『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

フィリピン・タクロバンの台風被災者のための再定住プログラム

フィリピン、レイテ島のタクロバン(Tacloban)市は、2013年台風30号(台風ヨランダ)による大きな被害を受けました。被害を受け、沿岸地域が居住禁止区域(No Dwelling Zone:NDZ)と指定され、海から離れた土地への再定住(Relocation)プログラムが行われました。

2018年11月25日(日)、タクロバンを訪問した時、再定住プログラムとして開発された3つの住宅地を訪問する機会がありました。3つの住宅地は近い距離にあり、いずれもタクロバン中心部の北に位置しています。
タクロバン中心部からパン・フィリピン・ハイウェイ(Pan-Philippines Hwy)で北へ。パン・フィリピン・ハイウェイはフィリピンで最も長い橋、サン・ファニーコ橋(San Juanico Bridge)のを通り東へ向かいます。サン・ファニーコ橋の手前でパン・フィリピン・ハイウェイを降り、タクロバンシティ・ババトンゴン・ロード(Tacloban City-Babatngon Rd)を少し北に進んだところに、3つの住宅地はあります。

Ridge View Park

Ridge View Parkは、タクロバンシティ・ババトンゴン・ロード沿いにある集落を越えて、サトウキビ畑(?)を通ったところにあります。周囲はサトウキビ畑(?)に囲まれており、既存の集落とは離れた位置に建設されています。
写真のように建設されているのは連続住宅。ラウンドアバウトもあり、周囲にはプレハブの校舎もありました。玄関前を増築し、小売店(サリサリストア/Sari-Sari Store)を開いている住宅がいくつもあります。増築もコンクリートブロックを積んだ本格的なものもあります。また、道沿いに屋台を出している人も見かけました。

Greendale Residences 1/Guadalupe Heights 1

Greendale Residences 1は、Ridge View Parkの少し北にある住宅地。
タクロバンシティ・ババトンゴン・ロードからGreendale Residences 1へは直線の道路を通ってアクセス。直線の道路の周りに既存の集落はないため、住宅地のために新設された道路だと思います。このアクセスする道路にはトライシクル(Tricycle/三輪タクシー)が15~20台くらいとまっていました。同行してくださった方は、再定住プログラムの住宅地はタクロバンの中心部から離れているため、住民が中心部に行くためにトライシクルを利用する、この住宅地の住民の中にトライシクルの運転を仕事にしている人がいるのではないかと話されていました。後ほどGreendale Residences 1を歩いた時に、住戸の前にトライシクルが停まっているのを何台も見かけましたが、住民が運転手をするトライシクルだったように思います。

Greendale Residences 1の周囲もサトウキビ畑(?)であり、既存の集落とは離れた土地に開発されています。入口付近にGreendale Residences 1の看板。連続住宅が並んでいる光景は、先ほどのRidge View Parkと同じ。玄関前を増築して小売店(サリサリストア/Sari-Sari Store)を開いている住戸があるのも同じです。Greendale Residences 1には、次のように道路から両側の住戸にアクセスするように、玄関同士を向かい合わせて配置された住棟がありました。

住棟-(玄関)→道路←(玄関)-住棟・裏庭・住棟-(玄関)→道路←(玄関)-住棟

この場合、道路の反対側は建物の裏側が向かい合う裏庭になりますが、裏庭で鶏を飼育している住戸や、裏庭に壁を立ててプライベート化している住戸もありました。クリスマスツリーが飾られた広場もありました。

Greendale Residences 1を歩いていると、「Guadalupe Heights 1」と書かれた看板。2つの住宅地の敷地は連続しているようでした。


3つの住宅地はいずれも既存の集落から離れた土地に開発。周囲にはいくつかの再定住プログラムとして開発された住宅地がありますが、多くの住宅地が同じように既存の集落から離れた土地に開発されています。このことは航空写真で見るとよくわかります。

3つの住宅地を訪問して記憶に残っているのは、上にも書いた通り玄関前を増築して、小売店(サリサリストア/Sari-Sari Store)にしている住戸が多いこと。住民自身が空間に手を加えることで、住環境を作り変えており、結果として、住宅地として開発された場所に店の機能が追加されています。住宅地として開発された場所は、もはや住宅だけが並ぶ住宅地ではないということになります。
さらに、サリサリストアに座って話をしている人も見かけましたが、サリサリストアは買い物ができる場所であるだけでなく、通りに目を配ったり、地域の人々のコミュニケーションの機会を提供したりする役割も担っていると言えるかもしれません。

タクロバンの再定住プログラムにも立地のこと、建設スピードのこと、建物のスペックのこと、開発手法のこと、既存のコミュニティの継承のことなど多くの課題が指摘されており、それぞれ重要な課題です。
こうした課題があるのを前にして呑気なことを言っていると思われるかもしれませんが、住民自身が空間に手を加えることで住環境を作り変え、結果として住宅地に様々な機能が追加されるというのは、日本の住宅地に欠けていること。
住宅/住宅地とは完成した商品として購入するもの、余計な機能を排除した「閑静な」住宅地こそ好ましいといった住宅/住宅地に対する概念が覆されるような経験です。


  • 参考:National Housing Authority
    『Typhoona“Yolanda”Permanent Housing Program』 Housing and Urban Development Coordinating Councilm, 2015