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食料品店におけるソーシャル・ディスタンシングの規定:アメリカ・ワシントンDCの場合

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、暮らしは大きな影響を受けています。その1つが食品などの買い物。スーパーマーケットなどの食料品店は、暮らしに不可欠な場所ですが、同時に、多数の人が集まることから感染の可能性が高い場所とも見なされています。
そこで、最近では家族で買い物に行かないこと、買い物の頻度を3日に1度にすること、飲食は持ち帰りや宅配を利用することなどの呼びかけが行われるようになりました。

これらの呼びかけは要請であり、個々人が要請を受けて自主くするというかたちになっているのに対して、アメリカでは社会的・物理的な距離の確保により感染拡大を防止するソーシャル・ディスタンシング(Social Distancing)が徹底されています。
さらに、買い物客に対してだけでなく、食料品店に対してもソーシャル・ディスタンシングのための手順が、強制力のある法によって明確に定められていることも日本との違いです。
ここでは、ワシントンDC市長が2020年4月8日付で発令した市長令「公衆衛生上の緊急事態期間中の食品販売業者に求められるソーシャル・ディスタンシングの手順と、ファーマーズ・マーケットとフィッシュ・マーケットの運営要件」(Social Distancing Protocols Required for Food Sellers and Requirements for Farmers’ and Fish Market to Operate During Public Health Emergency)を通して、食料品店では、ソーシャル・ディスタンシングとしてどのような対応が求められているかをご紹介したいと思います。

感染予防のための方法に正解はないかもしれませんが、対応事例についての情報を共有することが何らかの参考になればと考えています。

公衆衛生上の緊急事態期間中の食品販売業者に求められるソーシャル・ディスタンシングの手順と、ファーマーズ・マーケットとフィッシュ・マーケットの運営要件

背景

(1)この市長命令は、新型コロナウイルス感染症とその拡散に関連する以前の市長命令の結果を盛り込んだものである。
(2)この命令は、屋内の食品小売業者(Retail Food Sellers)がソーシャル・ディスタンシングの手順(Social distancing protocols)を実施することを求めるものである。
(3)この命令はさらに、ファーマーズ・マーケットとフィッシュ・マーケット(魚市場)は「基幹的なビジネス」(Essential Businesses)としての資格を失い、認可された場合にのみ運営(Operate upon issuance of a waiver)されるものであることを宣言する。
(4)この命令は、以前の市長命令の項目を明確にするものである。

適用

(1)この命令は、食料品店、スーパーマーケット、フード・ホール、フード・バンク、コンビニエンスストア、その他食品の小売販売を行う事業所を含む「食品小売業者」(Retail Food Sellers)に提供される。
この命令は、以下には適用されない。

  • (a)デリバリー、テイクアウト、または、包装済の持ち帰り用の食事(Grab and Go)のために食品を準備して提供するレストランやその他の施設。しかし、これらのレストランやその他の施設は、同様のソーシャル・ディスタンシングの手順を採用し、顧客の列を管理するために施設内外に6フィートの距離をマークしなければならない。
  • (b)学校、シニアセンター、そして、通常学生や一般市民に無料の食事サービスを提供しているその他の団体。

(2)この命令は、coronavirus.dc.govに掲載されている「食品小売業者」(Retail Food Sellers)として解釈できる全ての事業者に適用される。

食品小売業者に求められるソーシャル・ディスタンシングの手順

(1)食品小売業者(Retail Food Sellers)は、従業員と顧客の安全のために以下のソーシャル・ディスタンシングの手順を実施しなければならない。

(a)店舗の各入口に看板を掲示する。

  • i)全ての顧客に次のように指示する。
    a)マスク、マウスカバーを着用する。
    b)咳、発熱、鼻水などの感染症の症状が見られる場合や、新型コロナウイルス感染症が陽性だと診断されている場合は、入店しない。
    c)世帯員でない人とは6フィート(約1.8メートル)の距離をとる。
    d)咳やくしゃみをする場合は他の人から離れ、ティッシュや肘、袖で覆う。ティッシュはすぐに安全な方法で処分する。
    e)握手や、その他の不必要な身体的接触をしない。
    f)一人で、あるいは、世帯員とだけで素早く買い物をする。
  • ii)オンライン・ショッピング、カーブサイド・デリバリー(※店員が車内にいる顧客にあらかじめ注文された商品を手渡す)、宅配便の利用を奨励し、そのようなサービスへのアクセス方法に関する情報を提供する。

(b)一度に入店できる顧客の人数を制限する。

(c)顧客に店舗内では互いに最低6フィートの距離をとるよう求める。列ができる場合は、店舗内外に少なくとも6フィート刻みでマーキングする。

(d)可能な場合は、経路にマーキングして、店舗内の通路が一方通行になるようにする。

(e)全ての出入口および店舗全体に、適切なハンドサニタイザー(手指消毒剤)または消毒用のウェットティッシュワを置く。

(f)最低6フィートの距離を確保できない場合は、隣り合う決済システムやレジカウンター(payment systems or checkout counters)の使用を停止する。

(g)可能な場合は、顧客に、自身で再利用可能なバッグや、事業者が提供するバッグに商品を入れることを伝える。

(h)よく触る場所(high-touch surfaces)を、以下を含む手順に従い定期的に消毒し、その手順を店舗の各入口に掲示する。

  • i)全ての休憩室、バスルーム(洗面所・トイレ)、管理エリアを含む店舗全体のよく触る場所(high-touch surfaces)を定期的に消毒する。
  • ii)カートやバスケットを、少なくとも1時間に1回は消毒する。
  • iii)少なくとも1時間に1回のセルフレジ(self-service checkouts)の清掃・消毒、従業員の利用と業務変更の間の清掃・消毒を含め、全ての作業面を清掃・消毒する。

(i)ホットバー、サラダバー、ビュッフェスタイルのステーションなど全ての飲食物のセルフサービス・ステーションの利用を中止する。ただし、野菜売り場(Whole produce)はこれに含まれない。

(j)食品を素手で触るのを最小限に抑え、掲示によって顧客が購入を予定している商品だけに触ることを奨励する。

(k)従業員と顧客の幸福と健康(Wellbeing)を保障するために、その他のソーシャル・ディスタンシングと消毒の手順を実施する。

(2)食品小売業者(Retail Food Sellers)はまた、労働者のために以下を実施しなければならない。

(a)全従業員に、病気の場合は出勤しないこと、適用される有給休暇の規定、および、ソーシャル・ディスタンシングの手順を伝える。

(b)従業員がシフトに入る前に症状を確認し、シフト前またはシフト中に咳、発熱、鼻水などの風邪やインフルエンザに似た症状が現れた従業員を外す。

(c)全従業員のワークステーションを少なくとも6フィート離す。

(d)1日あたり50人を越える顧客がレジを通る場合、レジの顧客と従業員にプレキシガラスまたはプラスチック製の仕切りを、2020年4月20日までに設置する。

(e)可能なら、補充用の通路を閉じる(Close aisles being restocked)。

(f)可能であれば、他の人と濃厚接触する可能性のある全ての従業員に、手袋、布マスクまたはサージカルマスク(医療用マスク)を提供し、安全な利用方法を指示する。全ての手袋とマスクは事業者が調達するものとする。

(g)従業員または従業員の家族が新型コロナウイルス感染症と診断された場合は、直ちに担当者に連絡することを義務付ける。

(h)従業員が新型コロナウイルス感染症と診断された場合、影響を受けた従業員に自己隔離(Self-quarantine)と消毒を求める手順を実施する。

(i)新型コロナウイルス感染症が陽性だと診断された従業員には、職場復帰が承認されたことを示す医療専門家からの書面を上司に提出することを義務付ける。

ファーマーズ・マーケットとフィッシュ・マーケットの要件

(1)ファーマーズ・マーケットやフィッシュ・マーケットは、認可されていない限り運営できない。

(2)認可を得るためには、マーケットの管理者はDC政府に計画書を提出して、どのように運営するか、ソーシャル・ディスタンシングの手順を実施するかの概要を説明した上で、その計画が承認されなければならない。

(3)計画には以下を含める必要がある。

(a)マーケットでの人数制限とペットの禁止。

(b)以下によって構成される、包装済の持ち帰り用の食事(Grab and Go)の購入のみを可能する限定的な運営。

  • i)あらかじめ包装された商品の定価販売
  • ii)顧客が販売者(Vendor)間で移動しないために、カウンターやブースの数の制限
  • iii)予約した商品の受け取り

(c)電話やオンラインによる注文システムの作成。

(d)以下に準拠するように調整された運営。

  • i)石鹸、ハンドサニタイザー(手指消毒剤)、医療用でない布マスクを除き、食品のみを販売する。クラフト、花、食用でない植物などは販売しない。
  • ii)全ての製品をロープ、テーブル、その他の障壁の後ろに置いて、購入前に顧客が商品に触れることを禁止する。
  • iii)顧客にわかりやすいメニューを提供する。
  • iv)現場では一切調理を行わない。

※2020年4月8日付の市長令「Social Distancing Protocols Required for Food Sellers and Requirements for Farmers’ and Fish Market to Operate During Public Health Emergency」の翻訳。

この市長命令は2020年4月9日の00時01分から発効し、故意に違反した事業者は制裁、罰則、罰金、免許の一時停止・失効を含む民事、行政罰に科されることが記されています。


この記事では、ワシントンDCの事例を紹介しましたが、他の州の対応も大きくは変わらないと思われます。メリーランド州における食料品店におけるソーシャル・ディスタンシングの具体例はこちらをご覧ください。