『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

2022年5月31日:「ひがしまち街角広場」の運営最終日

2022年5月31日(火)で、千里ニュータウン新千里東町のコミュニティカフェ「ひがしまち街角広場」が運営を終了しました。オープンは2001年9月30日と全国のコミュニティカフェの中でも早い時期であり、豊中市による半年間の社会実験期間を経て、住民ボランティアによる「自主運営」が続けられてきました。運営場所は、新千里東町近隣センター(商店街)の空き店舗です。

「ひがしまち街角広場」ではコーヒー、紅茶、ジュースなどの飲物が100円の「お気持ち料」で提供されているだけで、プログラムはほとんど行われていません。初代代表の女性は、「ひがしまち街角広場」が必要だと考えた理由を次のように話しています。

「ニュータウンの中には、みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所はありませんでした。そういう場所が欲しいなと思ってたんですけど、なかなかそういう場所を確保することができなかったんです。」

計画された街である千里ニュータウンには、様々な施設が整えられています。集会所にも、スーパーマーケットなどの商店にも、郵便局にも歩いて行くことができる。緑が豊かで公園もたくさんあります。けれども、このような施設だけでは「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」は実現されなかったということです。

まち開きから半世紀以上が経過した千里ニュータウンでは、近年、再開発が進められてきました。新千里東町近隣センターも再開発されることになり、運営場所としてきた空き店舗がなくなることが直接のきっかけとなり、運営終了となりました。

「ひがしまち街角広場」が運営終了となったことで、日常的に過ごしておられた高齢の方々の行き場所はどうなるのだろうか、高齢の方と子どもたちとの日常的な関わりが生まれる代わりの場所は生まれるのだろうかなど考えなければならないことは多いですが、運営終了になっても「ひがしまち街角広場」が実現してきたことの価値はなくなりません。「ひがしまち街角広場」から多くを教わった者として、これからも「ひがしまち街角広場」のことは伝えていきたいと考えています。

地域の場所について、オープン当初の状況が紹介されることは多い反面、運営終了の様子が紹介されることはあまりないと思いますので、運営最終日の様子をご紹介しようと思いました。
ただし、ここでご紹介するように、運営最終日にも多くの人々の出入りがあり、これまでと変わらない「街角」を生み出していると表現するのが相応しい1日になりました。

2022年5月31日

「ひがしまち街角広場」は月曜〜土曜の週6日を基本として運営されてきましたが、運営終了に向けて2021年6月1日から水・木・金曜の週3日に運営日が短縮されました。
2022年1月8日(土)、「ひがしまち街角広場」のスタッフの1人が講師となり、結束バンドを使ったカゴ作り教室が開かれました。この後、ほぼ毎週、運休日にはカゴ作り教室、編物教室が行われるようになりました*1)。
「ひがしまち街角広場」ではこれまでも「写真サークル・あじさい」、「千里竹の会」、「千里グッズの会」(後の「千里ニュータウン研究・情報センター」)、「千里・住まいの学校」など、この場所で出会った人々によっていくつかの地域活動のグループが立ち上げられてきました。新たなグループを生み出すという「ひがしまち街角広場」の姿は、最後まで変わっていません。

2022年5月31日(火)は10〜12時まで編物教室が開かれ、その後、12〜16時までカフェが運営されることになっていました。ところが、編物教室が行われている午前中から高齢の男性が集まり、表のテーブルで飲物を飲みながら、話をしていました。

この男性のグループは「ひがしまち街角広場」で自然発生的に生まれたもので、特に待ち合わせ時間を決めて集まっているわけではないようですが(そのため、グループという表現は適切でないかもしれませんが)、毎日表のテーブルで過ごしておられます。1人の男性は会話はいくらでもある、「1人増え、また、1人増えた」、「ここなくなったらどこ行こうか。千中〔千里中央〕は遠いし」と話されていました。
カフェの時間外に集まる男性に対して、スタッフは時間外だからと言って飲物を出すのを断るのではなく、可能な範囲で柔軟に対応されている。これも「ひがしまち街角広場」の変わらない姿です。

編物教室が終わった後は、1人でやってくる人、5人のグループでやってくる人、バザーの打合せにやってくる東丘校区福祉委員会のメンバー*2)、テニス帰りに休憩に立ち寄る人など、16時まで人の出入りが絶えず、確認できただけでも約40人が立ち寄っていました。
ある女性が、人が多く座る席を探している人がいるのを見かけて「どこか?」〔席をあけようか?〕と声をあげると、スタッフが「どかんでいいやん。最後やねんから」と声をかけたり、表に置いていた丸いテーブルを室内に持ち込んだりする場面もありました。
この日のスタッフは3人でしたが、来訪者が多く忙しい時は以前スタッフをしていた人が飲物を運んだり、表のテーブルに座っていた男性が飲み終えたカップをカウンターに戻したり、逆に来訪者が少ない時はスタッフが来訪者と一緒のテーブルに座って話をしたりと、スタッフと来訪者の関係が緩やかであることも、オープンからずっと変わっていません。

飲み物を何杯も注文する人、午前と午後の2回やって来る人、長時間(3〜4時間)滞在する人もいます。1人でやって来た来訪者の中には、他の人が座っているテーブルに座ることで、会話の輪が自然に大きくなっていきます。途中で席を移動して会話の集まりが変化していったり、別のテーブルの人に声をかけたり(テーブル越しの会話)する人もいます。このような来訪者の過ごし方は、通常のカフェとは少し違うと感じます。
もちろん、1人でやって来た人が、1人でテーブルに座ることもあります。ただし、スタッフに飲物を注文することを含めれば、誰とも話さずに帰る人はいません。

この日は運営最終日だったため、明日からどうしようという会話を何度も耳にしました。「明日からどないなんねん?」と言う男性に対して、「みんな行くとこないもんねぇ」と返す女性。ある女性は、「電話かけて」と別の女性に電話番号を書いた紙を渡しているのも見かけました。表のテーブルに座っている男性は、喫煙できて過ごせる場所はどこだろうかと話されていました。


運営最終日の2日後(2022年6月2日)、備品を片付けるため「ひがしまち街角広場」を訪れたところ、近隣センター北西角の広場のベンチに、いつも表のテーブルに座っていた男性4人が座っておられるのを見かけました。

「ひがしまち街角広場」は、約21年半という長い年月にわたって「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」を実現してきました。
この期間に千里ニュータウンは再開発が行われ、建物は徐々に新しくなってきました。けれども、施設を整えるだけでは「みんなが何となくふらっと集まって喋れる、ゆっくり過ごせる場所」は実現されないという地域の状況は変わっていないのではない。近隣センター北西角の広場のベンチに集まる男性の姿を見て、このようなことを思いました。この広場も、近隣センターの再開発の工事が始まれば立ち入りができなくなってしまいます。

「ひがしまち街角広場」が運営終了した出来事は、個人個人によって(プライベートなかたちで)開かれるパブリックな場所はどのようにして維持されるのがいいのか? という大きな問題提起をしていると考えています。
なお、補足をすると、「ひがしまち街角広場」は豊中市による半年間の社会実験終了後は、住民による「自主運営」がされてきました。そのため、スタッフは運営終了に際して、地域の組織や行政に何らかの陳情をすることはありませんでした。ここにも、「ひがしまち街角広場」は豊中市の社会実験によって生まれましたが、今はもう自分たちの場所になっているという思いが現れていると感じます。


  • 1)編物教室は、「ひがしまち街角広場」の運営が終了することから、会場を変えて続けられるという話が出されている。
  • 2)2022年6月6日~10日に、「ひがしまち街角広場」で用いていた備品、東丘校区社会福祉委員会(新千里東町の地域社会福祉協議会)の配食・ふれあいサロンで用いていた備品の合同バザーが開催される予定である。東丘校区社会福祉委員会は、旧近隣センターの東町会館の厨房を用いて委員手作りのお弁当の配食を行ってきたが、近隣センターの再開発とあわせて委員によるお弁当作りを中止し、注文したお弁当の配食へと、配食の方法が変更になる。調理器具などが不要になるため、「ひがしまち街角広場」の備品とあわせて合同バザーが開かれることになった。