2000年頃からコミュニティ・カフェ、地域の茶の間、まちの縁側などの居場所が各地に開かています。近年の高齢社会の進展に伴い、居場所には介護予防の機能を担うことが期待されるようになり、居場所をモデルとする通いの場も開かれてきました。
現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大を受け、運営を自粛したり、行政からの要請で運営を休止したりしている居場所、通いの場もあるようです。そして、居場所や通いの場に行けなくなった人のために、家庭でも、一人でもできる介護予防の方法も提案されています。
しかし、家庭でも、一人でもできる介護予防だけで十分な効果があるとすれば、居場所が不要になるかと言えば、決してそうではありません。なぜなら、居場所は決して介護予防のためだけの場所ではないからです。新型コロナウイルス感染症については予断を許さない状況であり、感染防止のために運営を自粛、休止するのはやむを得ませんが、今回の流行拡大によって、図らずも居場所が介護予防のためだけの場所ではないことの見直しにつながっていくと考えています。
新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、人前でくしゃみや咳をしたり、マスクをせずに外出したりするのが憚られる状況が生じています。「周りの他者はひょっとしたら感染者ではないか?」というような他者への恐怖心が生まれ、それがひいては異質なものの排除へと結びついてしまうことも、新型コロナウイルス感染症が社会にもたらす大きなダメージ。新型コロナウイルス感染症の流行が収束した後に、社会がこのダメージから回復していくうえで、居場所のあり方は大いに参考になると思います。
居場所は、そこを訪れる一人ひとりの要求に対応していく場所であり、人々が知り合ったり、助け合いの関係が築かれたりする場所。つまり、異質なものを受け入れ、媒介していこうとする場所です。社会が新型コロナウイルス感染症によりもたらされたダメージから回復していくうえでは、異質なものを受け入れ、媒介していくという草の根の動きを積み重ねていくことが求められると考えています。