ニュータウンは歴史がない町だと見なされることがありますが、この表現は正確ではありません。
日本で最初の大規模ニュータウンである千里はまちびらきから半世紀が経過しており、千里には既に半世紀もの暮らしの歴史があると言えます。また、千里ニュータウンは無人の土地が開発されて生まれたわけではありません。ニュータウンが開発される前にも、千里丘陵には人々の暮らしがあり、それはニュータウンの暮らしとも密接に関わっています。
千里に限らず、ニュータウンの歴史を継承しようとする時には次の2つの側面から考える必要があると言えます。
- ニュータウン開発前からその土地にあった暮らしを共有し、継承していくこと
- ニュータウンでの暮らしの蓄積を歴史として共有し、継承していくこと
ここではニュータウンのアーカイブとして、イギリスのミルトン・キーンズの取り組みをご紹介したいと思います。
*以下は2010年に訪問した際の情報をもとにしています。
ミルトン・キーンズは、イギリスで開発された33のニュータウンの中でも最大規模のニュータウンであり(ニュータウンとは区別してニューシティと呼ばれることもある)、ニュータウン指定は1967年で、2007年にまちびらきから40年をむかえました。
計画人口は25万人ですが、人口は増加し続けており、2011年の予想人口は245,750人、2012年の予想人口は284,800人(*Population Bulletin 2011/12, Milton Keynes Council Chief Executive’s Office, 2012)。「英国のニュータウンのうちでもっとも成功したものの一つ」という評価がなされています(馬場健『戦後英国のニュータウン政策』敬文堂, 2003)。
ミルトン・キーンズにはアーカイブにまつわる多様な活動がありますが、ここでご紹介するのはニュータウン開発をきっかけとして立ち上げられた3つのグループ、①ミルトン・キーンズ・シティ・ディスカバリー・センター(MKCDC)、②ミルトン・キーンズ・ミュージアム、③リビング・アーカイブと、リビング・アーカイブが運営する④ディスカバー・ミルトン・キーンズです。
3つのグループは25年~40年と長期にわたって活動を継続しており、いずれもチャリティ団体として登録されています。活動内容は収集した歴史的資料の展示にとどまらず、教育、環境、まちづくりなど多岐にわたっています。
ミルトン・キーンズ・シティ・ディスカバリー・センター(MKCDC)
- 設立年:1987年
- チャリティ団体登録:1987年
- 活動の概要:開発公社から引き継いだニュータウン開発にまつわる資料のアーカイブ。教育プログラムの実施。12世紀の修道院(Bradwell Abbey)の運営
- 2010年度の活動予算[収入/支出]£201,831/£225,760 (30,274千円/34,089千円)
- 活動拠点があるエリア:Bradwell Abbey(1992年〜)
- 開館時間(ライブラリの開館時間):月〜金 9:30〜13:00
- 入場料:無料。ただし、資料のコピー・スキャンは有料
*活動予算は「The regulator for charities in England and Wales」ウェブサイトに記載のデータで、£1 = 150 円で換算。
ミルトン・キーンズ・シティ・ディスカバリー・センターは「Milton Keynes Urban Studies Centre」「Bradwell Abbey Field Centre Trust」の2つのグループが合流して結成されました。ニュータウン開発公社から資料を受け継いでおり、開発公社から引き継いだ資料、地図、書籍、統計など2,000点、写真約30,000枚をライブラリで保管・公開しています。ただし、受け継いだ資料を保管するのみでなく、新聞記事のスクラップや寄贈資料を受け付けることで、現在でも継続的に資料の収集が行われています。また、資料の保管・公開に加えて教育プログラムも行なっています。訪れた時、ちょうど高齢の男性が新聞記事のスクラッブをされていました。1992年からは12世紀の修道院(Bradwell Abbey)の遺跡がある場所を活動拠点としており、修道院を保存・活用する活動も行っています。
ミルトン・キーンズ・ミュージアム
- 設立年:1973年
- チャリティ団体登録:1990年
- 活動の概要:住民グループが、ニュータウン開発により閉鎖した農場や工場の物を収集し始めたことがきっかけとなりオープン。1989年に「Milton Keynes Museum」と改称。
- 2010年度の活動予算[収入/支出]£143,204/£202,319 (21,767千円/30,954千円)
- 活動拠点があるエリア:Wolverton(ニュータウン開発前からの集落があるエリア)
- 開館時間:4月1日〜10月31日は水〜日、11月1日〜3月31日は土・日。11:00〜16:30
- 入場料:大人:£7.50、割引料金:£6.00、家族(大人2人+子ども4人):£22.00
*活動予算は「The regulator for charities in England and Wales」ウェブサイトに記載のデータで、£1 = 150 円で換算。
ミルトン・キーンズ・ミュージアムの展示はミルトン・キーンズがニュータウンとして開発される前の時代に焦点があてられており、農機具、電話などが展示されたり、かつての商店街が再現された空間もあります。
ミルトン・キーンズは、1970年代初めに住民グループがニュータウン開発によって閉鎖された農場や工場の物を収集し始めたことがきっかけとなって設立されました。住民の動きを受け、ニュータウン開発公社が住民グループにコレクションの収集場所として農家・農園(Stacy Hill Farm)の利用を許可。住民グループは長期的な視野でコレクションを収集するため協会(tacey Hill Society)を設立し、コレクションの公開もスタートさせました。市内唯一のミュージアムであり、より幅広い人に訪れてもらうため、1989年にミルトン・キーンズ・ミュージアムと改称しました。オープン以降の運営はボランティアで行われていましたが、1994年、ロンドン動物園に勤務していた男性を最初のフルタイムのディレクターとしてこようしています。
なお、開発公社から利用の許可を受けていた農家・農園の所有権は1989年にニュータウン委員会に、1997年にBorough(行政)に移管されています。
※参考:田中康裕「英国ミルトン・キーンズにおけるアーカイブの概要とその意義:計画住宅地におけるアーカイブに関する研究」・『日本建築学会学術講演梗概集(北海道)』F分冊 pp339-340 2013年8月