていることは、他の「まちの居場所」にそのまま適用できるわけでもない。ただし、人・もの・お金を確保する方法の背後にある考え方にはいくつかの共通点もみられる。第7章ではこの点についても考察したい。
価値の継承
2つ目は、「まちの居場所」が実現しようとする価値を地域が、あるいは、次の世代がどうやって継承していくかである。本レポートではこれを「価値の継承」と呼ぶ。人・もの・お金が確保できたとしても、価値が継承されなくては何のために運営を継続するのかわからない。従って、価値の継承は運営の継続よりも根源的なところにあると言える。
何度か述べた通り「まちの居場所」は既存の制度・施設の枠組みからもれ落ちたものをすくいあげようとするものであった。草の根の活動として同時多発的に開かれてきた「まちの居場所」が制度・施設化される時、「まちの居場所」がもつ価値が損なわれる恐れはないかについては十分考慮すべき点である。これは制度・施設の枠組みの中にあることと、その枠組みからもれ落ちたものをすくいあげようとすることはどう両立し得るのかという容易に解決できない大きなテーマだが、このことを考えるためには「まちの居場所」で大切にされている価値は何か、その価値は制度・施設とどのような関係にあるかという点から考察を始めるしかないと考えている。そこで第8章では「まちの居場所」で大切にされている価値について、第9章ではその価値の継承のあり方について考察したい。
*1)大分大学福祉科学研究センター(2011)『コミュニティカフェの実態に関する調査結果[概要版]』大分大学福祉科学研究センター
(更新:2018年3月21日)