『わたしの居場所、このまちの。:制度の外側と内側から見る第三の場所』(水曜社, 2021年)のご案内

居場所:公民館や集会所の貸しスペースとの違い

近年、各地に開かれている居場所(コミュニティ・カフェ)では自らがカフェや食堂を運営したり、様々なプログラムを提供するだけでなく、他の団体や個人に活動場所を提供することも行われています。これによって地域で何かしたいという個人や団体の思いを具現化するサポートをすると同時に、居場所にとっても、自分たちで担えない機能が生まれることで、結果として居場所が多機能化していくという側面があります。

例えば、大阪府千里ニュータウンの「ひがしまち街角広場」、岩手県大船渡市の「居場所ハウス」では次のような例が見られます(既に終了している活動も含まれる)。

ひがしまち街角広場

  • 赤ちゃんからのESDによる「陶器とりかえ隊」:家庭で不要になった陶器を交換する
  • NPO法人・千里住まいの学校による「街角土曜ブランチ」:大学への留学生の出身国の話を聞く集まり
  • 千里竹の会による竹炭・竹酢液の販売
  • 千里グッズの会(千里ニュータウン研究・情報センター)による千里ニュータウンの絵葉書の販売
  • 地域の小中学校による学校通信の掲示:子どものいない家庭にも学校の情報を伝える など

(陶器とりかえ隊)

(街角土曜ブランチ)

(掲示された小中学校の学校通信)

居場所ハウス

  • 一般社団法人・子どものエンパワメントいわて「学びの部屋」(学びの時間):子どもたちの自学自習の場所
  • NPO法人・おはなしころりんによる「移動こども図書館」:図書の貸し出し
  • NPO法人・大船渡共生まちづくりの会による「碁石サロン」:末崎町碁石地区の人々の集まり
  • 地域の公民館による子ども会
  • 末崎中学校ソフトテニス部による「三送会」(三年生を送る会)
  • 地域住民による歌声喫茶
  • 地域住民による委託販売コーナーへの手芸品や工芸品の出品 など

(移動こども図書館)

(碁石サロン)

(歌声喫茶)


このような例をみると、「ひがしまち街角広場」も「居場所ハウス」も地域で単独で運営されているのではなく、多くの団体や個人と連携して運営されていることがわかります。

しかし、こうした連携は公民館や集会所などの貸しスペース、つまり、利用する人が鍵を開け、利用後は後片付け・戸締りをして帰ることが求められるスペースと次の2つの点で異なります。

1つは、「ひがしまち街角広場」はカフェ、「居場所ハウス」はカフェと食堂の運営がベースで日常的に地域の人々が出入りするため、活動が多くの人々の目に触れる可能性があること。これにより、関係者以外は出入りしない貸しスペースでは行えない活動を行うことが可能となっています。
例えば、「ひがしまち街角広場」での「陶器とりかえ隊」、竹炭・竹酢液や絵葉書の販売、学校通信の掲示、「居場所ハウス」での「移動こども図書館」、委託販売コーナーへの出品がこれに相当します。

もう1つは、カフェや食堂という日常の場所が運営のベースになっているからこそ、活動する人は鍵の開閉は不要であり、また、自らで飲食を準備することが不要であり活動のためのハードルを下げる効果があること。実際に、「居場所ハウス」での「碁石サロン」は当初、碁石コミュニティセンターで開かれていましたが、準備が大変ということで「居場所ハウス」に会場を移して開かれています。この他にも、「ひがしまち街角広場」での「街角土曜ブランチ」、「居場所ハウス」での歌御喫茶や「三送会」も飲物や食事を注文しています。

特定の人々を対象とする会議などは、公民館や集会所など貸しスペースの方が好ましい場合もあるため、どちらが良い悪いの話ではありません。重要なのは、地域には性質の異なるスペースが必要であること。これも地域に居場所があることの意味であり、繰り返しになりますが、これは居場所が日常の場所が運営のベースになっているからこそ実現されていることです。