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新型コロナウイルス感染症の広がりのコミュニティによる違い

新型コロナウイルス感染症(COVI-19)の広がり方は、コミュニティによって違うことが指摘されています。例えばアメリカでは、新型コロナウイルス感染症による影響がアフリカ系の人々に偏って多く、「新型ウイルスは「平等に」感染が拡大すると指摘されているが、統計からは、住む場所によって感染する確率に違いがあることがうかがえる」と指摘されています*1)。

サーゴ財団(Surgo Foundation)は、どのようなコミュニティが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して脆弱なのかを把握するために、新型コロナウイルス感染症対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI:COVID-19 Community Vulnerability IndexI)を公開しています*2)。
指標は感染を予測するためでなく、最もサポートを必要とするコミュニティを特定することを目的として作成されたもので、次の6つの項目から構成されています。

新型コロナウイルス感染症対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)

  • ①社会経済的地位(Socioeconomic status):低所得、低学歴、無職の人
  • ②世帯構成および障害(Household Composition & Disability):高齢者(65歳以上)、若者(17歳以下)、障害者のいる世帯、または、ひとり親世帯
  • ③マイノリティの地位および言語(Minority Status & Language):人種的に疎外されているグループ、または、英語に熟達していない人々
  • ④住宅類型および交通機関(Housing Type & Transportation):複数の世帯からなる住宅、移動式の住宅、集団生活、または、過密な生活形態、および、交通手段を持たない世帯
  • ⑤疫学的要因(Epidemiological Factors):新型コロナウイルス感染症のリスクが高い基礎疾患(心血管疾患、呼吸器疾患、免疫不全、肥満、糖尿病)をもつ人々、インフルエンザや肺炎による死亡率の高さ、または、高い人口密度
  • ⑥ヘルスケアシステムの要因(Healthcare System Factors):ヘルスケアシステムのキャパシティ、強さ、準備の貧弱さ

※Surgo Foundation「The COVID-19 Community Vulnerability Index (CCVI)」のページの翻訳。

サーゴ財団は、この指標を発表した後、指標によって測られる脆弱性により、感染者数がどのように異なっているかについての分析を行っています。以下ではこの結果の概要をご紹介したいと思います。


脆弱性と感染症の広がり

サーゴ財団は、2020年4月上旬、6項目からなる新型コロナウイルス感染症対するコミュニティの脆弱性指標(CCVI)を公開しました。先に触れた通り、指標は感染を予測するためのものではなく、感染症に対して最もサポートを必要とするコミュニティを特定するためのものです。
指標の公表後、サーゴ財団はコミュニティの脆弱性指標(CCVI)と、実際の新型コロナウイルス感染症の症例数(2020年4月13日のデータ)がどのように関わっているかを分析しています。ここでいう症例数とは死亡、回復済、発症中(Active)含めて検査によって発見された人数であり、検査されなかった感染者は含まないとされています*1)。

分析により、新型コロナウイルス感染症はより脆弱なコミュニティで急速に蔓延していることが明らかにされています。

「発生の初期には、脆弱性の低い郡(County)がウイルスに襲われる可能性が高いことが明かになりましたが、この傾向は長くは続きませんでした。今月〔※2020年4月〕に入ってから、脆弱性の高い郡の症例数は、脆弱性の低い郡の症例数に急速に追いつき、そして、追い越していきました。ウイルスが脆弱性の高いコミュニティに到達したのは後になってからですが、脆弱性の高いコミュニティ内での拡散ははるかに速くなっています。」

脆弱なコミュニティにおける感染拡大について、次の3点が指摘されています*1)。

  • ①現在、いくつかの非常に脆弱なエリアに新型コロナウイルス感染症のホットスポットがある。
  • ②4月に入り、非常に脆弱な郡の症例数が増大している。
  • ③新型コロナウイルス感染症は、脆弱な郡においてより速く拡散している。

①に関しては、現在、ホットスポットのあるニューヨーク州のブルックリン、ブロンクスと、南部のルイジアナ州、ジョージア州は非常に脆弱だとされています。

②に関しては、脆弱性指標(CCVI)に基づいて、全米の郡を「脆弱性が高い郡」、「脆弱性が中程度の郡」、「脆弱性が低い郡」の3つのグループに3等分した場合、「脆弱性が低い郡」が感染症の被害を受け始めたのは3月1~18日の間であり、「脆弱性が中程度の郡」と「脆弱性が高い郡」の数日前から被害を受けていること、「脆弱性が高い郡」の症例数は4月上旬には急増し始め、4月5日には「脆弱性が低い郡」に追いついていることが明らかにされています。

③に関しては、倍加時間(Doubling time)による分析がなされています。全米の33%の郡について、4月13日の症例数の半分の症例数だった日を特定し、その日から4月13日までの経過日数、つまり、症例数が倍になるのに要した日数を求める方法です。これによると、全米の平均では8日ごとに症例数が倍増しているが、「脆弱性が高い郡」では7.1日、「脆弱性が中程度の郡」では7.8日、「脆弱性が低い郡」では8.6日というように、「脆弱性が高い郡」の症例数が短期間で倍増することが明らかにされています。

以上の結果をふまえ、次のような対応が必要だとまとめられています。

「新型コロナウイルス感染症の大規模な感染爆発(Outbreak)に直面した際に、最もレジリエンスが弱い脆弱なコミュニティにおいては、「症例数の曲線のカーブを平坦にする」(Flattening the curve)が最も重要になりますが、これらのコミュニティはウイルスの拡散を遅らせるのに苦労しています。脆弱なコミュニティは今、感染を抑制し、医療の許容力を高め、さらなる拡散に効果的に対抗するための大規模な検査を導入するための戦略とともに、サポートを必要としています。
けれども、脆弱性は病気の直接的な影響以上のものです。経済的なレジリエンス、雇用保障、子どもにとっての悪い結果(Poor outcomes for children)、放置された慢性疾患、そしてさらに多くの困難が、このパンデミックがもたらす衝撃に対処するための備えがない(Ill-equipped)コミュニティで暮らす何百万人もの人々を苦しめることになります。
なぜこれらのコミュニティで新型コロナウイルス感染症がより速く拡散しているかを理解することは、短期的に病気を止めるだけでなく、これから何年にもわたって最も脆弱なコミュニティを守るためにも、効果的な介入を行う上で非常に重要です。」


脆弱性とソーシャル・ディスタンシング

新型コロナウイルス感染症の感染を予防するためには社会的・物理的な距離をおくソーシャル・ディスタンシングが重要だとされています。

サーゴ財団は、コミュニティの脆弱性指標(CCVI)の違いによってソーシャル・ディスタンシングの実践がどのように異なるかを分析しています。
ここでソーシャル・ディスタンシングの測定に用いられているのがスタートアップ企業のUnacastによるスマートフォンのGPSの位置情報(2020年4月8日までのデータ)。スマートフォン利用者の移動量がより減少すれば、ソーシャル・ディスタンシングがより採用されていると見なせるという仮定に基づき、パンデミック前後での移動量の変化のデータを郡ごとに取得。そして、パンデミック前後で移動量が55%以上減少した郡を「ソーシャル・ディスタンシングをより実践している郡」、25%以上減っている郡を「ソーシャル・ディスタンシングを中程度に実践している郡」、25%未満しか減少していない郡を「ソーシャル・ディスタンシングをあまり実践していない郡」と分類し、分析を行っています*1)。

分析により、ソーシャル・ディスタンシングの採用にはコミュニティによる違いがあること、新型コロナウイルス感染症に脆弱なコミュニティほどソーシャル・ディスタンシングの採用が遅れていることが明らかにされています。

「ソーシャル・ディスタンシングの遵守は全国的にばらつきがあることが明らかになりました。地域、州、さらには郡レベルでさえ大きなばらつきがあります。多くのコミュニティでは、新型コロナウイルス感染症の感染者数が多数確認される前でも、ソーシャル・ディスタンシングをいち早く採用していました。ソーシャル・ディスタンシングをいち早く採用していたコミュニティは、パンデミックの影響に対して最も脆弱でないコミュニティである傾向がありました。残念ながら、特に新型コロナウイルス感染症に対して脆弱なコミュニティは、ソーシャル・ディスタンシングの採用が最も遅くなっています。」

ソーシャル・ディスタンシングの採用のコミュニティによる違いについて、次の3点が指摘されています。

  • ①ソーシャル・ディスタンシングの取り方には地理的な違いがある。
  • ②最も脆弱な州や郡は、あまりソーシャル・ディスタンシングを実践していない。
  • ③症例数が増えても、脆弱なコミュニティにおけるソーシャル・ディスタンシングの実践は、脆弱でないコミュニティに比べて遅れをとっている。

①については、4月8日時点では全国の大部分の郡が程度の差はあれソーシャル・ディスタンシングを実践していること、ただし、北東部のほぼ全ての州で40〜70%も移動量が減少しているのに対して、南部の州では20〜40%しか移動量が減少していないこと、移動量が55%以上減少している「ソーシャル・ディスタンシングをより実践している郡」はニューヨーク、シアトル、サンフランシスコのような大都市圏に位置する郡をはじめとする少数の郡だけであることが明らかにされています。

「脆弱なコミュニティでは、ソーシャル・ディスタンシングがあまり採用されていないという発見は憂慮すべきものです。アメリカが新型コロナウイルス感染症の新規感染者の曲線のカーブを平坦にしよう(flatten the curve)と苦闘する中で、効果的なソーシャル・ディスタンシングが唯一の希望かもしれません。最も脆弱なコミュニティでソーシャル・ディスタンシングがあまり採用されていないことは、最も打撃を受け、最も対処する能力が低いコミュニティで症例数がより増加することを意味します。
より多くの人々が、これらのコミュニティをより良く守るためには、ソーシャル・ディスタンシングの実践を奨励し、可能にするための、あらゆるレベルの政府および他の指導者によるより強力な努力が必要です。」

サーゴ財団では、曜日やその他の要因がソーシャル・ディスタンシングの実践にどのような影響を与えるかの詳細な分析を続けるとされています。


表面化する格差

スマートフォンの位置情報により取得される移動量の減少を、そのままソーシャル・ディスタンシングの度合いに結びつけてよいかという疑問もあります。例えば、外出先で他者との距離を6フィート(約1.8メートル)確保することは、このデータでは把握することができません。
しかし、この分析結果から伺えるのは、たとえ新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、身を守るためには外出を控えた方がよいと分かっていても、外出せずに生活する余裕のある人と、余裕のない人がいることではないかと思います。テレワークが可能な職種/不可能な職種、宅配で食料品などを購入する余裕のある世帯/余裕のない世帯というように、格差によって大きく異なっている。今回の新型コロナウイルス感染症は、これまで表面化していなかった格差を表面化させたと言えるかもしれません。そして、この格差は、ソーシャル・ディスタンシングを要請するだけでは解決されるわけではありません。

これは日本も同じなのかもしれません。
重要なのは、ソーシャル・ディスタンシングを実践する余裕のない人がいる限り、社会全体として新型コロナウイルス感染症は収束せず、翻ってソーシャル・ディスタンシングを実践する余裕のある人にも被害をもたらすということ。だからこそ、誰にとっても他人事にはならず、社会全体としての取り組みが求められる。サーゴ財団による指標は、指標の作り方については議論があるかもしれませんが、この点に関して重要な視点を提供するものだと考えています。

(更新:2020年7月17日)