『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

サンフランシスコのサンセット地区とモザイク階段のアート

サンセット地区(Sunset District)はサンフランシスコのダウンタウンからツイン・ピークス(Twin Peaks)を越えた西側にあります。20世紀前半に本格的に開発が始まったサンセット地区と、サンセット地区にあるモザイク階段のアートをご紹介します。

サンセット地区

サンセット地区の北にはゴールデンゲート・パーク(Golden Gate Park)、西には太平洋に面したOcean Beachがあります。南と東の境界は明確に定義されていないようですが、南はSloat BoulevardとSigmund Stern Grove付近まで、東はStanyan Street付近までとされており、面積は14.79㎢。

現在、サンセット地区には85,000人が住んでいますが、本格的な開発が始まったのは20世紀前半のことです。1906年のサンフランシスコ地震の後、砂丘の中にトラクト・ハウジング(Tract Housing)*1)、連続住宅(Raw House)が建設されるようになりました。ただし、1917年にツイン・ピークス・トンネルが建設されるまで、ここはまだ大規模な砂丘・海岸の灌木地帯で人はまばらに住むだけの、「Outside Lands」と認識されるようなエリアでした。
路面電車(MUNIメトロ)の開通もあり、1930年代になると郊外としての開発が進められます。1950年代、第二次世界大戦後のベビーブームが起こり、単世帯、複数世帯の住宅が建設。主にディベロッパーのHenry Doelgerによって開発されましたが、その開発はブロック全体に同じ一般的特徴を持つ住宅を建設し、スタッコ(化粧しっくい)によるファサード、左右逆のフロアプランのバリエーションによってそれぞれの住宅を区別するというものでした。多くの住宅は25フィート(7.6m)のロットに、隣の住宅との間に隙間をもうけず建設されたということです。その後、ディベロッパーのOliver Rousseauによる開発では、もう少し個性のある住宅が建設されました*2)。

サンセット地区は通りが東西・南北に格子状に走っており、長方形のブロックには規則正く住宅が建ち並んでいます。
Judah Street(地区の北部を東西に走る)をMUNIメトロ・Nラインが、Taraval Street(地区の中央よりやや南を東西に走る)をMUNIメトロ・Lラインが走っています*3)。

サンセット地区をくまなく歩いたわけではありませんが、MUNIメトロ・Nラインが走るJudah Streetの一本北側のIrving Streetと19th Streetの交差点付近、MUNIメトロ・Lラインが走るTaraval Streetと19th Streetの交差点付近には、中国、韓国などアジア系のレストラン、店舗が並んでいるのを見かけました。

大阪府によって建設された千里ニュータウンでは宗教施設が建設されませんでした。それを思い返すと、サンセット地区では教会をいくつも見かけたことが印象に残っています。

45th Avenueより西側(太平洋側)のJudah Street沿いには、Outerlands、Trouble Coffee、Beachside Coffee Bar & Kitchen、Java Beach Caféというお洒落なカフェがあります。これらのカフェでは観光客と思われる人の姿も見かけました。
そしてサンセット地区の西側、Great Highwayを越えた向こうはOcean Beachの砂浜があり、その先に太平洋が広がっています。

ゴールデンゲート・ハイツのアートなモザイク階段

サンセット地区の東部にゴールデンゲート・ハイツ(Golden Gate Heights)という住宅地があります。サンセット地区は格子状に通りが走っていますが、ゴールデンゲート・ハイツは高低差があるため、通りは地形に合わせた曲がりくねっています。ゴールデンゲート・ハイツのほとんどの住宅は1940〜1950年代に建設されたもの。

この住宅地に、アートなモザイク階段が2つあり、隠れた観光名所にもなっています。Hidden Garden Stepsと16th Avenue Tiled Stepsです。

Hidden Garden Steps

MUNIメトロ・Nラインの「Judah St & 16th Ave」駅をおりて、16th Avenueを南へ数分歩きます。緩やかな坂をまっすぐ登っていった突き当たり(16th AvenueとKirkham Streetの交差点)、Hidden Garden Stepsがあります。
階段の登り口には、ボランティアにより、コミュニティ・ベースのプロジェクトとして制作されたこと、2013年12月に完成したこと、Aileen BarrとColette Crutcherの2人のアーティストによる作品であることや、後援・支援した団体が記されています。
「く」の字型になったモザイク階段を登り、後ろを振り返ると今歩いてきた16th Avenueと、ゴールデンゲート・パーク、さらにその北側の風景を望むことができます。

なお、Hidden Garden Stepsのすぐ東側の階段は15th Avenue Steps Parkとなっています。モザイクのアートになっていませんが、自然の緑の間を登る気持ち良い階段になっています。

16th Avenue Tiled Steps

Hidden Garden Stepsを登ったところは住宅地になっています。16th Avenueに沿って南へ5分程歩いたところ、16th AvenueとMoraga Streetの交差点に16th Avenue Tiled Stepsはあります。
階段の登り口には、「このモザイクは愛する人とコミュニティの精神に敬意を払う多くの人々の手によって作られました」と書かれ、2005年8月に完成したことと、Aileen BarrとColette Crutcherの2人のアーティストによる作品であることなどが記されています。
ここで紹介している16th Avenue Tiled StepsとHidden Garden Stepsは、同じアーティストの作品であることがわかります。いずれの階段も綺麗なモザイクのアートですが、階段両脇の植栽も綺麗に手入れされていることが印象的です。

階段の下からは、163段の階段のモザイクと、その上のグランド・ビュー・パーク(Grand View Park)を見上げることができます。
階段を登り振り返ると、格子状の通りに整然と並ぶサンセット地区の住宅と、太平洋を望むことができます。

グランド・ビュー・パーク(Grand View Park)

16th Avenue Tiled Stepsを登ったところは15th Avenueです。15th Avenueを南に進み、Noriega Streetに出ると、グランド・ビュー・パークの登り口へ。

小高い丘になったグランド・ビュー・パークの頂上からは360度望むことができる絶好の眺望ポイントになっています。

繰り返し書いているように、サンセット地区は格子状に通りが走り、住宅が建ち並ぶ一見すると無機質な郊外住宅地に思えますが、地区のことを調べたり実際に歩いたりすることで、この地区にも歴史があること、住宅だけでなく商店やお洒落なカフェ、教会といった様々な場所が点在していること、モザイク階段というアートに触れることができることなどの姿が浮かび上がってきました。


  • *1)トラクト・ハウジング:「柵で囲まれていない区画に、大量生産した家屋を工場からトラクターで運び込み地面に固定したもので、道路に沿った芝生の中に画一的な住宅がどこまでも並ぶ」。レヴィットタウン(Levit Town)もトラクト・ハウジングの例だとされる(Wikipedia「郊外」のページより)。
  • *2)Wikipedia「Sunset District, San Francisco」のページより。サンセット地区は大きく分けて、東側(サンフランシスコのダウンタウン側)から①インナー・サンセット(Innter Sunset)、②セントラル・サンセット(Central Sunset)、③アウター・サンセット(Outer Sunset)の3つの地区に分けられる。①インナー・サンセット(Innter Sunset):北をLoncoln Way、東をArguello Boulevard、南をQuintara Street、西を22nd Avenueに囲まれたエリア、②セントラル・サンセット(Central Sunset):北をLoncoln Way、東を19th Avenue、南をQuintara Street、西をSunset Boulveardに囲まれたエリア、③アウター・サンセット(Outer Sunset):北をLoncoln Way、東をSunset Boulveard、南をSloat Boulevard、西をOcean Beachに囲まれたエリア。
  • *3)MUNI:サンフランシスコの公共交通の1つで、San Francisco Municipal Railwayの略。MUNIにはメトロ(地下鉄+路面電車:路線番号がJ・K・T・L・M・N・Sのローマ字で表記されている7路線)とバス(路線番号が数字で表記されている)の2種類がある。Clipper Card(日本のSUICAのようなカード)、あるいは、スマートフォンのMuniMobileのアプリケーションを用いたMUNIの乗り方はこちらを参照。