イギリスでは1946年にニュータウン法が制定され、ニュータウン建設が進められていきます。
ブラックネル(Bracknell)は第1期のニュータウンの1つで、1949年6月17日にニュータウンに指定されました。
ブラックネルはロンドンの南西、約30kmに位置しています。ニュータウン指定時点で、この地域の人口は5,000人でした。ニュータウンとしての当初の計画人口は25,000人でしたが、1961年から1962年に計画人口が60,000人に改定されました。指定区域は、当初の計画より拡大され、約1,200haに改定されました*1)。
ブラックネルは、近隣住区が導入され、最終的に10の近隣住区が開発*2)。それぞれの近隣住区には、店舗、パブ、小学校、教会の建設用地が整備されました*3)。
ブラックネルは、計画人口が上方に改定されており、イギリスで最も成功したニュータウン、最も繁栄しているニュータウンの1つと言われることがあります*4)。
なお、改定後の約1,200haという面積は、千里ニュータウンの開発面積1,160haとほぼ同じ面積となっています。
2025年3月にブラックネルを訪れる機会がありましたので、町の様子をご紹介します。
ブラックネル駅
ブラックネルは、ロンドンの南西、約30kmに位置しており、ロンドンのターミナル駅の1つ、ウォータールー駅からブラックネル駅(Bracknell Station)まで約1時間で到着します。ブラックネル駅は相対式ホーム(対面式ホーム)の小さな駅で、北側に1ヶ所、改札口があります。ホームの南西には、集合住宅と思われる高層の建物の建設工事が行われているのを見かけました。
駅の正面にはパブ(Market Inn Bracknell)。その奥にはバスターミナがあり、道路(ザ・リング/The Ring)の向こうにはタウンセンターが見えます。
ブラックネルを歩いて、歩行車線道路と自動車専用道路による歩車分離が徹底されているという印象を受けました。駅から、マーケット・ストリート(Market St)の下を潜るように歩行者専用道路が通されています。歩行者専用道路はバスターミナルの脇を通り抜けて、ザ・リング(The Ring)の下を潜り、タウンセンターにつながっています。
歩行者専用道路が、道路の下を潜るアンダーパス部分には壁画が描かれています。
歩行車線道路は、線路の上をまたぐように(オーバーブリッジで)南にも通っています。この部分には、自転車専用道路が併設されていました。
タウンセンター
歩行者専用道路を歩いて、ザ・リング(The Ring)の下を潜ると、タウンセンターに到着。すぐ右手に、ロイヤル・ブリティッシュ・リージョン(英国在郷軍人会連盟、Royal British Legion)。建物は仮囲いで囲われていました。
ロイヤル・ブリティッシュ・リージョンの北側には教会(St. Joseph’s Catholic Church)。教会前は広場になっており、訪れた時は、野菜、肉、軽食などを販売するマーケットが開かれていました。
大阪府企業局によって開発された千里ニュータウンでは、政教分離の考え方から宗教施設が計画されませんでした。千里ニュータウンの光景を見慣れていると、ブラックネルのタウンセンターに教会があるという光景が新鮮に見えます。
これまでイギリスのいくつかのニュータウンを訪問しましたが、いずれのニュータウンのタウンセンターも、大きな再開発は行われていませんでした。これに対して、ブラックネルのタウンセンターは大きな再開発が行われているという特徴があります。
タウンセンターは、既存市街地を取り込むような形で計画されたものですが、その再開発が3つのフェーズで進められています*5)。
フェーズ1として、2007年に、高級スーパーマーケットと言われるウェイトローズ(Waitrose)がタウンセンターの北西にオープンしました。
フェーズ2として、2017年に、タウンセンターにザ・レキシコン(The Lixicon)がオープン。デパートのフェンウィック(Fenwick)、スーパーマーケットのマーク・アンド・スペンサー(Marks and Spencer)を核店舗とし、70の小売店と飲食店、12スクリーンの映画館、そして、イベントなどで使える6つの広場のある大きな施設です。訪れたのは平日の午前中でしたが、多くの人を見かけました。
ザ・レキシコンは歩行者専用の通りで、自転車、Eスクーターの通行は禁止。ハイ・ストリート(High Street)とブラカン・ウォーク(Braccan Walk)の交差点にあるユニオン・スクエア(Union Square)の一角には、古い建物が保存されていました。
再開発のフェーズ3はこれから進められていきます。
タウンセンターの北東
ブラックネルのタウンセンターを囲むように、大きなラウンドアバウトがいくつか配置されています。ここでご紹介するのはタウンセンターの東に位置するラウンドアバウト。
タウンセンターから続く歩行者専用道路はザ・リング(The Ring)の下を潜り、さらにラウンドアバウトの車道の下を潜っています。歩行者専用道路が車道の下を潜るアンダーパス部分には壁画が描かれています。ラウンドアバウト内には花も植えられており、公園のような場所になっていました。
歩行者専用道路は、ラウンドアバウト内で2つに分岐。北側の歩行者専用道路を歩いていくと、ザ・エルムス・パーク(The Elms Park)という大きな芝生の広場のある公園。犬の散歩をしている人、子どもを遊ばせている人などを見かけました。
ザ・エルムス・パークの北側は低層の住宅地となっています。地図を見ると、いくつかの住宅がクルドサック(袋小路)の道路を囲むように配置されているようですが、公園と住宅の間には柵があり、直接住宅にはアクセスできないようでした。
タウンセンターの西
タウンセンターの西(ウェイトローズの西)にも大きなラウンドアバウト(Western Roundabout)があります。このラウンドアバウトの下には、歩行者専用道路と自転車専用道路が通されています。先ほど訪れたラウンドアバウトと同じく、ラウンドアバウト内は公園のようになっていました。
ラウンドアバウトの南西は、オフィスの集まるビジネス・パークがあります。
タウンセンターの南西
タウンセンターの南西、線路の南にも大きなラウンドアバウトト(Twin Bridge Roundabout)があります。ラウンドアバウトでは、歩行者専用道路と自転車専用道路が十字に交差。交差している部分にはベンチが置かれ、セルフィー(自撮り)のための枠も設置されています。
ラウンドアバウトから歩行者専用道路と自転車専用道路を南に歩いて、ワイルドライディングズ・ロード(Wildridings Rd)を越えたところは低層の住宅地になっています。住宅は連続型住宅で、それぞれの住宅は、車がアクセスする道路と、歩行者専用道路の両方に面するように配置。これによって、歩車分離が実現されていることがわかります。
『ブラックネル・タウンセンター・ビジョン2032』*6)と呼ばれる資料には、ブラックネルは、第1期のニュータウンであるスティヴネイジ、ハーロウと同じように、自動車、歩行者、自転車を分離するという非常に特殊なアプローチを採用している(very particular approach to cars, pedestrians and cyclists)こと、タウンセンターから離れた位置に住宅地と業務地区を配置することでさらなる分離が実現されたが、これによって、ブラックネルは自動車に適した町になったと指摘されています。町が低密度であること、歩行者専用道路と自動車専用道路が車道の下を潜るアンダーパスの安全性への懸念から、徒歩や自転車での移動が魅力的ではなくなっているということです。こうした問題意識から、ブラックネルのタウンセンターをより徒歩や自転車でアクセスしやすいものに変えることが検討されています。
今回、ブラックネルは、半日歩いただけの表面的な印象に過ぎませんが、歩行者専用道路・自動車専用道路のネットワークによって歩車分離が徹底されていること、ラウンドアバウトの中は公園のような気持ちのよい空間になっていることが印象に残っています。実際、歩行者専用道路を歩いている人、自転車専用道路を自転車で通っていく人を何人も見かけました。しかし、この資料によると、歩行者専用道路と自動車専用道路のネットワークは住民にとって、それほど魅力的なものでないとのこと。
この問題に対して、『ブラックネル・タウンセンター・ビジョン2032』では、自転車専用道路に注目されています。ブラックネルのほとんどの住民が、タウンセンターから3km圏内に住んでいること、そして、ブラックネルは計画的に作られた町として既に自転車専用道路のネットワークが整備されていることから、自転車専用道路を再整備する余地があるのではないかということです。具体的には、現在、自動車専用道路は車道とアンダーパスやオーバーブリッジで立体交差しているが、これは自動車中心の考え方であるため、安全なかたちでの平面交差を実現すること、タウンセンターの周辺に駐輪場を整備することなどが検討されているということです。
なお、今回は訪問することができませんでしたが、ブラックネルを含むバークシャー郡(Berkshire county。Royal County of Berkshireとも呼ばれる)には、ロイヤル・バークシャー・アーカイブ(Royal Berkshire Archives)があります*7)。ロイヤル・バークシャー・アーカイブは、ブラックネル開発公社(Bracknell Development Corporation)の資料を引き継いでおり、2024年5~6月にはブラックネルの75周年を記念する企画展を開催しています*8)。
ここでご紹介したように、ブラックネルではタウンセンターの再開発が行われ、今後も自転車専用道路のネットワークの再整備などが計画されていますが、ニュータウンとして開発された貴重な資料が保管、継承されていることも見落としてはならないことだと感じました。
■注
- 1)Royal Berkshire Archives「Bracknell New Town」のページより。ニュータウンの開発公社(Development Corporation)は、1982年3月31日に解散。
- 2)Royal Berkshire Archives「Bracknell New Town」のページより。
- 3)Bracknell Forest Heritage Website「The First ‘Neighbourhoods’ of the New Town」のページより。
- 4)Royal Berkshire Archives「Bracknell New Town」のページには、「Today Bracknell is one of the most successful and is the most prosperous New Town in the UK」との記載がある。
- 5)Bracknell Forest Counsil「Regeneration」のページ。
- 6)Bracknell Forest Council『Bracknell Town Centre Vision 2032』。
- 7)ロイヤル・バークシャー・アーカイブ(Royal Berkshire Archives)は、ブラックネル駅から西に、鉄道で20分ほどの位置にあるレディング駅(Reading Station)の近くにある。
- 8)Royal Berkshire Archives「Bracknell: A New Community – Celebrating 75 years of the New Town」のページ。





















