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アメリカ・ワシントンDCの新型コロナウイルス感染症への対応(2020年3月~7月)

※ワシントンDCのその後の状況はこちらを参照。
※ワシントンDCにおける対応を時系列で整理した情報はこちらを参照。


2020年5月25日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応として発令された緊急事態宣言が解除されたものの、7月中旬以降に感染者が再び増加しており、第二波ではないかという指摘も目にするようになりました。ただし、感謝数は増加しつつありますが、死亡者数は増加しておらず1日に数人となっています。

ここで紹介するアメリカ東海岸のワシントンDCでも、7月末になると感染者数が微増していますが、日本のように大きな増加とはなっていません。
ワシントンDCの2019年時点の人口は約70万人。1日の感染者数は300人を超えた日もありますが、6月末になると30~40人の間を推移するまでに減少しました。しかし、7月中旬には100人を超える日も出てきています。その一方、1日の死亡者数は、4月末から5月上旬にかけて20人近い日もありましたが、その後は減少し、死亡者が0人の日が連続する時期も出てきています。

ここでは、ワシントンDCではどのようなタイミングで、どのような施策がとられたのかについての情報をご紹介します。なお、紹介しているのは記事を投稿した時点での情報であるため、感染の流行によっては大きく情報が変わる可能性があります。

なお、こちらのページではワシントンDCでとられた対応を時系列で整理しています。

ワシントンDCの対応

アメリカでの新型コロナウイルス感染症の感染者は、2020年1月21日に西海岸のワシントン州で初めて見つかりました(※Wikipediaの「アメリカ合衆国における2019年コロナウイルス感染症の流行状況」のページより)。ワシントンDCで初めての感染者が見つかったのは、それから約1ヶ月半後の2020年3月7日。感染者の行動履歴の調査が行われ、接触した可能性がある人が自宅で自己隔離することが推奨されました。

3月11日にはヒト・ヒト感染を含む新たな感染者が確認されたことが発表され、「非常事態」(State of Emergency)、および、「公衆衛生上の緊急事態」(Public Health Emergency)が宣言されました。また、1,000人以上が集まる不可欠でない大規模集会・会議を延期または中止すること、1,000人に満たない場合でも社会、文化、娯楽イベントの開催を主催者側が再検討することが推奨されました。
3月13日にはトランプ大統領が国家非常事態を宣言。この日、ワシントンDCでは、DC政府にテレワークを導入すること、3月16日から公立図書館を閉館すること、3月17日から公立学校を休校にすることなどの措置が発表されました。

3月16日から50人以上の集会禁止、レストランおよび居酒屋(Taverns)でのテーブル席の停止、DCメトロの減便、3月17日からクラブ、多目的施設、ジムクラブ、スパ、マッサージ、劇場の営業停止と、禁止される集会と閉鎖される施設の種類は徐々に増えていきます。

ワシントンDCのタイダル・ベイスン(Tidal Basin)周辺は桜の名所となっています。例年は多くの人で賑わいますが、今年は花見のためにDCメトロ・バスを利用しないようにするために、タイダル・ベイスン(Tidal Basin)周辺の駅が閉鎖されることとなりました。

基幹的でないビジネスの営業停止

3月24日には「基幹的でないビジネス」(Non-Essential Businesses)の営業停止の措置が発表(3月25日22時から発効)。「基幹的でないビジネス」にはツアーガイド、小売服店、美容院、理髪店、ジム、映画館などが含まれること、営業を継続できる「基幹的なビジネス」(Essential Businesses)であっても対面ビジネスを行なう場合はソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)として6フィート(約1.8メートル)以上の間隔をあけるのを遵守することが発表されています。

外出禁止令(自宅待機命令)

3月30日には外出禁止令(自宅待機命令:Stay-at-Home Order)が発令されました(4月1日午前0時1分から発効)。主な内容は以下の通りです。

  • 以下の例外を除き、全てのDC市民が自宅に滞在するよう命ずる。
    □遠隔医療では提供できない医療を受けたり、食料や生活必需品を入手したりするなど、不可欠な活動(Essential Activities)に従事する場合
    □不可欠な政府機能(Essential Governmental Functions)を運用または訪問する場合
    □基幹的なビジネス(Essential Businesses)で働く場合
    □不可欠な移動(Essential Travel)に従事する場合
    □市長令で定義されている「許容されるレクリエーション活動」(Allowable Recreational Activities)に従事する場合
  • アパートの共通エリア(ジム、ラウンジ、ルーフトップ等)の使用を禁止
  • 不可欠な移動(Essential Travel)に従事する場合に公共交通機関を利用する者は、ソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)を遵守
  • 3月24日に発出した市長令に定める通り、基幹的なビジネス(Essential Businesses)のみの運用を許可。
  • 本令に故意に違反した個人または団体は、1,000ドルの罰金、営業の一時停止、または免許の取り消しを含む制裁措置や罰則を含む民事、刑事、行政上の罰則の対象となる。また、本令に故意に違反した個人は、軽犯罪の有罪として、5,000ドル未満の罰金、もしくは90日未満の禁錮、またはその両方が科される可能性がある。

※2020年3月30日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

外出禁止令(自宅待機命令)下においても外出が可能な「許容されるレクリエーション活動」(Allowable Recreational Activities)は次のように定められています。

「許容されるレクリエーション活動」(Allowable Recreational Activities)とは、世帯員との屋外活動(outdoor activity with household members)で、ソーシャル・ディスタンシングの要件(Social Distancing Requirements)に準拠し、活動前後に使用機器の消毒を行うものを意味する。世帯員以外との屋外活動をしてはならない。

例:ウォーキング、ハイキング、ランニング、犬の散歩、サイクリング、ローラーブレード、スクーター、スケートボード、テニス、ゴルフ、ガーデニングと、その他、参加者全員がソーシャル・ディスタンシングの要件を遵守し、人と人との接触がない活動
※「Mayor Bowser Issues Stay-At-Home Order」March 30, 2020の翻訳(一部省略)


4月8日には、市長令「公衆衛生上の緊急事態期間中の食品販売業者に求められるソーシャル・ディスタンシングの手順と、ファーマーズ・マーケットとフィッシュ・マーケットの運営要件」が発令され、食料品店には買い物客がマスク着用を指示するなどの看板を掲示すること、入店する客の数を制限する等の対応が求められました。
4月15日にはタクシー、ライドシェア、民間輸送業者等の利用者、ホテルの宿泊客にもマスク着用が義務化されました。

DC再開

このように感染防止のための様々な対応がとられている一方、4月中旬以降には感染防止の対応によって停滞している社会をどう再開するかの提案が見られるようになっています。
4月16日にはトランプ大統領がアメリカ再開のためのガイドライン『オープニングアップ・アメリカアゲイン』(Guidelines for Opening Up America Again)を発表しました。

4月23日にはワシントンDC市長が『DC再開』(Reopen DC)を発表。これは、3つのフェーズによって社会を段階的に再開していくという提案です。

2020年4月23日木曜日に、ボウザー市長は『DC再開』(ReOpen DC)の計画を発表しました。市長は、我々の街を再開するだけでなく、より公平なDCを築くための一世代に一度の機会だと述べました。安全で持続可能な回復のためには、測定し、データに基づき(Data-driven)、そして、慎重に行う必要があります。『DC再開』は安全で持続可能な方法でDCを再開するために、コミュニティとして協力することです。我々は、一緒に、科学に基づき、コミュニティのニーズに合わせた計画を作成します。

『DC再開』は、ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health)のレポート『Public Health Principles for a Phased Reopening During COVID-19: Guidance for Governors』に準拠し、公衆衛生上の重要な指標と能力に基づいた段階的な対応が含まれています。また、コミュニティベースのガイドライン、セクターベースのガイダンス、明確なコミュニケーションに焦点を当てた内容も含まれています。
※「ReOpen DC」のページの翻訳。

『DC再開』では、再開のプロセスが3つのフェーズで捉えられており、『DC再開』は2番目の安定化(Stabilization)のフェーズに焦点を当てるものとされています。

  • (1)緊急対応(Emergency Response):現在のフェーズ。
  • (2)安定化(Stabilization):『DC再開』が焦点を当てるフェーズで、制限を緩和するが、ネガティブな指標を注意深く監視し、迅速に対応する。
  • (3)長期的な回復(Long-term Recovery):新しい、よりレジリエントな正常な状態(New, more resilient normal)を見つける方法。このフェーズは、ワクチンが広く入手可能になったときに開始される可能性が高い。

『DC再開』の作成にあたって重視されるのが、HOPEと呼ばれる健康(Health)、機会(Opportunity)、繁栄(Prosperity)、公平(Equity)の4つの価値です。

健康(Health):健康で安全な市を大切にしています。これは、住民の健康の確保に加えて、健康状態の改善、より応答性の高い緊急サービスの開発、健康的な環境、交通事故による死傷者の減少、犯罪の減少を優先するための機会です。

機会(Opportunity):住民が力強く生きる機会を作ることを大切にしています。復興を通して、活気のある雇用市場のサポートと、教育とトレーニングを通じた新しい雇用機会の計画により、住民が目標を達成することをサポートします。中小企業や起業家がより強く戻ってくるために、技術的および財政的にサポートします。

繁栄(Prosperity):活気のある市を大切にします。市を再スタートすることは、ビジネスと住民にとって重要であり、責任を共有することです。学校、インフラ、社会サービス、保育、世界クラスの場所と空間(World-class places and spaces)、そして、家族のための住宅への重要な投資をサポートするために、政府と企業の強力な財政回復を確実にする必要があります。

公平(Equity):最も弱い立場にある人々(Most vulnerable)のための結果の改善を大切にします。アフォーダブル・ハウジング、便利で健康的なコミュニティ、健康的な食品、地元のビジネス開発、小売店の選択肢(Retail options)、素晴らしいコミュニティ施設は、最も必要とするコミュニティに資源を集中させることで、自宅の近くで、そして、市の全ての近隣で見つかるようにするべきです。
※「ReOpen DC」のページの翻訳。

DC再開諮問グループによる提言

『DC再開』のために、DC再開諮問グループ(ReOpen DC Advisory Group)が立ち上げられました。2020年5月21日、諮問グループは『DC再開:市長への提言』を公表しました。
ここでは次の4つのステージにより段階的に社会を再開することが提言。ステージ1から3までは全般的な安全対策(Universal Safeguards)を取ることが強く推奨されており、効果的なワクチンまたは治療法が実現した後、ステージ4の「ニューノーマル」(新しい日常)へと移行するとされています。

  • ステージ1:ウイルス感染の減少(Declining virus transmission)
  • ステージ2:地域的な感染のみ(Only localized transmission)
  • ステージ3:散発的な感染(Sporadic transmission)
  • ステージ4:効果的なワクチンまたは治療法(Effective vaccine or cure)

※ReOpen DC Advisory Group『ReOpen DC: Recommendations to the Mayor』(May 21, 2020)の翻訳。

全般的な安全対策は、他者との6フィートの距離を取るフィジカル・ディスタンシング、マスク着用、清掃や消毒、個人防護具(PPE)の供給、教育、検査や隔離へのアクセスなど多岐にわたる内容があげられています。

また、ステージを移行する基準として、次の4点があげられています。

  • コミュニティにおける広がりのレベル(感染率など)
  • 医療システムの能力(サージ(Surge:押し寄せ)のない十分な医療の能力など)
  • 検査能力(全ての優先するグループを検査する能力など)
  • 公衆衛生システムの能力(全ての新規症例とその濃厚接触者に対する十分な接触者追跡(contact tracing)の能力など)

※ReOpen DC Advisory Group『ReOpen DC: Recommendations to the Mayor』(May 21, 2020)の翻訳。

外出禁止令(自宅待機命令)の解除

ステージを移行する基準を満たしたという判断から、5月29日に外出禁止令(自宅待機命令:Stay at Home Order)が解除され、「Stay at Home Light」(軽い自宅待機)となり、再開フェーズ1に移行しました。

フェーズ1への移行により、次のようなビジネスや活動が再開可能となりました。

  • 小売店:基幹的でない小売ビジネスは、カーブサイド・フロントドアのピックアップまたはデリバリーで営業可能。顧客が店内に入ることは禁止。
  • 理髪店と美容院:予約限定、6フィート確保のもと営業可能。店内での待機は禁止。Waxing、 Electrolysis、 Threading、 Nail Careは引き続き禁止。
  • レストラン:テイクアウト、デリバリー、グラッブアンドゴーに加え、屋外席を利用可能。顧客は屋外席で着席した上で注文。全てのテーブルは少なくとも6フィート間隔。一つのテーブルに6人まで着席可。現在、屋外席利用の許可がないレストランもあるが、レストラン・小売店・レクリエーション用に歩道を拡大する方向で調整している。
  • 公園・レクリエーション:DC政府管轄の公園、ドッグパーク、ゴルフコース、テニスコート、陸上競技場は利用可能。プレイグラウンド、公共プール、レクリエーションセンター、その他屋内施設は引き続き閉鎖。バスケットボール・フットボール・サッカーは引き続き禁止。
  • 市長の特別TFグループは、地区交通局と協力して、歩道・道路・路地、またはその一部を含む公共スペースを特定し、特定の日及び時間帯に車両通行を禁止して、歩行者の拡大を可能にする予定。
  • 待機的手術:フェーズ1の間、医療提供者は、病院の収容能力や新型コロナウイルス感染症関連リソースに過度の負担をかけない外来またはその他の外科処置の提供または再開を継続する場合がある。
  • フェーズ1の間は、政府だけでなく全ての労働者がテレワークを継続することを奨励する。

※2020年5月27日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

フェーズ1への移行により暮らしは変わりますが、非常事態宣言・公衆衛生上の緊急事態宣言は継続され、10人以上の集会も引き続き禁止されています。また、マスク着用、ソーシャル・ディスタンシング、手洗いが求められることに変わりありません。

このように社会を再開する動きが見られるようになりましたが、ワシントンDCでもミネアポリス市で5月25日に発生した黒人男性死亡事件に対するデモが行われました。これを受け、5月31日23時~6月1日6時、6月3日23時日~6月4日6時には夜間外出禁止令(curfew)が発令。新型コロナウイルス感染症による外出禁止令(自宅待機命令:Stay at Home Order)が解除された直後に、別の夜間外出禁止令(curfew)が発令されました。

再開のフェーズ1からフェーズ2へ

6月22日からフェーズ2に移行しました。ソーシャル・ディスタンシングの確保、マスク着用は引き続き継続することが求められますが、以下のフェーズ2への移行についてのガイダンスに記載されているように、いくつかの活動やビジネスが再開可能とされました。

    □集会:50人超の集会は禁止。
    □基幹的でない小売店:最大収容人数の50%を上限として、店内営業を再開可。
    □パーソナル・サービス:日焼けサロン、タトゥー、ワックシング、スレッディング、電気分解療法、凍結療法、フェイシャル、ネイルサロンは、予約制のみ、各ステーションの6フィート間隔の確保、来客は店外で順番待ちすることを条件に営業を再開可。
    □レストラン:最大収容人数の50%を上限として、屋内営業を再開可。客は着席したまま注文し、接客サービスは着席時のみ提供。全てのテーブルは少なくとも6フィート間隔で、1つのテーブルに6人まで着席可。客が料理を取りにいくブッフェ形式は不可。
    □フィットネス、レクリエーション:ジム、ヘルスクラブ、ヨガ、ダンス、ワークアウトスタジオは、1、000平方フィートあたり5人まで。グループクラスは、人と器具との間に少なくとも10フィートの距離を確保。公共プールは、レッスンやラップスイミングなど体系的な活動のみ再開可。プレイグラウンド、コート、運動場は、再開可。低・中程度の接触があるスポーツのカジュアルプレイは許可するが、地区単位のスポーツは許可しない。
    □礼拝所:バーチャルサービスの継続を奨励。屋内は100人以下または最大収容人数の50%のいずれか少ない方を上限に利用可。合唱や物の受渡し・共有を伴う活動は控えることを奨励。
    □キャンプ、教育機会:キャンプは10人以下、距離の確保ほか安全対策を講じることを条件に再開可。図書館は、最大収容人数の50%を上限に再開可。カレッジ、大学は、 DC教育当局と協議の上に策定し、計画局が承認した再開計画に基づき再開可。劇場、映画館、娯楽施設は、芸術、娯楽、または文化的イベントを開催するための免除申請ができる。

※2020年6月17日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

マスク着用義務化に関する市長令

このように社会を再開する動きが進められてきましたが、7月末になると新たな感染防止の対策が取られるようになっています。

7月22日にはマスク着用の義務化に関する市長令が出されました(即時発効)。マスク着用義務化は以前の市長令にも含まれていましたが、明確にするためマスク着用に特化した市長令として発令されました(7月27日発効)。

  • □屋内でのマスク着用
    ・アパート等の共用エリアにおいてはマスクを着用しなければならない。
    ・一般人の出入りがあるオフィスビル等では、マスク着用なしのビル立入りは禁止である旨、掲示しなければならない。
    ・雇用者は従業員にマスクを提供しなければならない。
  • □屋外および移動でのマスク着用
    ・外出時に他者と6フィートの距離が取れない場合はマスクを着用しなければならない。
    ・タクシー、バス、地下鉄等の運転手および乗客はマスクを着用しなければならない。
  • □マスク着用義務の例外
    ・個人宅に居る住人や来客
    ・飲食中の人、(合法的に)喫煙中の人
    ・他者と6フィートの距離を維持して屋外で激しい運動をしている人
    ・スイミングプールに入っている人
    ・他者の入室が許可されていない閉鎖的なオフィスにいる人
    ・2歳以下の子供
    ・医療上の理由または身体的障害によりマスクを着用できない人、マスクを外すことができない人
    ・6フィート以内に人がいない状況でスピーチを行う人(放送向け、聴衆向け)
    ・口元を読み取る必要がある聴覚障害者に向け話す人
    ・職業上求められる機器がマスク着用の妨げになる場合であって実際にその機器を着用している人、またはマスク着用が公衆衛生に危険を及ぼす場合
    ・顔認証のためにマスクを外すことを法的に求められた人

※2020年7月22日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

不可欠でない移動後の自己隔離

7月24日には、ワシントンDCの住民を含めて、「ハイリスク・エリア」からの「不可欠でない移動」(Non-Essential Travel)によりワシントンDCに入る全ての人には、ワシントンDC到着後に14日間の自己隔離(self-quarantine)を求める市長令が発令されました。「ハイリスク・エリア」は一日の新規陽性者数が直近7日間平均10万人当たり10人以上の場所で、2週間ごとに更新されます。ただし、ワシントンDCに隣接するメリーランド州・バージニア州との間の移動はこの自己隔離の対象外とされます。
なお、「不可欠な政府機能」、「不可欠なビジネス」、「未成年者・高齢者・扶養家族の世話・介護のための移動」、「法執行または裁判所命令により求められる移動」、「学校への通学」は自己隔離の対象にはならない「不可欠な移動」(Essential Travel)と見なされます。

  • (1)過去14日の間に「ハイリスク・エリア」へ/から不可欠でない移動をした全ての者は、ワシントンDCに戻ってから/到着してから14日間の自己隔離を行わなければならない。
  • (2)不可欠でない移動後に自己隔離を行う者は次を行わなければならない。
    ・自宅またはホテルに滞在し、不可欠な治療または自宅またはホテルへの配達が不可能な場合における食材その他不可欠な物の調達に限って外出する。
    ・自己隔離を行う自宅またはホテルに介護人を除く客を招かず、立ち入りを許可しない。
    ・新型コロナウイルス感染症の症状がみられないか自ら観察し、発症した場合、適切な医療上のアドバイスを求め、または検査を受ける。
  • (3)「ハイリスク・エリア」を一時的に通過する場合は、自己隔離の対象とはならない(例:空港での乗り継ぎ、車両での通過)。

※2020年7月27日配信の在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

検査体制の拡充と暮らしのサポート

以上のような対応と並行して、検査体制が拡充されてきたことも見落とせないポイントです。

ワシントンDCではドライブスルー、及び、消防署を含めたウォークアップ(徒歩)の検査場がもうけられています。当初は予約が必要でしたが、その後、検査場によっては予約が不要とされています。
検査体制は徐々に拡充されており、現時点では新型コロナウイルス感染症の症状がある住民、新型コロナウイルスに暴露した人は、医師の診断書が不要で、無料の検査を受けることが可能な状態となっています。
さらに、感染の有無を判定する検査に加えて、抗体検査も行われるようになっています。

検査体制の拡充に加えて、特に4月に入ると暮らしをサポートする対策が発表されてきたことにも気づかされます。例えば、次のような対策です。

  • 隔離等で自宅から出られない、または、家族等の助けが得られないDC市民に必須の食料品を届けるサービスを開始する(4月9日の記者会見)。
  • DC公立学校(DCPS)での食料品配布が4月13日から開始。学生および高齢者への食事配布とは別途行われるもので、食料品を入手できない脆弱な家族向けであり、先着順・無料で配布される(4月9日の記者会見)。
  • DC住民が不可欠な運動を行うスペースを確保するための措置として、4月30日までRock Creek Park、Anacostia Park、Fort Dupont Parkの車道を閉鎖する(4月13日の記者会見)。
  • 自宅から出られないDC市民が食料品等の要請を行うためのホットラインおよびオンラインフォームを開設(4月13日の記者会見)。
  • 子どものストレス管理のため、親向けのバーチャルワークショップを開催している(4月17日の記者会見)。
  • 家庭内暴力(DV)を受けている者へのホットラインを紹介(4月20日の記者会見)。
  • 4月24日から通常の失業保険に当てはまらない労働者(フリーランス、ギグワーカー、自営業者等)は、CARES法によって設立されたパンデミック失業援助(PUA)に申請開始できる(4月23日の記者会見)。
  • 自己隔離(Isolating)のアドバイス:同居者と部屋を別にする、家庭用品を共有しない、マスク着用。家庭内で自己隔離できない場合はホットラインに電話すること(5月8日の記者会見)。
  • サマーキャンプは、自宅キャンプ(「Camp-at-Home」:5,000人の子どもに無料で活動用のキットを提供)、または、フェーズ2に移行している場合は、屋外キャンプ(「Fun & Sun Camp」:2週間の屋外キャンプ、27か所で実施)を開催すると(5月22日の記者会見)。
  • DC公立学校のサマースクールは、6月22日から7月24日までオンラインで開催する。フェーズ2に移行している場合、グレード3、6、9に進級する生徒に焦点を当てたサマーブリッジ・プログラムを8月初めに対面で行う(5月22日の記者会見)。
  • 小売店やレストラン等の屋外営業のためのスペース確保のため、ストリータリー(streatery)を設定し、車道の一部レーンを閉鎖する。また特に、基幹的なビジネスに通勤し、健康維持のため運動する地区内の住民の死亡事故や重傷者をなくすための対策の一環として、6月1日から地方道路の既定の制限速度を時速25マイルから20マイルとする。加えて、ウォーキング、ランニング、サイクリング中の近隣住民の安全なソーシャル・ディスタンシングをサポートするため、夏期の間、8つの区全体で少なくとも20マイルのDCスローストリートを設定し、地元交通のみに制限するとともに制限速度は時速15マイルとする(5月29日の記者会見)。
  • 住民が屋外でソーシャル・ディスタンシングを維持できるようにする新たなスローストリート(Slow Street)・イニシアティブの最初の7つのストリートを発表。今後12週間で、さらにストリートを追加する予定である(6月8日の記者会見)。

※在アメリカ合衆国日本国大使館「領事メール」より。ただし、表現を改めている部分がある。

このように様々な対策が発表されてきましたが、外出禁止令(自宅待機命令)下での運動を行うスペース確保のための車道の確保、小売店やレストラン等の屋外営業スペース確保のため車道の一部レーンを閉鎖するストリータリー(streatery)、屋外でソーシャル・ディスタンシングを維持するために制限速度を25マイルから20マイルにするスローストリートというように、車道に関わるいくつかの対策がとられているのも興味深い点です。


このように、ワシントンDCでは3月7日の最初の感染者の発見から2週間余りで「基幹的でないビジネス」の営業停止措置、3週間余りで外出禁止令(自宅待機命令)、6週間弱でマスク着用の義務化が出されています。そして、4月下旬には『DC再開』が発表、5月下旬には『DC再開:市長への提言』が公表。5月末に外出禁止令(自宅待機命令)が解除され、再開フェーズ1に移行、そして、6月下旬にはフェーズ2に移行しています。ただし、7月末になるとマスク着用の義務化に特化した市長令、ハイリスク・エリアからの不可欠でない移動後の自己隔離というように、新たな感染防止の対応もとられています。

現時点で3月からの動きを振り返ることで、次のようなことに気づかされます。

  • 「基幹的でないビジネス」の営業停止、外出禁止令(自宅待機命令)、マスク着用の義務化というように、感染防止のための厳格な対応が早期に出されていること。
  • どのようなビジネスが禁止されるのか、どのような活動が禁止されるのかなどが罰則を伴う法として明確に定められていること。
  • 社会を再開するための条件とロードマップが明確にされていること。
  • 最初に厳格に定めた禁止事項を、条件を満たすことで徐々に緩めていくアプローチがとられていること。
  • 社会を再開するとは、決して元の状態に戻すことではなく、新たな価値を生み出す機会と捉えられていること。
  • ただし、感染者数が再び増加するなど、新型コロナウイルス感染症の対応は容易ではないこと

なお、ワシントンDCに限りませんが、ビジネスや活動を禁止するだけでなく、大人は最大1,200ドル(約13万円)、子どもには500ドル(約5万5千円)という迅速な現金給付(4月中には給付)、さらに失業者への保険という措置とセットになっていることも忘れてはなりません。

ワシントンDCの動きは、行政からの要請を受けたり、世間の目に対応したりすることで、あくまでも「自粛」として感染防止が行われており、検査数の少ない日本の状況とは大きく異なります。感染者数や死亡者数はアメリカの方が圧倒的に多く、国による状況も違うためアメリカと日本のどちらの対応が良いかは単純に比較できませんが、この点については、後から振り返った検証が行われると考えています。